海の想い出

ドッボーン！また落ちた(笑)

何度も波に乗ってはすぐ落ちるJINを砂浜からノンビリ眺めていました。

高校卒業以来、8年ぶりくらいにJINから電話が来ました。

「久しぶり！おさむ元気？あのさぁ海行かない？サーフィンやらない？」

8年ぶりに連絡してきていきなりサーフィン？

まぁJINらしい。

僕はその頃、長年付き合っていた女性にフラれ、暇をもてあましていました。

暇潰しみたいなもので、たまたま仲間内でボディボードを始めていたのです。

サーフィンは難しそうでハードルが高い（笑）

海に行くのが好きだったので、行く理由付けが欲しかっただけかもしれません。

ボディボードはサーフィンに比べ、とりあえずは波に乗れます。

そんな時に、ちょうどJINからの電話でした。

波乗りの朝は早いです。

朝５時過ぎくらいにJINが迎えに来てくれます。

いつもJINが車を出してくれました。

「たまには車出すよ」…と言っても「いいよ。運転するの好きだし」と言ってくれました。

朝は苦手だし、男のくせに助手席が好きな僕は簡単に甘えました。

車中では、当時JINが気に入っていたイタロハウスがBGMです。

ちょっとチープでいじり過ぎてない音が心地よいのです。

抑揚のない一定のリズムが、ゆったりゆったり眠りに誘う。

僕は海に着くまで、ほぼ毎回寝てしまうのです。

ふと目を覚ます。

それに気づいたJINは「ん」とコンビニ袋に入ったサンドイッチと飲み物を渡してくれます。

僕が寝ている間に買ってくれているのです。

当たり前のように「ん」と僕は受け取る。

こんなところが、多くの女を口説き落とせるのかな？と今では感じます。

僕が女なら、こういう男を好きになってしまうのかもしれないです。たとえ女好きと分かっていても（笑）

JINは自他共に認める女好きでした。

JINがサーフィンを始めたのは女にモテる為です。

「サーフィンやってるとか言えるとカッコよくない？」と屈託なく笑って言う。正直な男です。そういうの嫌いじゃないです。

JINは一緒に居て楽な男でした。

話していても会話がスマート。独りよがりに話す事もなく、聞き役に徹するわけでもない。

話していなくても沈黙が重くならない。

空気により話し手になり、聞き手になり、そして黙る事もできる。

今思うと、なかなか高等なコミュニケーション術だった。

たぶん…女を口説き落とすのが趣味…と言うかライフワーク？みたいな男。

違っていたらゴメンよJIN（笑）

でもそうだよね？（笑）

女にモテるためには、男にも信頼されなくてはいけない。

男友達が少ない男は、いくら容姿がよくてもモテなさそうだ。

女にモテたきゃ、男にもモテなくてはいけない。

そこまで考えていたかどうかは知らないが、今振り返るとイイ男でした。

その1年は、春から秋にかけて何度も２人で海に出かけて波乗りに励みました。

暇つぶしで始めたボディボードでしたが、大きな波に乗れた快感は、なかなかのアドレナリンが出ました。

「女にモテるため」に始めたわりには、かなり真剣に波乗りしていたJIN。

更に女にモテるためのJINと、女にフラれて暇つぶしの僕。

冬に入るくらいに、僕は行かなくなりました。

そもそも暇つぶし程度だったので、冷たい海に入る根性まではありませんでした（笑）

そして何となくお互い連絡はせず、それから５年くらい経ったでしょうか。

３０歳を軽く越えていました。

JINから電話がきました。

「おう！久しぶり！オレ結婚するんだよ」

「ええっ！！！JINがぁ！！！」

とても結婚するようなタイプには見えなかったので意外でした。

「ああ…十分遊びつくしたよ」

遊びつくしたとはっきり言うところが憎めない。

まぁ…恨んでいる女性もいるかもしれませんが💦

最後に交わした言葉は「遊びつくした」と、しょうもない男の言葉でした。

それからまた月日が経ち、別の友人から電話がきました。

「おう！久しぶり！聞いてるかん？JIN死んじゃったよ。」

「………………はっ？死んだ？」

JINは４０歳間近で亡くなりました。ガンでした。

何も知りませんでした。

僕は結婚やら、独立開業やらで、しばらく友人関係は音沙汰が無くなっていました。

JINはJINで自分の新しい生活。そして、そもそも交友関係が僕とは違いハンパなく多い男でした。

葬式はプチ同窓会のようになりました。

たくさんの友人がかけつけました。

「おう！元気？」何故か笑顔が多い。

少なくとも僕たち友人は笑顔だ。

葬式が終え、久しぶりだからと集まった友人たちとファミレスへ。

JINの想い出話しをしては大笑い！

いつも髪型を気にしては「おかしくない？」と言っていた事。

修学旅行で寝ているJINにスナック菓子を口に入れてイタズラした事。

口説きが失敗でブツブツ1人反省会していた事。

次から次へとJINの話しが出ては大笑いです。

さりげない気遣いができるスマートなJIN。

JINだからこそ、みんなは泣いたりしなかったのかもしれない。

僕も今だにJINが死んで泣いた事はないのです。

はたから見たら、なんて薄情な友人関係に見えるかもしれません。

だけど違うのです。友人だからこそ笑って送ってあげたいのです。

短い人生だったかもしれませんが、JINは十分納得いくように天寿を全うしました。

きっとそうだと信じています。

ただ…なんだかよく思い出します。

人間だから嫌なところだってあるはずですが、想い出というものは全てを綺麗にしてくれます。

神様が与えてくれた都合のいい脳の仕組みなのだろうか？

JINはとてもイイ男でした。うん。イイ男でした。

2011年の震災により、津波は恐ろしく、海に対するイメージが変わりました。

それと同時に、JINが何度も海に落ちては泥臭くボードに這い上がってる光景が蘇えります。

深い話しが似合わない男。

バブルの空気感そのままの男。

女大好きを公言していた男。

僕とは全く違うタイプですが、素直で正直でバカなところが、一緒にいてとても心地よかったです。

いつか僕もあちらに行きます。

JINは「ん」と冷えたビールで迎えてくれるだろうか。

いや…キザなJINはワインかな。

今でもイタロハウスを聴きながら、カッコつけているのだろうか（笑）

道をひらくセラピスト　中和田收ナカワダオサム

http://grinblue.jimdo.com/

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