死に目には会えなかった。いろいろなことが錯綜して。
76年間の彼の人生はどんなもんだったんだろうか。
正直、腹を割って話したことはなかったかな。
小心者で凡庸な男だった。社会的には一生ひらサラリーマンだったようだ。
母が『稼ぎが少ない』ってよく子供の前で平然とバカにしてたっけ。
彼のDNAは(気弱な気質)色濃く俺が受け継いでしまっている。兄弟三人ともか。
結局孫の顔を見ることなく死んだのか。
飯食いながらウラおばあちゃんに叱責していたっけなぁ。
正直、一報を聞いても涙が出てこない。このあと酒飲んで泣けてくるのか。
カーチャンが死んだら、足しげく帰郷してやろうと思っていたのに…。
なんだろう、世界で2番目に俺のことを愛していてくれた人の死なのに、涙が出てこない。
このあとじわじわくるものなのか。それとも俺がある意味で線引きをしていたのか。
あしたはさすがに帰る。
もうちょっと本音で話しておけばよかったな。でもお互いの性格からしてそれはなかったか。
おれのことを君呼びで呼んでたっけな。
白馬八方尾根に二人でスキー行ったっけな。バスの時間に俺がいなくて怒られたっけ。
泳ぎにも行った。水中メガネごねてたら買ってくれたっけ。
でも結局駆けつけられなかったと思う。
16日は誰とも連絡が取れず、17日は沙織ちゃんとの約束が、18日はもっちのそばにいてやらなくちゃいけなかったし…。
親父にはカーチャンと長兄次兄が付き添ってやれてたが、もっちが頼れるのは実の両親ではなく、この俺ひとりだし…。
後悔はしてない。もっちには俺しか頼れる人はいないんだし。
なんでだろう、実の父が死んだのに、怖いくらい冷静でいる俺って…。
あした帰郷したら、その場の雰囲気で泣けてくるのかな。
さよなら、お父さん。