わたしです。藤村です。さて、後編です。
今回は日本の留学生受け入れ政策についてです。まとめまで書いたので、だいぶ長くなってしまいましたけどゆるしてね。

日本の受け入れ政策について議論するとき、無くして語れない二つの政策があります。
①留学生10万人計画
1983年、中曽根政権下で開始。2000年までに受け入れ10万人を目指し、2003年に数字上は達成。
②留学生30万人計画
2008年、福田政権下で開始。2020年までに受け入れ30万人を目指す。

今は留学生30万人計画の中で、留学生数が増やされているという事です。

1.留学生の数の推移
そんな留学生数を表にしてみると面白いもので、こんな感じになります。

 

最初に言っておきたいのですが、なんか2011年からカウントの仕方を変えましたね。高等教育(大学とか)に在籍していない留学生もカウントに入れ始めたようです。


で、2011年から私費留学生の数が急に伸び始め、留学生総数は2017年に267,042人。高等教育在籍者は188,384人とのことです。
(これには専修学校生とかを6万人くらい含みます。前々回の記事で、学部生・大学院生併せて12万人くらいと書いたのですが、それらを合わせた数と考えてくれてもいいです)

カウントの仕方を変えたのは、日本語教育機関に在籍する数も入れたからという事です。
日本語教育機関、つまり日本語学校。「日本人の知らない日本語」という漫画でも有名になったのではないでしょうか。
2010年、その在留資格が「留学」となったということです。
簡単に言うと、高等教育機関に在籍するのは「留学」、それ以外の学校は「就学」だったのが、「留学」に一本化されたということです。資格は変わったのですが、あんまり、扱いに変わりはありません。

結論として今のカウントでは、高等教育機関以外の在籍者も留学生総数にカウントしてしまっているという事で。
本来的な意味での留学生受け入れ30万人計画は、高等教育在籍者の30万人計画という事なのですが、いいんでしょうか?
(逆に言えば、日本語学校もカウントに入れないと、2020年までの30万人というのは達成が困難なわけですが。)
日本語教育機関在籍者も含めた総数をもって、留学生数とする記事も増えています。産経様が仰るなら間違いねえな。

カウントのことばかり書いているわけにはいかないので取り敢えずカウントについてはここまで。ですが、留学生数と日本語学校政策というのは密接なかかわりがあるので、頭にとめておいてくだされ。

2.留学生10万人計画
1983年、中曽根政権下で、留学生を1万人(当時)から10万人まで増やそうという計画が立てられました。
戦略としては、前回見たようなモデルで言うと、「外交戦略モデル」や、アジアへの「途上国支援モデル」としての性格を持っていたのと、少子化による若者人口減少を補う目的、バブル好景気による人材不足を解消する目論見等がありました。

当時、法務省から留学生のアルバイトのOKも出て、日本語学校も多く設立され、そこに通う留学生たちはアルバイトしながら大学進学へ学ぶという光景が想定されていたようです。
が、その実、日本語学校の許認可は甘く、就労目的で滞在する留学生や、悪質なブローカーもおり、「上海事件」が起こり、と、様々な混乱が起きたということです。
ともかく、1993年頃には留学生数が(1万→)5万人にまで増えます。



しかし1990年頃から留学生数の伸びは5万人くらいで一度ストップします。(1993年~1999年頃)
1998年の文部省「留学生政策懇談会」では、この背景として、生活コストの高さ、大学レベルの不十分さ、バブルの崩壊などを挙げていますが・・・はて。

 



ですがですが、2000年頃から、また留学生数が急増しているのが見えます。文部省は大学審議会が答申「21世紀の大学像と今後の改革方策について」を発出するなどして、改めて10万人達成に発破をかけます。
そして、入国管理政策としては、申請書と写真のみで在留資格認定書を発行するという規制緩和を行ないました。
おいおいゆるゆるやんけ。これが功を奏して留学生数は急増。こうして、「留学生10万人計画」自体、数字上達成される次第となります。


それでもすぐに、不法滞在、私立短大の留学生による定員埋め合わせ等々を背景に、入国審査は再び厳格化。2004年頃から、再び留学生数はストップします。

ちょっと、一旦ここで立ち止まりましょう。
この間、留学生数が増えたとか、増えるのがストップした、とかありましたが、それらは文部省などの戦略によるものもあるのでしょうが、入国管理を厳しくしたか、緩和したかという要因が大きく効いていました。

3.留学生30万人計画
2000年台後半から、留学生数は伸び悩んでいましたが、その後様々に戦略が打ち出されます。2008年には福田総理のもと、「留学生30万人計画」が発出。文科省のみならず、6省共同でまとめられました。

30万人という数字はどこから来たのか?って言うと、2020年までに世界の留学生が600万人になるだろう、そしてその5%のシェアを保っていたいので30万人。(実際には450万人くらいで伸びがストップしてるのですが)あと、日本の学生の1割を留学生にしたいので30万人。今日本の学生数は280万人くらいなので、まあ、そんなもんっすね。

さて、「30万人計画」の目的はなんでしょう。どんなモデルを取っていると言えるでしょう?色んな文書から特徴を抽象してみましょう。

「教育再生会議第2次報告書(2007年6月)」:「大学の国際化」「外交政策として留学生政策を」
「留学生30万人計画骨子(2008年7月)」:「優秀な留学生を獲得」「知的国際貢献」「高度人材受け入れ」
「世界の成長を取り込むための外国人留学生受け入れ戦略(2013年12月)」:「諸外国の成長を取り込み日本の更なる発展」

「日本再興戦略(2013年6月)」:「優秀な外国人留学生を受け入れ」「留学生を日本国内で就職させる」

「日本再興戦略2016(2016年6月)」:「留学生の就職支援」「就職率を3割から5割へ」

「高等教育機関における外国人留学生の受入推進に関する有識者会議(2017年8月)」:「途上国などの人材育成を通じた二国間関係強化」「国際競争力」「大学の国際化」
 

・・・いろんなキーワードが並んでるぞい・・・
色んなモデルのごった煮感がするぞい・・・・

とごねず、咀嚼して解釈して、モデルを見出してきましょう。
これまで「途上国支援モデル」の性格を持っていたが、外国から高度な人材を受け入れ、国内で就職させる、「高度人材獲得モデル」を取り入れていきたい、的な戦略です。それも、2008年以降(むしろ第二次安倍政権下)に、徐々にその性格を帯びてきたという事でしょうか。
「高度人材獲得モデル」のおさらいですが、産業界主導で(官邸主導というのはつまり産業界主導のようなものです)他国から優秀な人材を受け入れ、国内に定着してもらうということです。
(一方もちろん、他のモデルの性格もあり、同床異夢感もあります。あくまで、「高度人材獲得モデル」の性格を強めつつある、という考えです。)

4.表題に戻ります
まとめですが、日本の留学生受け入れ戦略は今、「高度人材獲得モデル」としての性格を強めつつあるという事です。

現在、大学学部・大学院を卒業した外国人留学生は、6割以上が日本での就職を希望しながら、就職率は3割~4割に留まる、ので、それをまずは5割に上げたい、というのが今言われていることです。→こちらとかこちらも参照してみてください。

 

ただ勘違いしないでほしいのですが、「高度人材獲得モデル」的な政策目標を掲げていても、その中身とは必ずしも一致しない、いわゆる「アクセルとブレーキを同時に踏んだ」現象が起こるのがこういう世界です。その実をしっかり検証しなくてはなりません。

ここで表題に戻ると、では現在の留学生の経済支援は適切でしょうか?

陳腐化している、不適切だという議論もありますが、さて。いくつかの側面から見てみましょう。

 

5.国費留学生という側面

私は、国費留学生制度に大きな問題があるとはあまり思いません。

「高度人材獲得モデル」は性格上、他国の優秀な学生に来てもらうという戦略であり、整合性もあります。

規模については、「日本の国費留学生制度は他国より枠が大きい」論もありますが、そこまで突出はしていないのと、

それでその実、例えば中退が多いとか問題だらけならともかく、ポジティブレポートが多くあります。これとかこれとかそれとかも。外国人留学生のネガティブニュースが多い中なのに。

 

6.私費留学生という側面

問題は、私費留学生です。

「学習奨励費」も取れない、8割の留学生は仕送りとアルバイトによって生計を立てる必要に駆られます。

日本の学生はまだ貸与型奨学金という選択肢もありますが、それも封じられています。

 

さらにもう一つ壁があります。「留学」のビザでは、週28時間しか働けないという壁です。

この規制の目的は、そりゃあキミ、留学目的で来ているのに、働いてばかりじゃ駄目だろう、ということです。

この規制がどれくらいちゃんと適用されているかというと、うーん、、、これ(週55時間)とかこれとかあって、ザルな印象もありますけど。

 

しかし、それだけのアルバイト時間では、学費と生活費を稼ぐには難しいという事、本当に週28時間近く働くとそれでも学業への支障が大きいという事です。それで本当に、高度人材として育っていけるのかというと疑問の大きなところです。

「高度人材獲得モデル」は「途上国支援モデル」よりも、より一層、大学での学業・研究に集中してもらいたいという性格を強く持ちます。

 

もちろんこれは、日本人学生についても同様で、バイトにばかり集中することには疑義を持つべきなのですが。

 

6.私立大学という側面

私は割と、無計画に数字上大学生の数字が増えることには渋い顔です。

これまで私立大学というものの性格について書いてきましたが、無計画に学生が増えるのは、私立大学にとって定員を満たすための延命策として働くという事です。

とは言えあまりデータも研究考察も持っていないので、これについてはこのくらいで。

 

7.まとめます

①留学生の数的拡大には慎重であるべきです。

私は、留学生の質的拡大には賛成したいところです。

「高度人材獲得モデル」への転換を進めることも、まあ、いいのではないでしょうか。

ですが30万という数字には根拠を持っていられるでしょうか?特に歴史的には、戦略主導というより入国審査の規制緩和主導の留学生数拡大があったはずです。そのような形での数的拡大には慎重であるべきです。

(カウントの仕方を変えて、それで30万人達成というなら、それもいいかもしれないとか思っちゃったりして。)

 

②私費留学生の経済支援は特に乏しすぎます。

問題は、私費留学生です(二回目)。

現在の生活費、学費を(特に週28時間までのバイトで)賄える国ではありません。

長時間バイト前提の制度は政策において目指されている、「高度人材獲得モデル」とも矛盾を抱えるものです。

しかし同時に、これは学生全体における高学費負担問題とも表裏一体です。広く薄くの学費値下げ、授業料負担軽減が必要です。

 

③そして、表題に対する私の結論ですが、

別に、外国人留学生は優遇されていません。

エリート層の上澄みの上澄みである国費留学生制度も、国費を投じる意義があるのではないでしょうか。

全体の8割の私費留学生が、貸与型奨学金も使えないような貧困にあります。日本人学生以上にアルバイト時間が多いというデータもあり、ここに「優遇されている」印象など持ちようもありません。