エイプリルフールです。藤村です。
さて、後編、と言いたいところですが、その前に中編ということで、留学生のグローバルスタンダードを覗きながら、留学生受け入れ戦略を整理したいと思います。
よくネット上で、「他の国では留学生に授業料を全部出させているのに云々」という流言も飛語しています。
2014年の数字ではこの世界には450万人の留学生がいるとのことですが、さて、他の国では、どんな留学生受け入れ戦略をしているのでしょう。
出典:OECDインディケータ、横田、白土、「留学生アドバイジング」(2004)
(1)受け入れ大国アメリカ
アメリカは全世界のの16%、約72万人を受け入れています。とはいっても、アメリカは高等教育在籍者数が多いので、留学生の割合はそこまで大きくありません。
アメリカは1946年の「フルブライト法」以来、留学生の受け入れを推奨してきました。50年で250万の学生を受け入れ、優秀な人材を輩出してきたとのことです。
その戦略は、元となったした下院議員フルブライト氏曰く「広島・長崎の惨禍を見たうえで、戦争を防ぐために国際関係を人間化する」とのこと。これは「平和祈念モデル」と呼ばれています。
また、これを通じて世界中にアメリカとのコネクトを持つ人材をリーダーにさせることで、将来の経済・学術などの交流を有利に進めたいという「外交戦略モデル」としての性格も持っていたということです。
(2)イギリスのコスト・ベネフィット論
第2の受け入れ大国はイギリス。現在全世界の13%、約58万人を受け入れています。高等教育在籍者の中での留学生のウエイトも大きいものです。
ヨーロッパの留学生受け入れが本格化したのは、1960年~70年台以降でした。当初は、旧植民地から留学生を受け入れる形で途上国を支援する、「途上国援助モデル」と言うべき戦略をとっていました。
しかしサッチャー政権下、留学生の教育についてコスト・ベネフィットの計算を行うと、留学生教育は経済的利益をあげられる、「産業」として見られることが分かりました。そして留学生から授業料を徴収する「フルコスト政策」が取られることとなったのです。
これは、イギリスへの留学という「商品?」を購入する顧客として捉えるということで、「顧客モデル」とかと呼ばれます。
その後の戦略についても面白いので、これなんかを読んでみてください。
(3)産業主導で高度人材を獲得するモデル
90年代以降、先進国では産業主導で、海外から高度人材を獲得したいという動きが出ています。
途上国側としては学生を先進国へ送り出し、高度人材となって帰ってきてもらいたい。
先進国としては優秀な人材に来てもらい、できたら定着してもらったらいい、と。これは「高度人材獲得モデル」とかと呼ばれます。
(4)さて、これら戦略を一般化してみましょう。
留学生受け入れには、次の3つの戦略軸があります。
(a)教育資金を受け入れ国が出すか、留学生に出させるか
(b)極めて優秀な人材を受け入れるのか、そこまで拘らないか
(c)卒業後、その留学生に、受け入れ国に残ってもらうか、そこには拘らないか
(a)教育資金を受け入れ国が出すか、留学生に出させるか
アメリカの「外交戦略モデル」は割と教育資金を出すもので、優秀な学生たち目線でも、教育資金を受け入れ国が出してくれるという方が、明らかに留学へのインセンティブになります。
むしろ留学資金を全て学生に出させるとなれば、留学できるのは一部の富裕層に限られてしまうのですが。
(b)極めて優秀な人材を受け入れるのか、そこまで拘らないか
まあ、できるだけ優秀な人材に来てもらいというのはどんな戦略でも一緒なのですが。
イギリスの戦略は、教育資金を留学生に出させ、かつ、極めて優秀な学生を受け入れることを目指すものでした。
留学生目線では、わざわざお金を出してまでその国に留学するということになるので、相当受け入れ国の教育レベルが高い必要があります。
(c)卒業後、その留学生に、受け入れ国に残ってもらうか、そこには拘らないか
例えばアメリカのフルブライト戦略や「途上国支援モデル」では、割と留学生を自国に戻らせていました。
一方「高度人材獲得モデル」では、受け入れた高度人材に、そのまま自国に残ってもらいますという戦略です。
(5)さーて、じゃあ我らが日本の戦略は?
ない(悲哀)
ない(憐憫)
ない(´・ω・`)
というのは冗談ですが、最近の日本にはあまり戦略がないと指摘されています。
もともとは1984年、中曽根政権下に「留学生10万人計画」が出されたときには、アジアの途上国から留学生を受け入れる、いわゆる「途上国支援モデル」を持っていたとされます。
その後、2000年から入国審査を甘くしたなどのことによって、留学生の数は急増、今はその「10万人」が達成されたということです。
しかしその後、じゃあ途上国支援はどれだけされているのかという評価があんまりされていません。
今は、「留学生30万人計画」により、さらに増やそうという事ですが、その戦略はどんなものでしょうか?
例えばこちら。
優秀な留学生の獲得と、あとはアジアへの援助を目的として挙げています。
うーん?
他にも文科省のこのページ。
「グローバル化等に対応する人材力の強化のため、日本再興戦略及び第2期教育振興基本計画において、外国人留学生を14万人(2012年(平成24年))から2020年(平成32年)までに30万人に倍増させることを目指しています。」
人材力の強化ですと。よくわかんない日本語ですね。
何が言いたいかというと、日本では先に見た、アメリカやイギリスのような明確で特徴的な戦略に乏しいとされているということです。
(6)とりあえず表題に戻ります
それでは、日本において留学生は不当に優遇されているのでしょうか?
グローバルスタンダードの視点からそれを考えろと言われると、どうも難しいと答えざるを得ません。
何故なら、全てはその国の戦略次第だといわざるを得ないからです。
アメリカのフルブライト戦略は優遇しすぎでしょうか?いえいえ、それでも意義が大きいと判断されたんです。
イギリスは不遇にしすぎたでしょうか?いえいえ、それでもリターンが大きいと判断されたんです。
要は戦略次第。それじゃあ、日本の戦略はどうなのか、と言うのは、
詳しくは後編に続きたいと思います。