ご無沙汰しています。藤村です。
お仕事やなんやで忙しかったので、あまりちゃんと更新できていませんでした。
さて、このブログも開設から1年と4か月くらい経過しますが、いまだに人気の根強い記事があります。
「外国人留学生の奨学金は本当に優遇されているのか」です。
短時間でちょこちょこと書いたにしては読まれているので、ここでもう一度情報をアップデートして、も少し丁寧に議論したいと思います。
ネトウヨ忙しい方でもわかるように気を付けますが、情報量も増やしますのでお付き合いください。
それにしても長すぎるので、前編と後編に分けて書きたいと思います。
前編では、できるだけファクトに基づいた数字を整理したいと思います。
(1)留学生の定義
本記事で取り扱う「留学生」を整理したいと思います。
今、日本の大学生は、学部生が255万、院生が25万で合計280万人。
うち留学生は、学部生が8万、院生が4万で、約12万人です。
(文科省調べ)
この記事では、主に学部生・院生の外国人留学生について扱う予定です。
高等専門学校とか専修学校とかは、また別の議論で。
ちなみに、よく問題やなんやと騒がれる留学生の出身国ですが、
中国:55%、韓国:10%と、アジア圏で89%を占めます。ヨーロッパは4.8%、北米は2.2%。
数字上、確かに中国が多い。むしろ欧米が少なすぎやしないかという思いもありますが…
(2)留学生の利用できる奨学金
さて、当然、留学生のみが利用できる奨学制度はあります。代表的なのを3つ挙げますね。
①国費留学生
参考:学生支援機構、Study in Japan
月当たり、学部生レベルで117,000円、大学院生レベルで143,000(非正規生)、145,000円(正規生)
学費および、往復の航空費が支給されます。
年数はそれぞれ、5年(医歯薬などで7年)、2年(正規生なら標準年限=修士2年、博士3年)。
定員はそれぞれ、150名、2500名。
そのほかにも、高等専門学校向けなどいくつか制度があり、延べ定員は年あたり3430名といったところです。
現在は累計で9000人くらいが在籍しているということです。しかしこの数字は少数ですが専修学校留学生なども含みます。
これらの制度のうち、学部・大学院にそれぞれ在籍している数を概算すると、だいがい8000人強といったところになるでしょうか。
つまり、12万人の学部生・院生の留学生のうち、7%が国費留学生だということでしょうかね。
②学生支援機構の私費留学生学習奨励費
月当たり48,000円。支給は1年。募集は8070名(うち学部・大学院レベルは7,370人)で採用人数は未定です。
12万人のうち、6.6%程度といったところでしょうか?
③学生支援機構の海外留学支援制度
これはちょっと性格が異なります。海外の大学に在籍したまま、日本の大学にて交流するのが主眼です。
月当たり80,000円、支給は1年。募集は5000名。
(3)奨学金を受給できる留学生数
ざっくりいうと、12万のうち7%が国費留学生、7%弱が学習奨励費をもらっている私費留学生、交換留学的に来ているのが4%といったところです。
延べ2割といったところですね。
さて、先日、久しぶりに留学生ヘイトの記事を見つけました。
いわく、
-----------
その一方でなんで、なんで外国人留学生の40%以上が何らかの奨学金をもらってんの?
【日本学生支援機構「平成27年度私費外国人留学生生活実態調査概要」】
http://www.jasso.go.jp/about/statistics/ryuj_chosa/h27.html
-----------
とのことです。確かにリンク先のアンケート調査では、「奨学金の受給者は・・・約4割」と書いていますが、
詳しく見てみると、学習奨励費をもらっているのが受給者の58.5%。外国人留学生全体の2割以上ということです。
しかし上記の通り、私費外国人留学生約11万人に対して、学習奨励費は定員8000人。2割もいませんって。
母数もよくわからないもので、要するに、このアンケートの数字自体に大きな偏りがあります。
つまり、外国人留学生のうちそんなに多くが奨学金をもらっているんではないので、落ち着いてねってことです。
一方、前の記事でも紹介した、留学生ヘイトについてよく解説しているwikiですが、
この記事には賛同するものの、数字の誤りがあります。
「上のグラフを見れば分かるように、たとえば平成25(2013)年度の留学生総数が168145人なのに対して国費留学生は3930人(全体の約2.3%ほど)に過ぎません。」という言葉ですが、国費留学生は上述の通り年限が1年以上あるので、年度あたりの国費留学生の数はもう少し多いのです。
(まあこの数字をどうこうしたところで、主張の大筋は変わらないのですが)
(4)留学生は利用できない奨学金
以上のものは留学生向けの奨学金です。では一方、留学生は使えない奨学金もあるのではないでしょうか?
そうです。私たちが何気なく使用している学生支援機構の貸与型奨学金ですが、留学生はその貸与型の奨学金を使えません。
それに、今のところ学生支援機構の給付型奨学金も日本人学生対象のみのようですが…はて。
(5)奨学金まとめ
ここで、留学生の奨学金実態などについて、事実のいくつかの側面を述べます。
①
給付型奨学金が一部に給与されますが、それ以外の8割の留学生については、貸与型も使うことができず、国際的にみても非常に高額な学費を払うこととなります。そう、明らかに日本に落としていくお金が多いのです。
②
留学生は、学部生よりも院生に割と多く所属しています。日本人は学部生:院生の比率が10:1。しかし外国人は2:1。
そう、留学生への支援が乏しいというのは、そもそも大学院生への経済的支援が乏しいという議論に直結しているのです。
(6)留学生の経済実態
以前の記事でも書いたので、その流用です。
留学生の実態調査なんてそんなに多くない(そもそも学生全般においてもそこまで多くない)のですが、日本学生支援機構が私費留学生の実態調査を行っています。こちらによると、
収入源は「「アルバイト」が 2,623 人(57.1%)で 68,000 円、「仕送り」が 2,477 人(53.9%)で 75,000 円、「奨学金」が 1,685人(36.7%)で 57,000 円と続く」としており、多くの留学生がアルバイトで収入をまかなっているようです。
実際アルバイトについて、「74.8%が従事していると」回答し、一週間のアルバイトの時間数は「「週 20 時間以上 25 時間未満」が 1,511 人(33.5%)と最も多く、次いで、「週 15 時間以上 20 時間未満」が 900 人(19.9%)となって」います。
週15~25時間のアルバイトが大きな負担となることは疑問の余地がありません。
ここで別資料ですが、「全国大学院生協議会」の行っているアンケート調査を引用します。
これによると、
週当たりの学外アルバイトの時間について、「週 10 時間以上 15 時間未満」が14.2%、「週 15時間以上 20時間未満」が13.2%と高く、こちらでも多くの留学生が長時間アルバイトに従事していることが報告されています。
また、「私費留学生の、収入の不足や学費の負担が研究に与える影響」について、「院生全体と比べ、「影響はない」と回答した院生は少なく、「アルバイトやTAなどをしなくてはならない」という回答は、院生全体と比べて約10%多かった」とのことです。
さらに「院生全体の19.9%が週10時間以上学外アルバイトに従事していたのに比べ、私費留学生は35.8%」と高く、アルバイトの負担の重さが日本人学生以上のものであると示されています。
(7)まとめ
ここまで、できるだけファクトベースで数字を整理してきました。すでにこの時点で、このネット上に飛び交う流言飛語を論破できてしまうのでしょう。
ただ正直、ここで書いたことも100%の自信があるわけではなく、ここが間違っているよ、数字の読み方が違うよ、とかあったら教えてください。
後編では、もう少し私の主張を交えながら書く予定です。
お仕事やなんやで忙しかったので、あまりちゃんと更新できていませんでした。
さて、このブログも開設から1年と4か月くらい経過しますが、いまだに人気の根強い記事があります。
「外国人留学生の奨学金は本当に優遇されているのか」です。
短時間でちょこちょこと書いたにしては読まれているので、ここでもう一度情報をアップデートして、も少し丁寧に議論したいと思います。
それにしても長すぎるので、前編と後編に分けて書きたいと思います。
前編では、できるだけファクトに基づいた数字を整理したいと思います。
(1)留学生の定義
本記事で取り扱う「留学生」を整理したいと思います。
今、日本の大学生は、学部生が255万、院生が25万で合計280万人。
うち留学生は、学部生が8万、院生が4万で、約12万人です。
(文科省調べ)
この記事では、主に学部生・院生の外国人留学生について扱う予定です。
高等専門学校とか専修学校とかは、また別の議論で。
ちなみに、よく問題やなんやと騒がれる留学生の出身国ですが、
中国:55%、韓国:10%と、アジア圏で89%を占めます。ヨーロッパは4.8%、北米は2.2%。
数字上、確かに中国が多い。むしろ欧米が少なすぎやしないかという思いもありますが…
(2)留学生の利用できる奨学金
さて、当然、留学生のみが利用できる奨学制度はあります。代表的なのを3つ挙げますね。
①国費留学生
参考:学生支援機構、Study in Japan
月当たり、学部生レベルで117,000円、大学院生レベルで143,000(非正規生)、145,000円(正規生)
学費および、往復の航空費が支給されます。
年数はそれぞれ、5年(医歯薬などで7年)、2年(正規生なら標準年限=修士2年、博士3年)。
定員はそれぞれ、150名、2500名。
そのほかにも、高等専門学校向けなどいくつか制度があり、延べ定員は年あたり3430名といったところです。
現在は累計で9000人くらいが在籍しているということです。しかしこの数字は少数ですが専修学校留学生なども含みます。
これらの制度のうち、学部・大学院にそれぞれ在籍している数を概算すると、だいがい8000人強といったところになるでしょうか。
つまり、12万人の学部生・院生の留学生のうち、7%が国費留学生だということでしょうかね。
②学生支援機構の私費留学生学習奨励費
月当たり48,000円。支給は1年。募集は8070名(うち学部・大学院レベルは7,370人)で採用人数は未定です。
12万人のうち、6.6%程度といったところでしょうか?
③学生支援機構の海外留学支援制度
これはちょっと性格が異なります。海外の大学に在籍したまま、日本の大学にて交流するのが主眼です。
月当たり80,000円、支給は1年。募集は5000名。
(3)奨学金を受給できる留学生数
ざっくりいうと、12万のうち7%が国費留学生、7%弱が学習奨励費をもらっている私費留学生、交換留学的に来ているのが4%といったところです。
延べ2割といったところですね。
さて、先日、久しぶりに留学生ヘイトの記事を見つけました。
いわく、
-----------
その一方でなんで、なんで外国人留学生の40%以上が何らかの奨学金をもらってんの?
【日本学生支援機構「平成27年度私費外国人留学生生活実態調査概要」】
http://www.jasso.go.jp/about/statistics/ryuj_chosa/h27.html
-----------
とのことです。確かにリンク先のアンケート調査では、「奨学金の受給者は・・・約4割」と書いていますが、
詳しく見てみると、学習奨励費をもらっているのが受給者の58.5%。外国人留学生全体の2割以上ということです。
しかし上記の通り、私費外国人留学生約11万人に対して、学習奨励費は定員8000人。2割もいませんって。
母数もよくわからないもので、要するに、このアンケートの数字自体に大きな偏りがあります。
つまり、外国人留学生のうちそんなに多くが奨学金をもらっているんではないので、落ち着いてねってことです。
一方、前の記事でも紹介した、留学生ヘイトについてよく解説しているwikiですが、
この記事には賛同するものの、数字の誤りがあります。
「上のグラフを見れば分かるように、たとえば平成25(2013)年度の留学生総数が168145人なのに対して国費留学生は3930人(全体の約2.3%ほど)に過ぎません。」という言葉ですが、国費留学生は上述の通り年限が1年以上あるので、年度あたりの国費留学生の数はもう少し多いのです。
(まあこの数字をどうこうしたところで、主張の大筋は変わらないのですが)
(4)留学生は利用できない奨学金
以上のものは留学生向けの奨学金です。では一方、留学生は使えない奨学金もあるのではないでしょうか?
そうです。私たちが何気なく使用している学生支援機構の貸与型奨学金ですが、留学生はその貸与型の奨学金を使えません。
それに、今のところ学生支援機構の給付型奨学金も日本人学生対象のみのようですが…はて。
(5)奨学金まとめ
ここで、留学生の奨学金実態などについて、事実のいくつかの側面を述べます。
①
給付型奨学金が一部に給与されますが、それ以外の8割の留学生については、貸与型も使うことができず、国際的にみても非常に高額な学費を払うこととなります。そう、明らかに日本に落としていくお金が多いのです。
②
留学生は、学部生よりも院生に割と多く所属しています。日本人は学部生:院生の比率が10:1。しかし外国人は2:1。
そう、留学生への支援が乏しいというのは、そもそも大学院生への経済的支援が乏しいという議論に直結しているのです。
(6)留学生の経済実態
以前の記事でも書いたので、その流用です。
留学生の実態調査なんてそんなに多くない(そもそも学生全般においてもそこまで多くない)のですが、日本学生支援機構が私費留学生の実態調査を行っています。こちらによると、
収入源は「「アルバイト」が 2,623 人(57.1%)で 68,000 円、「仕送り」が 2,477 人(53.9%)で 75,000 円、「奨学金」が 1,685人(36.7%)で 57,000 円と続く」としており、多くの留学生がアルバイトで収入をまかなっているようです。
実際アルバイトについて、「74.8%が従事していると」回答し、一週間のアルバイトの時間数は「「週 20 時間以上 25 時間未満」が 1,511 人(33.5%)と最も多く、次いで、「週 15 時間以上 20 時間未満」が 900 人(19.9%)となって」います。
週15~25時間のアルバイトが大きな負担となることは疑問の余地がありません。
ここで別資料ですが、「全国大学院生協議会」の行っているアンケート調査を引用します。
これによると、
週当たりの学外アルバイトの時間について、「週 10 時間以上 15 時間未満」が14.2%、「週 15時間以上 20時間未満」が13.2%と高く、こちらでも多くの留学生が長時間アルバイトに従事していることが報告されています。
また、「私費留学生の、収入の不足や学費の負担が研究に与える影響」について、「院生全体と比べ、「影響はない」と回答した院生は少なく、「アルバイトやTAなどをしなくてはならない」という回答は、院生全体と比べて約10%多かった」とのことです。
さらに「院生全体の19.9%が週10時間以上学外アルバイトに従事していたのに比べ、私費留学生は35.8%」と高く、アルバイトの負担の重さが日本人学生以上のものであると示されています。
(7)まとめ
ここまで、できるだけファクトベースで数字を整理してきました。すでにこの時点で、このネット上に飛び交う流言飛語を論破できてしまうのでしょう。
ただ正直、ここで書いたことも100%の自信があるわけではなく、ここが間違っているよ、数字の読み方が違うよ、とかあったら教えてください。
後編では、もう少し私の主張を交えながら書く予定です。