<バンドやろうぜ!は、なかなか進まない>

「はい、ターケダでござーます」

タカマロと偶然会った葬儀の翌日の夜に、さっそく電話をかけてみた。

出たのはタカマロんちのお母さん。あいつの苗字がタケダってことを思い出した。

 

「あの、僕…サトーっていいますが」こっちも苗字で名乗る。

「あ、はい」「タカマロ君はおられますか?」「あ、はい……」

その後、沈黙。このまま取り次いでくれるものとばかり思っていたのだが、なんとなくおばさんが受話器を握りしめたままじっとしているような気配がする。

いやまさか、そんなはずないと思いながらも「もしもし」って声をかけたら返事があったのでびっくりした。

さっきのおばさんの「あ、はい」は、僕の「おられますか?」の質問に「Yes」と答えただけってことみたい。

 

ちょっとイラっとしたけれど「えと、タカマロ君に、お電話を替わっていただけませんでしょうか?」

さすが高校生ともなると、ちゃんと僕だって敬語が使える、疲れるけれど。

 

そんなややこしい経緯があって、やっとタカマロ登場。

「はい、ターケダでございます」読経で鍛えたタカマロの声。

「あのぉ、サトートシミツですが…先日はどうも…」「はっ、その節はお世話になりまして」「中学の卒業以来だよね」「はっ、おかげさまで」「はぁ?何云ってるの?えーと、タカマロだよね」「はい、さようでございますが」

 

一瞬、こいつ頭がどうかしたのかと思ったが、すぐに気づいた、きっと、すぐ近くにおばさんがいて、僕たちの電話に聞き耳を立てているのだろう。

 

「えーと、相談したいことがあってさ」「はい?」「あのさ、バンドを作ったのだけれども、タカマロ、いっしょにやらない?」

そこで、すぅーっと息を吸う音、いかにも鼻の穴を全開にしたような激しい呼吸音、フフフ、脈ありだ。でも、この電話の会話はおばさんが聞いているはずってことを踏まえて話をつづけた。

 

「明日の夕方、清水沢の駅に来られる?」

その駅は、我が夕南高校と彼の高校の中間地点だ。

「あのぉ、時間の方は…」と、ようやく会話が成立。

「ああ、5時でもいい?部活が終わってから」「はい、承知いたしました」「ははは、なーにがショーチいたしましただよぉ、じゃあ待ってるね」「はっ、失礼いたします」

 

ところでタカマロはおばさんに、誰からのどんな内容の電話って説明をするのだろうか?

まあ、そんなことはどうでもいいや、僕たちのバンドは、また一歩前進したのだから

…たぶんね。