<おまけつきバンド練習場>

ムラタの口ぶりでは、まるで練習場所のおまけにキーボード奏者が付いてきたみたいなのだ。その人の名はヤマゾノシンタローといい、またもやムラタと同じ中学出身で、今日の昼休みに彼のクラスを直接訪ねてきたらしい。

「バンドやるんだって?練習場として、うちのガレージ使ってもいいよ」と。

でも、なんでそんな親切なことを、と訊いてみたら「自分もメンバーに入れて欲しい、というかそれが練習場を使う条件」だとか。その話を聞いて、なんかもやもやしたものが僕の中に発生してきたが、一度そこを見てこようとムラタが言うので、さっそく夜に行くことにした。

 

僕の高校はぜんぜんマンモス校なんかではないのだから、同じ学年ならば名前くらいは聞いたことがあるはずなのだが、僕はそのヤマゾノなんとやらのはってぜんぜん知らない。ムラタともクラスは別なのだが、彼が集めた情報によると、ヤマゾノなんとやらは体が弱いとかでほとんど教室の外に出ることはなく、体育の授業も免除されているし、もちろん部活もしていない。そして、歳は僕たちのひとつ上だとか。

「え?なんで?」

「俺たちの前の年の受験を失敗したから」

「へえ」

「今日、本人からその話が出てくると思うけれども、とりあえず“はい、はい”って聞いておけばいいから。決して質問なんかしないようにな」

「え?なんでなんで?」

「いや、質問があったらあとで俺がゆっくりと教えてあげるから」といって、左半分だけで何か企んでいるように笑った。こいつは企んでいるのが顔に出るタイプなのだ。で、僕はそれに何となく感づいていながらまんまとはまってしまうタイプなのだ。

 

<練習場にくっついてきた厄介なおまけ>

ヤマゾノなんとやらの家は、とてつもなくでかかった。

大きな家の大きな門構え、彫刻のような門扉、僕の部屋くらいの広さの玄関。きょろきょろしていたら「シンタロー君の友だちのものなのですが」とムラタが真面目な顔して挨拶していた。

相手のおばさん、たぶんお母さんだと思う。「どうぞこちらへ」と消えそうな声で呟いてから、Uターンをして奥へ奥へとツツツって感じで歩いていったので、僕たちも慌ててついていった。そして突き当りの部屋のドアにノックし、「シンタローさん、お友だちよ」といって声をかけただけでおばさんはツツツっと立ち去っていった。取り残された僕とムラタは顔を見合わせていたら「どうぞ」中から声が聞こえたので、おそるおそるドアを開けた。

ロウソクくらいの弱い灯りだけで、部屋の中は薄暗かった。あやしい宗教の儀式でもやっているのだろうかと思った。そこには机がポツンとあって、男が椅子に腰かけたままでじっとうつむいているではないか、僕たちの方に顔もむけず。さすがのムラタもこの異様さには圧倒されているのだろう、どうしようかみたいにこっちを見ている。

 

「お邪魔しまーすっ!」マサヒトのおかげで気遣いの達人になった僕はとりあえず無邪気な挨拶をしてみた。そこで男は初めて気づいたかのようにこちらを見て「ああ」といった。やせこけた頬、青白い顔、無造作に伸ばしている髪。インテリっぽさを強調させているのかもしれないが、如何せんひどい癖っ毛なので、たった今起きたばかりで寝ぼけているくせに腹を空かせた男にしか見えないし、Tシャツの胸の辺りには何かの食べこぼしのあとがあったりして、インテリというよりザンネン。

ところで僕はここに何をしに来たのだっけ?ああ、バンドだ、練習場だ、そのおまけのキーボードメンバーだった。なのにかなりザンネンな人。いったいどうなってしまうのだろうか…あやしい宗教が似合う薄暗い部屋の中で呪文の言葉を探していた、というのは嘘で、すがるような思いでムラタを見た。奴は薄ら笑いをしていた…なんで?(つづく)