子どものころの僕はとても目が良くて、生家から3キロくらい離れた山(鬼首山って名前だった)を登山する人を確認することができるほどでした。山と田んぼしかない風景に囲まれていたからだと思います。モンゴルとか大平原に住む人たちと同じですね。
でも「ないものねだり」というのでしょうか、中学生になったころから、こともあろうに目が悪くなりたい、メガネをかける人になりたいなんてことを思うようになったのです。
休み時間になると近眼の友だちのところに行ってはメガネを貸してもらい、それをかけては悦に入っていた、ってバカですよね。
しかし、念願かなって、って云ってはダメですが、高校の後半くらいから視力が落ちてきたではありませんか。
誓って云いますが、勉強のし過ぎではありません。ただ、田んぼや遠くの山なんかを見ることが減った、それは否めませんね、田舎から出たかったし。
それから大人になっていくたびに視力は加速度つけたかのように落ち続けていくのでありました。
二十歳も過ぎて、そろそろ落ち着くかと思っていたのに、さらにさらに悪化。さすがに、このまま続くとヤバいのではと焦り始めた三十路のころ、観念して眼科へ。
そこでは目玉を徹底的に検査。
眼底の血管写真を撮る、ついては造影剤に拒否反応をしないかを確認するための注射をうつ、だそうで。でもこの注射が小さいくせに痛いのなんのって。上腕の内側、献血のときに刺されるあの箇所にプチっとだけなのに、焼けた針を突き刺されたかのような激痛、思わずウウウってうめき声が出るほど。
数分間のたうち回ってやっと落ち着いた。きっと僕は拒絶体質なのだろうと思いきや「あ、大丈夫ですね」ってホントかよ。
その後の眼底撮影は連写と高速ストロボで、全身ぐったり。やっと終わって帰ろうと外に出たら、瞳孔を開く注射もされたので瞳孔フルオープン、光の調整ができずに眩しくて眩して、まるで逮捕されて護送される容疑者みたいに、上着を頭からかぶり、がっくりとうな垂れて帰りました、とさ。
で、結果?よくわからない…でした。
僕、何か悪いことをした?
いやいやいやいや、せっかくの親から素晴らしい視力を授かったのに、目が悪くなりたいなんて思ったからでしょうね、バチ当たりですね。
現在の僕の視力は2個の玉合計0.05。
20個に増量でようやく1.0。
複眼になりたいわけではないのですが、ときどきそんなことを考えてしまいます。