<ムラタとのホモ疑惑ぅ?>

僕とムラタがよく似ている、それは半年も経たないうちに学校内では周知の事実になっていた。僕たちは一緒にいることが多かった。ムラタとは部活も一緒だったし、帰り道も同じ方向だったし、何よりもこの学校で初めて、どころか人生で最初の友人なので、いつも一緒なんて当たり前のことだと僕は思っていた。でも、なぜか「似た者同士がいつもくっついている」って状況は、単なる友だちとではなく、え?あいつらひょっとしてホ…モ?みたいに思われているのではないかという気配をときどき感じるようになった。別に誰かに明言されたわけではなく、あくまでもそんな空気が流れている、って感じで。

LGBTなんて言葉は誰も知らなかった時代のことだ。その辺りのことって発情期の僕の頭の中では不鮮明な影絵くらいの妄想しか描けなかったでしょうが、それだけにモヤモヤとモザイクがかかった妄想が折り重なって、手に追えない状況になっていた。

何となく払い切れない埃のようなホモ疑惑に悩んでいるというのに、一方のムラタはまったく意に介しておらず、ときどき休み時間に僕のクラスにやってきて、僕の机に腰かけながらどうでもいい話をしていくのであった。気の小さな僕はやはり周りの目が気になるのだが、それでもムラタと話している時間は楽しくて。え?やっぱり僕って実はホ…なんてセルフ疑惑が渦巻くのであった。でもそれはムラタのひと言で吹っ飛んでしまった。

「今度の日曜日にサチって子と会うのだけれど、一緒に来ない?」

「サチって、誰?」

「誰っていうか、ガキの頃からの幼馴染みでさ」

「で、彼女ってこと?ガールフレンドってこと?ムラタって彼女がいたんだ!」

「だからそういうのではなくて、幼馴染み」

「だとしても、そこに僕も行くっていうのは変じゃない?」

「いやさ、サチが見たいっていうんだ、お前のこと」

ムラタはそのサチって子に、僕のことを話したらしい。すると、どれだけ似ているものか見てみたいと言い出したそうなのだ。疑惑が晴れた途端、僕は興味みたいなものもわいてきたので、別にいいよって返事をした。すると彼は左半分だけでニヤリと笑ってこう言った。

「ちょっとした作戦があるのだけれど」

 

日曜日、初夏の日差しが眩しすぎて、ただでさえ落ち着かない気持ちをさらにグラグラさせていた。この田舎町で唯一のデパート、といっても三階建てのちっぽけなもの。まあ、これがこの町で一番高い建物なのだけれど。このデパートの入り口こそが、当時のわれわれ若者の待ち合わせスポットというわけなのだが、そこで僕は一人で待っていた。ムラタは見えない所に隠れてこちらを見ているはずだ。

するといきなり右腕を掴まれた、というより抱きつかれた。見るとショートカットの女の子。こんなこと初体験なので目玉が落っこちてしまうくらいに驚いた。なんとか落っこちる前にその子の顔を見ると、彼女の方も驚いたみたいに「あれぇ?」。あれぇじゃないよ、って思っているところにムラタがニヤニヤしながらやってきた。

「やっぱり間違えたな、ハハハ」

作戦ってそれだったのかよ。いつもはクールなムラタの顔、このときばかりはスケベオヤジそのものだった。

サチは本気で突っ立っている僕をムラタと勘違いをしたらしい。ただ、彼女はド近眼のくせにメガネをかけていない、ということもあったのだが。

「ボーっと立っている雰囲気がそっくりだったから」サチは何度も言い訳を繰り返していたが、それを僕は上の空で聞いていた。そのとき僕の頭の中で喧しく喚いているのは、生まれて初めて女の子に抱きつかれたことよりも、ムラタにはこれほどまでに仲の良い彼女がいた、そっちの方の驚き。でもよくよく考えるほどに、衝撃を受けたのは「ムラタに先を越された」なんてことではなく、「僕の友だちに、僕より仲の良い人がいた」ことだった。え?ひょっとしてサチに嫉妬している?やっぱり僕って、ホ…?今度はセルフショックに打ちのめされそうになっていた。(つづく)