新テーマ「水草図鑑」を始めると宣言したものの、どの種類から紹介すべきか迷っていました。最初の記事によって、このテーマの第一印象が決まってしまう訳ですので。。。

 

 

そこで、

①このブログで取り上げてきた日本淡水魚と多少関わりのあること

②ある程度知名度が高いこと

③飼育環境下での増殖品がある程度流通していること

④鑑賞価値があること

⑤ある程度育てやすいこと

の計5つに重点を置いて考えてみました。

 

そこで思いついたのが「ガシャモク」。

日本に自生し(絶滅寸前ですが)、

新産地が見つかればネットニュースになるほどの知名度があり、

多少増殖品が流通しており、

とても美しい見た目をしていて、

CO2の強制添加などをせずとも育てることが出来る。

 

最初に紹介するのにピッタリと感じました。

 

というわけで、今回はガシャモクについて紹介したいと思います!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

和名

 ガシャモク

 

学名

 Potamogeton lucens L. 

ssp. sinicus (Migo) H. Hara var. teganumensis Makino

 

 

この水草について

はじめに

日本のガシャモクは、Potamogeton lucens の亜種 Potamogeton lucens ssp. sinicus の変種 Potamogeton lucens ssp. sinicus var. teganumensis とされているそうです。

 

詳しい方が分かりやすくまとめて下さっているので、詳しくはこちらのブログを見て頂ければと思います。

↓↓↓

『ガシャモクの学名について』水草オタクの水草がたり 

 

 

そこで、 Potamogeton lucens を広義ガシャモク、 Potamogeton lucens ssp. sinicus var. teganumensis を狭義ガシャモクとし、
ここでは狭義ガシャモクについて書こうと思います。 
 
狭義ガシャモクの現状
 かつて、狭義ガシャモクは琵琶湖や利根川水系のいくつかの湖沼など、日本各地に自生していたそうです。特に千葉県手賀沼・印旛沼では特に量が多く、緑肥としても使われていたのだとか。
⁡⁡しかし、近年では自然環境の悪化のため、その殆どの場所で絶滅し、残るは福岡県のお糸池のみとなってしまいました。その後、鳥取県で発見されたものの、現状、自生地は2箇所のみで(手賀沼周辺では埋土種子の発芽が確認され、域外保全や湖内への植栽が行われているそうですが、定着はしていないらしいです。)予断を許さない状況は続いています。
 

尚、青森県で近年発見されたガシャモクはその形態から狭義ガシャモクではないと考え、ここには含めませんでした。これについては後日書ければと思ってます。

 

狭義ガシャモクの形態

  葉長5-12cm、幅1.2-2.5cmで1cm未満の極短い葉柄を持ちます。托葉はやや硬く、腐朽しません。果茎は直径2-3mm、花穂は長さ2-5cmで4心皮、果実は2-3mmで、冬は地下茎の先端に節間が肥大してレンコン状になった殖芽を形成して越冬します。

 

 

 

育て方

 あくまで「僕はこうやってに育ててます。」というものなので、参考程度にという感じですが。。。

 

 

 

 

 

・低床について

植える容器に、下から順に、

 

けと土

テトラ イニシャルスティック、Feエナジー等の肥料

バーク堆肥

バーク堆肥+赤玉土

赤玉土(小粒か芝の目土を使うと余分な養分の流出を防げる気がしてます。)

 

というふうにしています。バーク堆肥+赤玉土の層と赤玉土の層に細かめの砂を混ぜるとより大きく育ちやすい気がしていますが、この組み合わせでも大きくなる時は大きくなるので、結局は肥料の問題かなと思っています。

 

 

 
 
 
 
 
 
 
 
低床を上記の方法で作り、IB化成やネクスコート バラ用などの化学肥料を追加した水槽。水はテトラ PH/KHマイナスを用いてpH6.0-6.5くらいに調整したものを用いており、フィルターは内部式フィルターに長繊維ピートとキングマット詰め込んだもの。
 
 
 
 
 
 
 
植え込み直後。
 
 
 
 
 
 
植え込み1週間後。新芽が出ました。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
植え込み一週間半後。もう1本生えてきて計2本が水槽の水面に到達(水槽は高さ30cm)。
 
 
 
 
 
植え込み1ヶ月後。低床から生えている本数は6本、途中でも枝分かれをしていたので、計10本弱が水面で横に横に伸びています。
葉の大きさは5-7cmほど。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
上記の方法に砂を加えたもの(プラケースの中)
水はカルキを抜いた水道水を用い、フィルターは外掛け式フィルターにキングマット、長繊維ピートなどを入れたものを使いました。また、低床最下層にはけと土の他にテトラ コンプリート サブストレイトを入れています。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
植え込み2週間後。大きな葉の新芽が生えてきました。
 
 
 
 
 
植え込み約1ヶ月後。最初の株が枝分かれしながら成長し、水面に到達。他にも3-4本ほど新芽が生えてきています。
 
 
葉の大きさは6-11cmほど。砂無しの時より大きくなりました。
 
また、水面に到達すると、この記事最初の写真の株のように節間が短くなりました。
 
 
 
 
↑この写真ね。
 
 
 
 
 
 
 
 
増殖スピードを優先するのであれば砂無しでpHや硬度を下げた水。
 
 
一つ一つの株の葉を大きく格好良くするなら、砂有りでpHと硬度がある程度高い水。
 
 
 
 
という考え方もできるかもしれません。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
砂有りの方の環境だと、硬いアオミドロ状の藻類が出やすいので、その点は要注意です。

 

 

 

 

 

また、ここにあげたような面倒くさい方法でなくとも、栄養系ソイルのみ、砂や礫に腐植質+肥料でも育ちます。ヒルムシロ属は多くの種類で水質やCO2の添加よりも低床環境に敏感なのですが、その点に関してガシャモクはかなり寛容なので、その分育成のハードルは低いです。

 

 

・照明について

ガシャモクは元々沈水植物でそれほど強い光を必要としないため、蛍光灯2灯程度でも十分育ちますが、私はアクロ トライアングル グロウを使うことが多いです。

 

 

 

・水温について

20-30℃程度であれば普通に成長します。15℃に届かない日が続くと成長が止まり、成長が止まりがちになり、逆に30℃を超える日が何日も続くとバテて弱ってくる印象です。

また、冬は加温をして23℃程に保ち、低床内が冷えないように鉢植えにしても成長が悪くなる時があるので、何かしら体内時計のようなものを持っているのだと思います。

 

 

 

・水質やCO2の添加について

ガシャモクは水質に寛容な為、水が極端に酸性や塩基性に傾いていたり、極端に硬度が低すぎたり高すぎたりしなければ大丈夫です。

CO2の添加は行った方が調子が良くなり、成長が早まりますが、殆どの場合、行わなくても問題ありません。

 ガシャモクをはじめとするヒルムシロ属の水草はどの種も新しい水を好むので、水質を気にする前にとりあえず水換えを沢山するのが良いと思います。

 

 

・その他

ここで挙げた水槽での栽培の他、屋外の水鉢での栽培も可能です。

 

 

 

 

 

 

 

 

その他

ガシャモクを含むヒルムシロ属の水草は風媒花であり、また、同所に複数種が自生することが多いため、しばしば雑種が生まれます。

なので、今回は国内外から報告されている、広義ガシャモクと日本国内に自生する、或いは自生している可能性のある他のヒルムシロ属の種との雑種をいくつか紹介しようと思います。

 

 

 

Potamogeton × angustifolius(ツガルモク)

=P. gramineus(エゾヒルムシロ) × P. lucens

 

Potamogeton × salicifolius

=P. perfoliatus(ヒロハノエビモ)× P. lucens

 

 Potamogeton × torssandrii

=P. gramineus(エゾヒルムシロ) × P. Perfoliatus(ヒロハノエビモ) × P. lucens

 

Potamogeton × jutlandicus

=P. praelongus(ナガバエビモ) × P. lucens

 

Potamogeton × nerviger

=P. alpinus(ホソバヒルムシロ) × P. lucens

 

Potamogeton × inbaensis(インバモ)

=P. malaianus(ササバモ) × P. lucens

 

Potamogeton × cadburyae

=P. cpispus(エビモ) × P. lucens

 

Potamogeton × fluitans

=P. natans(オヒルムシロ) × P. lucens


 Potamogeton × subrufu

=P. nodosus ×P. lucens


 

 

 

 

 

 

 

 

参考文献

天野百々江・大野睦子・須田隆一・飯田聡子・角野康郎・小菅桂子,2008.北九州市お糸池における自然雑種インバモの起源と現状.分類,8(2):129-139.

 

大野睦子,1988.北九州の植物 (12) ガシャモク.わたしたちの自然史,27:22.

 

角野康郎,2014.ネイチャーガイド 日本の水草.326pp.文一総合出版,東京.

 

角野康郎・飯田聡子,2021.日本産ヒルムシロ属の雑種:研究の現状と課題.植物地理・分類研究,69(1):67―80.

 
斎藤吉永,1991.幻のガシャモクの出現.水草研究会誌,43:24-26.
 
首藤光太郎・薄葉 満・山岸洋貴・藤田優志・平松 栞・辻村 収・石戸谷芳子・葛西政光・葛西直子・松本明男・乗田利一・横山昭子・兼子伸吾・志賀 隆,2018.青森県でガシャモク(ヒルムシロ科)の新産地を発見.植物研究雑誌,93(4):240-252.
 
福岡 豪・小宮春平・岩﨑朝生・早川宗志,2023.中国地方新産のガシャモクとエゾヤナギモ(ヒルムシロ科).植物地理・分類研究,71(1):47-50 .
 
Kohtaroh Shutoh・Mitsuru Usuba・Hiroki Yamagishi・Yushi Fujita・Takashi Shiga,2020.A New Record of Potamogeton ×angustifolius J. Presl (Potamogetonaceae) in Japan.Acta Phytotaxonomica et Geobotanica,71(1):33-44.