.jpg
いつも貸し切りに近い、行きつけのダイニングカフェ。
最近雑誌で紹介されたからか、今日は妙に人が多く。

ぼーっとした頭で、他のテーブルの話をなんとはなしに聞き流すのが好きだ。

年齢問わず高い声音が織りなす会話は、あちらでもこちらでも、その多くが恋の話。
うまくいかない悩み、好感触の昂ぶり…。
人間始まって以来、途切れることなく続く悩みよ。
金欲や権欲は、もっと後、人間が世界の広さを知り始めてからだ。
それにしても、みんな早口。

斜め向かいのテーブル客が席を立ち、スタッフが声をかける。
「すみません、ありがとうございます」
なにがすまないことがあろうか。
どうもありがとうございます、の気持ちがなぜか「すみません」に姿を変える。
対人距離を感じるような、使い手が守りに入っている言葉をよく耳にする。
そういう自分は?
きっと無意識に使っているだろう。
緊張すると知らず知らずに自分の身体の一部を触るのと同じだ。

対人距離。
いつから人は、そういう種類の見えないものも身につけたんだろう。
これも生きてく知恵のひとつだろうか。
余計な知恵がいらないのは、恋だけかもしれない。