このメーカーのこの製品はここが良いけどここがいまいちで、それはあっちのメーカーの同じ価格帯のあれのほうが上回っているからお得で・・・という具合です。
でも、そのカタログのうたい文句は、あまりあてになりません。
メーカーや代理店は、都合の悪いことは隠し、設計上の数値だけをカタログに書いています。
それはどんな商品でも同じといえばそうなのですが、こと望遠鏡についてはもう怪しげな健康食品と同レベルだと思ってください。
6cm500倍というような高倍率を売り物にする安物は買ってはいけませんという人が、1000倍速の自動導入可能というようなうたい文句は信じて買ってしまうのです。
どれだけあてにならないか、例えばの話をしましょう。これらは一式数十万円から数百万円の、マニア向け商品です。
・とある口径20cmのニュートン反射 → 有効径で言えば17cm相当程度しかない
副鏡(斜鏡)のサイズと取り付け位置が適切でないと、そうなります。
少しでも口径が大きいものをと思って、18cmの商品(こちらは本当)より20cmの商品を選んで買ったのに、だまされたわけです。
中には、主鏡の周辺部分を使わないようにするためとか遮蔽率を減らすためとかいう理由で、わざと非常に小さな副鏡を使う例もあるみたいですが、それなら本当の有効径を書くべきですね。
・とある1000倍速の赤道儀 → 音がうるさいうえに目標の天体で止まってくれない(行き過ぎる)
直感的に、モーターは本来、滑らかさ(細かさ)と速さを両立できないだろうなというのは分かります(歩幅が狭くてちょこちょこ歩く人に速く走れといったら無理ですよね)。でもカタログで高速をうたうほうが売れるので、モーター屋から仕入れてきたモーターにいろいろ無理をさせているのです。
そして、実際の使用で問題が起こることをメーカー側は分かっていて隠しているか、そもそも実地(星空)で製品試験をしていないで売り出しているのです。
・とある400PPSの赤道儀 → 寒い(電圧が低い)ときに頻繁に正逆方向を切り替えて高速で動かそうとするとすぐモーターが止まる
何PPSというのは滑らかさの目安ですが、あくまで電気信号の刻みの多さのことです。機械部分がその通りに動くかどうかは別で、あまりに多い刻み信号についていけなくなる(脱調というそうです)と止まってしまいます。これもモーター屋から仕入れてきたステッピングモーターにいろいろ無理をさせているせいで起きるわけです。
最近では、高速DCサーボモーターで懲りた人のために、少し速さを落としてこの何PPSを売りにするメーカーが増えてきましたが、実態はこんなものです。
また、古い製品の多くはせいぜい10~20PPSしかなく、高倍率で見ると視野が東西にプルプルブレているのが分かるほどで、惑星の模様が見えなくなってしまいました。昔の赤道儀を中古で買うときは要注意です。
・とある自称搭載重量20kgの赤道儀 → 20kg載せるとグラグラ
軸周りやウエイト棒や三脚が細いのに、20kgなど載せられるわけがないことは、直感的に分かりそうなものですけど、天文ファンは純真な人が多いから、カタログのうたい文句を信じてしまうんですね。
・とある輸入品の冷却CCDカメラ → 結露がひどくて水浸しになりあっという間に故障
代理店は高温多湿の日本の気候には合わないとかなんとか言い訳をしますが・・・だったら日本には無対策のままで売らないでほしいものです。
・とある自称EDアポクロマート → 色収差がひどい
レンズの一部にEDレンズを使っていても、アポクロマートを名乗ってよいかどうかは別のはずですが、判で押したようにEDアポとうたっていますね。
F値が明るくてEDアポだとうたうほうが売れるのでそうカタログに書くわけですが、8cmF6でEDを含む2枚玉では本来どうやってもアポにはならないそうですよ。
・とある自称誤差20分の1ラムダの鏡 → 収差がひどい
最近ではあまり見なくなりましたが、以前は多かったカタログのうたい文句です。当時の検査装置でどうやってその精度を数値として測れたのでしょう?検査できたとしても1回でこの超高水準に合格する鏡は何十枚に1枚程度のはずで、全部合格するまで何度も磨き直すなんてコストのかかることを大量生産品でするわけがありません。
また、副鏡が悪かったら元も子もありませんが、カタログでは副鏡の精度などは何も言いませんね。
平面鏡で誤差20分の1ラムダというのは、測定原器レベルで、一般品にはまず存在しないでしょう。
またカセグレン系の副鏡は、研磨だけでなく取り付け誤差にものすごく敏感だろうなというのは、凸面の鏡は拡大つまり像を散らせるわけだから、直感的にも分かります。設計通りの性能が出るなど奇跡のようなものだそうですよ。
・とある自称ストレール比99%のレンズ → さほどでもない
最近この値をカタログにうたう事例が増えてきましたが、中心像である限られた条件(収差も限定されて有利な条件)で設計上はそうなるはずというだけで、保証値ではありません。カタログには書いてないですが周辺に行くとあっという間に悪くなり80%を下回るはずです。またガラスの脈理や研磨の荒さのほうがずっと足を引っ張ります。その上さまざまな製造上の誤差が積み重なって、実際の商品では中心でももっと悪いのが普通です。
でも何も言わなかったのに比べると、設計上はここまで良いですと言うようになったのは進歩かもしれません。それならそれで、自社の全商品のスペック表に中心から周辺まで設計上のストレール比の値を載せればいいと思うのですが、そうはしません。また反射系では、主鏡自体のストレール比は(中心で)99%だとメーカーがうたっていても(それも本当か怪しいですが)、望遠鏡として組みあがった状態では、副鏡があるせいで中心でもせいぜい80%、実際にはそれよりさらに低い値にまで落ちてしまうそうです・・・そういうことは印象悪くなると思って書かないのでしょうね。
(追記)点源の光をある開口に通すと光の干渉縞ができます。理想的な場合で中心の光の強さを100%とし、何かじゃまが入ってそのピーク(中心)が10%下がったらストレール比は90%、というそうです。下がった分の10%の光は、周辺の縞の分に行くか、散ります。
収差がなくても、副鏡のような光路中の遮蔽物は波面誤差を引き起こします。仮に主鏡副鏡ともに誤差ゼロラムダだとしても、副鏡径が主鏡径の33%のとき、その波面誤差は結局4分の1ラムダになり、ストレール比で言えば80%相当になるそうです。副鏡を吊るための金具がさらに波面誤差を増やし、それに主鏡副鏡それぞれの誤差が加わります。もちろん周辺ではコマ収差などが加わります。
といっても、レイリーリミット(ドーズでなくレイリーでした。訂正します)の二重星を分離する上では、ストレール比が80%以上なら100%と変わらないそうですのでご安心ください。
ところで、ストレール比が何十%という値と、そのレンズがアクロマートかアポクロマートかとか、その鏡が楕円面か球面か放物面かとかは、何の関係もありません。広告にすっかりだまされてしまった人もいますが、だまされないようにしましょう。
たとえば、タカハシのTOAという屈折望遠鏡は、コマ収差が補正されていないので本来の定義ではアポクロマートどころかアプラナートでさえない、自称なんちゃってアポクロマートです。でも中心だけは非常にシャープでストレール比は99%らしいですよ。また、F値次第では球面鏡でも中心のストレール比は十分高くできますし。
・双眼望遠鏡なら目が疲れない → 疲れる
マニアの間では望遠鏡を2本並べて双眼望遠鏡にして高倍率で天体を見るのが流行っていますが・・・うかつに手を出していいものではありません。
一般に、片目をつむって見るより、両目で見るほうが確かに自然で疲れにくく、視野のノイズも少なくなるので、双眼望遠鏡で見れば一回り口径の大きな望遠鏡で単眼で見るのと同様の効果が得られます。しかし、左右の光軸が完全に一致し倍率が完全に同じで、加えて顔の左右非対称・斜視をキャンセルできるものは、私はまだひとつも見たことがありません。
私が知らないだけでひょっとしたらこの世のどこかには存在するのかもしれませんが・・・
左右のアンバランスは擬似的な立体視を生み、両目の自然さとノイズの低減も相まってすごくよく見えるような錯覚を起こしますが、その左右のずれはやがて目を悪くする原因になるので、あくまでチョイ見用です。長い時間眺めるのはやめましょう。
立体視は基線長で決まるものですが、人間の目幅や双眼鏡の幅くらいでは何億キロメートル先の星を立体視することは不可能です。
またもし「両目で見ると脳内処理のおかげで宇宙の星々が立体的になる」なら、(倍率が1倍の)肉眼で両目で星空を見ても、視野に見える星々は立体的に見えるはずですが、そんなことはありません。非常に良い星空では、天の川の濃淡がまるで立体的な雲のように見えることはありますけど。
現状の双眼望遠鏡の立体視は、あくまで機器の不完全が生み出す擬似的な立体視です。倍率が10倍の最高級の双眼鏡でも星々は(本当の意味で)立体的に見えたりはしません。月のような丸い天体に対しては立体「感」は出ますが、錯覚です。
また、双眼望遠鏡のユーザーは「高倍率にして長く覗いても疲れない」と言いますが、現状の不完全な機器で本当に1時間ずっと覗いていたら頭痛に悩まされ、それを1年毎日続けたら体を壊したり精神を病んでしまうでしょう。
幸い、その手のマニアは、一晩中監視が必要な海事や科学観測のためにその機器を使うのでなく、大人の玩具として自分の気分のままに使っており、せわしなく目を離しアイピースをとっかえひっかえして倍率を変えチョイ見の範囲でしか使っていないので、それで体を壊したという話は聞きませんが。
マニア(もう先の見えたジジイ)が自分専用に目幅くらいは調整し、他人には使わせないで自己責任で「この見え味は格別・・・美しい・・・」などと自分に酔いながら使うのは別にかまいませんが、他人、少なくとも未来のある子供に使わせてはいけません。まあ高いものだから子供に自由に使わせたりはしないと思いますけど。
私は、双眼鏡とは、高級品を作れるメーカーの製品で、20倍以下の低倍率で連続30分以内の使用にとどめておくべき機器だと思います。
その点、昔から船舶用に変わらず作られているニコンの20x120双眼鏡はかなり良く出来ていると思います。ただしこれはもともと海の上で水平線方向を見るためのもので、対空用ではないので高度の高い天体には(首がすぐ痛くなって)無理です。それは痛みという形ですぐに分かるのでそれ以上続けられないです(それでもさらに続けると首のうっ血や神経・骨の損傷につながるので絶対にやめましょう)が、不完全な対空型双眼望遠鏡は一見快適だけどじわじわ目を痛めるということも、ぜひ知っておいてほしいです。
なお、単眼の望遠鏡でも、片目をつむって見るのは良くありません。以前にも書きましたが、正しくは両目を開けて見るものです。覗かないほうの目も開いたままにして片手で覆うとか、眼帯のようなもの(片方のレンズを取り除いた安いサングラスとか)で覆いましょう。そのほうが疲れにくく、視力の低下を少なく抑え、単眼でもわりと長く覗いていられます。顕微鏡と同じです。普段顕微鏡を使っている人には常識ですよね。
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他にもメーカーはピリオディックモーションがどうとか、色ごとの収差曲線がどうとか、MTFがどうとか、イメージサークルがどうとか、相手が無知なのに付け込んですごいすごいとうたっていますが、世の中そんなうまい話はないですよ。
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さんざんひどい話ばかり書きましたが、ではどうすればいいのかと言うと、結局、カタログなんてそんなものだという免疫をつけておくこと、直感的におかしい感じがするものは買わないこと、実際に使っている正直者の友人がいたら機材の悪口を一通り聞いておくこと、くらいでしょうか。
カタログなどかなり割り引いて読むほうが、現物を手にしたときがっかりしないで済むでしょう。
あとは、買ってから5年後にどこまで当初の性能を維持できているかや、10年、20年後も修理を受け付けてくれるかなどについても、多くの人の評判を聞いてから選ぶとよいと思います。(1年の保証期間を過ぎたとたんに故障するソニータイマーは有名・・・)
たとえば潮風が当たる土地、火山灰が降ってくる土地、中国のPMなんとかいうのが飛んでくる土地、近所に国道や工場や油物の多い食堂があるところなどでは、機材の劣化が激しいことが容易に想像できます。だからこそ丈夫なもの、保証の良いものを選ぶほうが良いですね。
ビクセンのものは、ポルタII A80Mfやミニポルタ A70Lfだけは安くてまずまず良くできていますが、もっと値段の高いマニア向けの商品になると値段のわりになんだかなーというものばかりです。
多くの天体写真マニアが、ビクセンからタカハシに乗り換えるのは、ビクセンで余計な苦労をするより、少しでも楽をしてその分の時間とエネルギーを被写体に向けたいからですね。



