NZ対アイルランド | 井上正幸のブログ

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現代ラグビーのトレンドであるラインスビードが速い「ラッシュアップDF」に対して、縦に深くポッドを重ね合わせて、FWが自在にポッドを可変させ、BDからBKが移動して、バックドアのさらに内側から「ダブルライン」ならぬ「トリプルライン」を作り、数的にも位置的にも優位を作るATを完成させたアイルランド。

対して、バレットとモウンガという2人の司令塔を要して「1322」のポッドを軸に、バランスよく人を配置してスペースにボールを運ぼうとするNZ。
これまでのFWがゲインしてBKがスペースにボールを運ぶといったラグビーではなく、FW、BK関係なく予めグランド上にユニット(ポッド)を配置しておいて、BDを速くリサイクルすることで空いてるポッドを攻撃する戦術を生み出したNZであったが、W杯の前年まで、NZはアイルランドのような人が移動するポッドを作らず苦しんでいた。

W杯直前から、ウイングのウィル・ジョーダンがエッジからエッジへ自由に移動して、アイルランドのようにトリプルラインを作るなど1人で優位を作り出していた。
アイルランドの縦に深い「可変式ポッド」をNZはどう攻略するのかと思っていたらNZは内側のDFを厚くして、DFのラインスピードを極端に落とし、外側に生まれるスペースにはスピードのあるアウトサイドBKのスライドと下がってるバックラインを上げて対応。
どれだけ複雑な階層的なATであっても、DFのラインスピードを落とすことで、余裕を持って対処できる。


アイルランドのATに対して、どのチームも前に出ることで遮断しようとしたが、は、NZは外側の空いてるスペースに対して、内側からのスライドでゲインはされてもDFの連携を切らさないようにして、エッジのダブルラインでバックドアのパスへは的を絞りやすいのでプレッシャーをかけた。

本来、前に出てこないDFに対しては、南ア、フランス、イングランドのようにフラットに力強く走り込んでゲインを切っていき、DFの順目のポジショニングを間に合わせなくするが、アイルランドのATは階層的なラインを作り、DFを困惑させながらスペースにボールを運ぶ戦術ゆえ、そうした「モメンタム」を掴むようなATでDFを破ることはできなかった。

また、NZはエッジのBDにプレッシャーをかけることで、ターンオーバーできないにしても、エッジのBDからオープン側に移動するBKの出足を遅らせて、オープン側の優位を作らせないようにしたり、オープン側にポジショニングすべきFWの選手をBDに注意を向けさせた。

結果的にアイルランドは、3トライの内、2トライモールで1トライしかポッドでトライを奪えなかった。


NZのATは、敵陣ゴール前以外、「オールハイパント」。1980年代、ハイパントが得意なアイルランドのチーム名にちなんで「ギャリーオウエン」と呼ばれたアイルランドのハイパントのお株を奪うハイパントの連打。
ボールを動かすことが得意で、相手にキックを蹴らせてカウンターATを引き出すためにキックを使うことはあっても、DFのカオスを引き出させるために南アのようなハイパントを使い続けた。

DFラインの背後に落とすキックも見事に使い、DFを崩すなど、NZはAT、DF共に戦略的にゲームを運び、優勝候補筆頭であったアイルランドに会心の勝利。
今回取った攻防のゲームプランは南ア相手には相性が非常に悪いため、同じ手が南アに通用するとは思えないが、アイルランドの長所と短所を冷静に分析し、打つ手を絞り勝ちきったNZはゲームの「駆け引き」を教えてくれる最善のゲームであった。