鬼怒川 (新潮文庫)/新潮社
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鬼怒川のほとり、結城で機織り上手な娘、チヨは、その腕を見込まれて日露戦争の生き残った英雄、三平のもとに嫁いだ。優しい舅と姑に愛され、機織りの才能をぐんぐん伸ばしていくチヨ。一方、夫となった三平は戦争を生き抜いたものの心に深い傷を持ち、怠惰な日々を送っている。

ある時、戦友の重田が訪れる。重田はこの地に伝わる埋蔵金伝説をもとに一山当てようとしていたのだ。ほどなくして重田はスペイン風邪で死亡。代わりに三平が伝説に血眼になるも、作業中の不慮の事故で三平も亡くなる。

やがて第二次大戦がはじまり、チヨは息子の三吉の出征を見送る。死亡通知が来たものの三吉は生き残り、戦後まもなく復員する。

チヨは自分が見込んだ機織りの上手な娘と三吉を結婚させるが、三吉もまた、父三平と同じく戦後は怠惰な日々を送っていた。

そしてまた三吉も、埋蔵金伝説にのめりこみ、そのさなかに事故死する。

三吉の息子、チヨにとっては孫にあたる三郎は、東京の大学に進学するも学生運動にのめりこみ、逮捕、逃亡を経てチヨたちのもとに帰ってくる。

三郎もまた、埋蔵金にのめりこみ、家を出てしまう…。


男たちのクソっぷりがもどかしい一冊。

この作品は、女たちは本当に働き者で、機織りで一家を支える収入を得ている。一方の男どもときたら、戦争の傷はあるのは分かるが一日なにもしないでぐーたらしおって…。

で、挙句の果てには埋蔵金ですか。家の牛を勝手に売り払い、親の財布からお金を持ち出し、埋蔵金ですか!


主人公チヨは、辛抱強くてたくましくて、チャキチャキしている気持のいい女性。

結婚当初の初々しさ、機織りを研究するまじめさ、子供を産んでからの逞しさ、舅と姑を見送ってからの一家の主としての風格、嫁への愛情、年老いてからの頑迷さなど、年を重ねるごとに次々と表情が変わる。

特に夫が死んだ辺りの逞しさは特筆もので、だから、夫も息子も孫までも、埋蔵金伝説にのめりこんで非業の死を遂げているのに、チヨには悲壮感や悲しみが感じられない。

チヨ自身も、あんまり悲しくなかったのかな?

そんなチヨも最後にはボケてちんまり座っているだけのおばあちゃんになってしまうのがなんとも。


明治~戦後の鬼怒川流域の、結城紬の隆盛の歴史としても、なかなか興味深い。