大晦日
廃屋になってしまったお店は、戸口からぐるっと荒縄が巻かれていて、中には誰も入る事が出来ないようになっておりました。
隣りの家人が怪しい灯りを、この廃屋の中に見咎めたのは深夜のこと。
ぼんやりとした灯りが二つと話し声。
「これでもう思い残す事はありませんね、お爺さん」
「あーー」
その声は紛れもないお爺さんとお婆さんの声でした。
しばらくして、雨戸の隙間から東雲色に輝く二つの球体が出てまいりました。
外にはこれも真っ白に輝く球体が一つ。
「長々とお待たせしてしまいました」とお婆さんの声。
「いいえ、あの時はお世話になりました。これからお二人を西方浄土へお連れ致します」
今は立派になって、天上界への道案内をしております貧乏神の声でした。
ニャー ニャー
いつ来たのか、たまが首の鈴を鳴らしながら、東雲色の球体に擦り寄りました。
「たま、元気だったかい? いつもお店番をしてくれていたんだね、ありがとう」
お婆さんの人魂に嬉しそうに頬づりするたま。
いっとき、懐かしい想いが走馬灯のように廻っておりましたが・・・
「たま、元気でいておくれ」
艶のない毛並に年老いた様子が分かります。
お婆さんの人魂はそうたまに声をかけると、空へと昇って行きました。
ニャーォーン
曇った悲しそうな声が夜空に響き渡って。
人魂が一つ戻ってまいりますと、たまをしっかりと抱きしめました。
「たま、一緒に行きましょうね」
お婆さんの声でした。
凍りつくような暗い空に、港で停泊している船が鳴らす新年を祝う汽笛が響くなか・・・
白く輝く光りが東雲色の二つの魂と小さな桜色の魂を大切に抱きかかえるようにしながら、十万億土の彼方にある天上界へと昇って行きました。
翌日の元旦
古びた佇まいの店先に、一匹の年老いた猫が死んでおりました。
幸せそうなその死に顔。
時が過ぎてその廃屋もいつの間にかなくなり、今は更地になっております。
*お読み頂いて、ありがとうございましたぁー
懐かしい作品を久しぶりに読む機会が出来て(^^)v
またみなさまの貴重なお時間を頂戴しました。。。
年末にup出来たらと思いますが、次回作品としてぇー
ご紹介しますのはXmas作品ラブコメ「命あずかります」
苦手な方もいらっしゃいますのでぇー
どうぞスルーして下さい!

南野と愛鼠のさくらです♪