今日の透析ちゃん 5 | orizarot

今日の透析ちゃん 5

透析担当の先生は、麻酔をすると言ったそばから麻酔無しでオレの腕に針を刺そうとした。
これだから!大人は嘘つきだっ!
「あの、麻酔すんじゃないんですか?」
「腕はしないんですよー、脚の方はしますから」
オレの必死の質問などいたって普通に聞き流され、

さくさくと彼はオレの腕に針を刺した。

痛てえ。

今まで点滴だったら何度かしたことがあって、

だからこの針が普通の注射より太いことは知ってる。
そもそも、間接の内側のところってなんか筋肉も無いし、

弱点な感じがしてイヤなんだ。
どうせなら肩とか腕にしてくれればいいのにな…
まあそんな感じでなんとか腕側は無事に完了。

針につながれたチューブを固定する。

そして次はいよいよ脚の方。
脚に針を刺すっつーのは未体験ゾーンだ。

一体どうゆうことになってしまうのか。
こういう時、ベッドに寝かされた状態というのは全く無防備な状態であって、

椅子に座っているより遥かに緊張する。
「じゃあまず麻酔の注射をしますね」
そして、先生はオレのズボンを脱がす。えっイヤン。
下着を晒して、ホントみっともないっつーか、ヘナチョコな感じが哀しい。
看護婦さんはオレのショーツ姿に見とれることもなくテキパキと準備をこなしていく。
まずパンツの右側をヒモみたいなので縛って、まくり上げた状態で固定。
そして脚の付け根部分、まあ要は男性器の横ですよ、そこを脱脂綿で消毒。
つーか、え、そんなとこなん?????

とりあえずみんな、自分のソコを指で押してみたらいいと思うんだ。
形容しがたい不快な感じがするから。
ここはもうホントに弱点なんだよ人間の。
そんなトコにさ、普通の針よりもっと太くて長い針刺すんだって!
うそん!
透析の血は動脈に刺さないと理想的な分量がとれないため、仕方が無い。
そして、その場所に容赦なく麻酔注射が射たれる。

つーか、麻酔注射痛てえ笑

チクリッッッッッッッ、という感じの、鋭い痛み。

もうすでにイヤなんですけど…

「はい、じゃあいきます」
いよいよだよ。ついに、こんなトコに針刺すんだってよ。

どんぐらい痛…






つーーーーーーーーーーーーーーか、

ものすごく痛てえ!!!!!!!!!!





麻酔なんてはっきり言って意味ねえ。
もうアホのように痛い。
これはどういうことですかっ!!!!!!!!
痛い、痛いって、ちょっと、早くしろって、こら!こらこらこら!

あああああああああああ…


刺す間、左手に持っていたフェイスタオルをオレは口にかぶせていた。
なんとなくそうしてたら安心したからなんだけど、いざ刺されたら、

そのタオルの向こうでオレの口は食いしばりまくっていた。
あり得ない痛みと恐怖と。
まあ、痛みに対する耐性が無さ過ぎるのかもしれないけど、

これは…ちょっと…!
タオルから出ているオレの両目も、

まるで処女消失の乙女のように堅くつぶられていたのだった。
もう、正直「痛がったら恥ずかしい」なんつー理性は50万光年の彼方へ飛んでいってしまった。
オレはパンツ丸出しで、脚の付け根に針刺されて、歯を食いしばってるんだ。

もうこれ以上の苦痛も恥辱もねえよ。
透析ルームにはオレ以外入れなかったので、

親にこの姿を見られることはなかった。

「痛かったですかー?」
まるで当たり前のように先生は語る。
ああ痛かったですとも。オレは全く憔悴してしまった。
とにかく腕と脚の針刺しが終わり、これから透析が始まる。
「ではこれから3時間です」
さんじかん、って、軽ーく言うのね…
こんな状態で3時間も寝てろっつーのか。しかもそれが終わっても、

オレはこれから一ヶ月帰れないんだ。
ああ…

オレの横にある機械。そこから伸びるチューブに、オレの血が通っていく。

薄白かったチューブは、濃赤色に染まっている。
オレの血が、身体から出されて、目の前を流れてる…!
なんか、おっかなくって見てられなかった。
透析が進んだところで、先生が話しかける。
「明日も透析をするわけですけど、今後の方法としては2つあります。
ひとつは今日と同じに腕と脚に刺してする方法。

もうひとつはカテーテルを装着する方法です」
『カテーテル?』
「カテーテルを使えば、以降はすごく楽になりますよ。

ただ、このぐらい(40センチぐらい)の管を脚の付け根に刺すことになるんだけど」
おほほほほほほ。40センチの管だって。このおっちゃんバッカじゃねーの。
今日のこの針刺しを今後もやるのかと思うとそれは絶対考えられないんだけど、

かといって40センチの管を刺すっつーのも、きっとあり得ない痛みだろう。
健康を取り戻すって、こんなに痛みが伴うものなのか?
もっとこう、楽にならないのか。痛みというのは本当に、気力を奪ってしまうんだ…。
「悩ましいトコですね…」
「そうですね、ははは」
いまいちこの先生には深刻さが無い!笑
「あと岸さんね、今まで健康診断とかやってないんですか?」
「いや、自由業だったので、ちょっと…」
「そうですか、岸さんの場合あまりにデータが無いので、

今の状態を計りかねるんです。

もし、どこかで診断したとか思い出したら言ってくださいね」
だからやってないっつーの。ヘタレですまんね。
今の状態どころか全く先が見えない。
オレにとって目下大事なのは、針を抜く時も痛いのかしらということだった。
もう、これ以上痛いのはイヤだ…!


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つづく