あなたが…いない sideHの続きです。



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sideR




自由行動が終わり、2日目の夜を迎えた。

この瞬間は恋人同士な2人にとってはとても大切な時間である。

キャンプファイヤーの周りを囲み、2人でフォークダンスを踊る。

みんなの前で踊るからか、それは付き合っていることを宣言するという意味も込められている。






私は由依との待ち合わせ場所へと足を運んだ。

そこには、由依が待っていてくれた。






「由依、、」





「理佐、、それじゃあ行こうか、、。」







そうして私たちはキャンプファイヤーの前に立ち、流れる音楽に合わせてゆっくりと踊る。

2人の手が触れ合い、優しく握られている。






「…っと、やっぱりターンは難しいね。」






「そうだね、、。でも、意外と由依のリードが上手くて驚いてる。」





「…期待してなかった?」






「…正直ね、、!」






「でも、ここからは本気で踊るから、着いてきてね。」





「もちろん!」


 



そして、もっとターンをして、3回転、4回転とクルクル回る。

キャンプファイヤーの周りにはたくさんの生徒たちによるギャラリー、そして、その周りを堂々と踊る私たち。

制服姿で踊っているはずなのに、まるで綺麗なドレスを着て踊っているかのような気分になった。






「…理佐、もう一息だね、、。頑張ろ」






そう言ってもう一度私の手を取って踊り始める。






音楽が少し静かになった時、私は言った…

こんなに幸せなんだから、それを噛み締めたくて…







「…私、由依の恋人なんだよね…?」






そう口にすると、向かい合っていた由依はニコッと笑って、握られた手に少しギュッと力を入れた。

それは言葉を介さずとも私たちの間には確かに存在する関係であった。




この瞬間が終わることを知るのが怖くて、、

私は由依に口付けをした。






「…っ、、!理佐、、んっ、、」






「…由依、、私は由依が、好きだよ、本当に大好き…!」





そんな風に気持ちを伝え、由依からの返答を待っていたが、、しばらく間が空いた。

どうしたのだろうと顔を上げて由依を見ると、何故か宿舎の窓を見ていた…。





「…由依?どうしたの?」






「…あれ、、ううん!何でもないよ。」






直ぐにこちらを向いてくれた由依。

そしてダンスはクライマックスを迎える。

ずっと踊っていたからとっくに体力は限界を迎えていたはずなのに、、まだまだ踊れそうだと心は言っている。





「…ありがとうございました。理佐。」






曲が終わると踊っていたカップルはお互い挨拶をして解散することとなる。






「うん、ありがとうございました、由依。」





そして、私たちも手を離した。

さっきまで由依の手と繋がれていた手の温度が下がっていくのを感じて寂しくなる。






こうして2日目の夜、この合宿の山場が終わった。




この合宿中ずっと由依と一緒だったことが嬉しくて、、





この時間がずっと続いてくれたなら、、、






私はこの上なく幸せなのに…








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sideY




理佐と踊ったダンスも名残惜しいくも終わりを迎えてしまった。

でも、そのダンスの時、向こうの方から視線を何度か感じた。

理佐と別れた後、私はこっそりとそこへ向かった。






「…、」






電気がまだついていた。

こっちの方は私たちが泊まる部屋ではないはずだからきっと何か目的があるに違いない。






(君は…小林由依だね。やっぱり気づいてたんだ。この部屋に電気がついていることと、ここに誰かいて、君を見ていたことを。)





「…誰?見ていたって、なんでそんなこと…」






(なんでって…?君まさか忘れたの?ここは森田さんと待ち合わせした場所でしょう?)






確か、ここだった。

私が指定したわけじゃなかったから一瞬忘れていたが、この人が思い出させた。




この人は一体誰なんだ…

なぜ私を見ている。

それに、、ひかるのことを知っているのか?







「…君は、、なんでそれを知ってるの?」






そう問いかけると、目の前のこの人は私の目を真っ直ぐ見て、、冷静に、そしてどこか怒っているかのように話した。






(森田さんのクラスメイトだよ。ねぇ、君、本当は森田さんと最初に約束したんだよね?)





全てを知っているかのような目に背筋が凍る。






(さっき君が踊っている時、彼女はここで見てたんだよ。"恋人"が違う人と踊ってる姿を。)






やっぱり、ここにひかるは来ていて…






「…っ、それは、、」






(彼女、可哀想だよね。恋人に裏切られるなんて。でもね、彼女言ってたよ。もし私のことがもう好きじゃないなら別れてもいいって。)






「…っ、ひかる、、」






(そうだよね、森田さん。)






そう言ったその時、後ろからもう1人誰かの気配がした。

それはひかるだった。





「…まさか、ひかるずっとここで…、」






「もちろんですよ。ずっと信じてましたから。」







もう忘れていると思っていた。

それか別の友達と踊るのかと…、





(それで、小林さん、、君は誰が好きなの?森田さん?それとも踊ってたヤツ?)






私は…、






「…私は、そんなこと、、、」






(ねぇ、君、自分が何してるのか分かってるの?君は森田さんの気持ちを踏みにじったんだよ。そんなやつが今更言い訳なんてできるの?)






そう畳み掛けてくるこの人、そして、何も言わないひかる。






「…わ、たしは、、理佐が好き…、」





「…、そう、ですか、、」






(…そうか、、。君は森田さんを心から愛している訳じゃないんだな。)






ひかると理佐を今比べてみた。

私が今一緒にいて楽しい人、、、

心が穏やかになる人、

ずっと一緒にいたいと思える人物…




それは理佐だった。





理佐と一緒にいたい、理佐に愛して欲しいし、愛してる。

ひかるを愛していなかったと言えば嘘。

だけど、、それ以上の感情は無かった。



私はひかるにそれを伝える前に理佐と関係を持ってしまっていた…。

そんな最低なことをしていたことに、、気付かされた。気づかせてもらったんだ。






「由依さん、今までありがとうございました。確かにちょっとモヤモヤしたこともありましたけど、由依さんを責めるつもりもありません。もし、私以外で心から愛せる人がいるなら、その人を愛してください。きっとうまく行きます。それでは、お元気で。」






そう言い残して彼女は去っていった。

その背中を見た時、もうこれが最後になるんだろうなって感じた。





(…森田さん、意外とあっさりしてるんだな。案外君のこと、何ともおもってなかったのか…?まぁいい。それじゃ私もこれで。)






この人の名前、聞かなきゃ

そう咄嗟に思い、呼びとめる







「…っ、ねぇ、待って!君の名前を聞いておきたい!」






(…、私はKだよ。)






K、本名なのだろうか。

それともイニシャルなのだろうか。

謎だったが、それ以上は聞かないことにした。





「K、ありがとう。私の罪に気づかせてくれて。もし君がいなかったら、、もっとひかるに嫌な想いをさせていたかもしれない。でも、もう真面目に生きるって決めたからそんなことはしない。1人を真剣に愛することの大切さを知ったから。」






(そう、ま、精々反省してこの先も頑張って。)






「もちろん!それに、、君はひかるの事が好きなの?」





そう言うと、Kは明らかに動揺を見せた。





(そんなわけない。別にただここに通りかかって、、)






「…君ならきっと、本当に彼女を心から愛せると思う。私なんかが言っても説得力ないけどね、、。」






(そ、そうだ、、君に言われたくないな、、!)






「応援してるよ、いつか彼女に気持ちを伝えられるように。」






(全く、こんな浮気なやつに応援されるなんて、、まぁ、でも、君もこれからなんだろ?彼女と。)






「もちろん。これからもずっと一緒にいますよ!」






(そうか。それなら私からも応援してるよ。頑張りな。)






そう言ってKは去っていった。

ひかるにしてしまったことは過去のことでもう変えることはできないし、私がひかるに何か出来ることも少ないかもしれない。

だけど、もうこんな事理佐にも二度としないと心に誓った。






続く。