二学期が始まった。
小林先生には必要ないと言われたが、夏休み中に勉強するために課題を出してもらった。

それをやりながら、だんだん力が付いてきたなと少し嬉しくなった。


それでも私は東大を受けると決めた。
だから、夏休みもそれなりに勉強をした。
自信のある教科も手を抜かずしっかりと勉強した。

そのおかげか、学期あけテストでは5教科全て満点だった。
古文が含まれていなかったとはいえ、最近のテストの中では最高のできだろう。




そして9月の終わりがけ二学期最初の補習。
本当はもっと早くからやりたかったけど、この時期は先生が忙しいだろうから控えた。
もちろん自習は欠かさない。




「やっぱり渡邉さんは凄いよ!!私、数学の先生から聞いたんだけど、今回のテストは絶対に100点を取らせないように、校外模試の問題の応用を出したらしいのよ。」



そう言われて、数学のテストを思い出してみる。
あー、問6のあの問題か。
確かに、的はずれな範囲と、頭一つ抜けた難易度だなぁ、とは思った。



「思い出してみましたが、確かにあれは難易度高い問題でしたね。」




「だよね!そしたら、渡邉さんが100点取ったことを知って、先生ちょっと悔しそうだったよ笑」




「…そ、そうなんですか。それは、ごめんなさい?」




「謝ることじゃないわ。数学の先生だって悔しそうだったけど、同時に"こんな凄いやつがいて誇らしい"って仰っていたわ。だから、渡邉さんも自身を誇っていいのよ?」




そっか、先生、私のことを認めてくれたんだ。
私、色んな人に支えられているな。
やっぱり、そのサポートに応えなきゃいけないな。



「…そうですよね。誇るのはちょっとアレですけど、数学の先生も含め、私は色んな人に支えられているって実感します。それに、何より小林先生には本当に助けられました。」




「…渡邉さん、」




「小林先生には本当に感謝しかない。小林先生とのこの時間のおかげで今の私があると言ってもおかしくはありません。先生のおかげで自信を持てました。だから、良かったらなんですが、何かお礼をさせて頂けませんか?」



私の頭の中には粗品や、お歳暮でよく貰うもの達を思い浮かべたが、直ぐにそんな考えを取り払った。

何を考えてるんだ私は。
23歳の女性にそんなものを贈れない。
もっと何かセンスの良いものをあげたい。

それでもやっぱり本人の希望を聞かなきゃ。



「…あ、あの、もし、何か欲しいものがありましたら、どうぞ、仰ってください、、」



やっぱり、ハンカチとかタオルとかかな?
それともリップとか?
最近ちょっと肌寒くなってきたからマフラーとか?


そんな風に候補を頭に浮かべるが、



「…本当に、いいの?」




「はい!何でも!…、高いものは無理かもですが…」




「それなら…、補習の後、一緒に帰ってくれませんか?」



聞き間違いだろうか。
もし聞き間違いでないのなら、先生は言った。
一緒に帰りましょう、って。



「…えっ、、でも、先生は大丈夫なのですか?」



先生は教師だ。
生徒と一緒に帰っているところを見られたらやばいんじゃないか。



「…大丈夫よ、だってもう夜になるのも早いし、あんな時間まで残ってる人なんていないから。…それとも、私と帰るのは嫌、かしら?」



そう言って少し上目遣いでこちらを見つめてくる。
歳上とは思えない程の破壊力だ。
先生の容姿はただでさえ抜群だ。
そんな人がこんな事をしていいのだろうか。
これじゃ、襲われても文句言えないな。

なんて心の中で思う。


それでも、先生にお返しをするために、



「分かりました。今日はお迎えなので、明日から一緒に帰りましょう。」




「…!ありがとう!嬉しい。」




ぱぁぁと花が咲いたような笑顔で喜ぶ先生。
その笑顔が眩しくて、私まで顔が熱くなった。



「それでは、母が迎えに来ましたので失礼します。今日もありがとうございました。」



「うん!お疲れ様!」




先生は笑顔で私を送ってくれた。
だけど、その後にした先生の表情が私に見えてしまった。




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次の日の朝礼のことだった。
ウチのクラスの担任をしている小林先生は教壇の上でみんなに話す。




「皆さんにお知らせします。最近、欅三丁目で、不審者が出たとの情報がありました。このクラスには欅三丁目から通っている生徒はいませんが、くれぐれも不審者には注意してください。最近は暗くなるのが早いです。暗くならないうちに速やかに下校することを心がけてください。」



欅の方で不審者情報があったらしい。
確かに、欅からここの櫻女子高校は結構な距離がある。
(まぁ、私は欅よりちょっと向こうにある乃木に住んでるけど、欅三丁目は通らないな)


でも、物騒なことにはちがいない。
気を引き締めないと。

でも、そっか、、。
暗くなる前に帰りたくても、先生は帰れないんだ。
それに、私も先生と一緒に帰る約束をした。
先生は私と一緒の電車に乗って帰るらしいけど、先生の家は何処なんだろう。





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渡邉さんと一緒に補習をするようになって結構な時間が経った。


彼女は本当に凄い。
天才なんじゃないかと思う程、吸収が早く、何でもこなしてしまう。

私は本当に数学が苦手だったから、彼女の頭に憧れてしまう時もある。


そして私は踏み入れてはいけないところへと足を踏み入れてしまった。
彼女が時折見せる笑顔や、私を励ましてくれる時の優しい顔。
そして、高校生とは思えないほど大人でかっこいい顔の彼女。

その全てに私の心は掴まれてしまった。
そう、私は彼女に惹かれているのだ。


でも、私は先生だから、彼女にそれを悟られてはいけなかった。
本当は渡邉さんなんて呼びたくない。
理佐さんって呼びたい。
でも、それは叶わない。
それでも、私は理佐さんにずっと惹かれ続けてしまって、ついに私は限界を迎えてしまった。


昨日のこと。
私は理佐さんの私への感謝の気持ちを利用して、帰りに一緒に誘った。

補習の中でする雑談でお互いどうやって通っているのかを話した。
その時に私と理佐さんの電車が一緒だということが分かった。
そこまで知っておいて、本当に狡くて最低だ。


それでも今日、やめるきっかけができた。
それは、不審者情報だ。
理佐さんには言ってないが、私の家は欅にある。
欅二丁目で、帰るには三丁目を通らなくちゃいけない。

今は補習に来る理佐さんを待っているところ。


もうすぐ来るであろう彼女にこのことを言う予定でいる。


そうすれば彼女も私と帰るのを拒むはず。



あぁ、本当になんで、こんなにも惹かれるのかな



「…っ、ぐ…っす、、」



我慢していた涙が一気に溢れてくる。
ああ、ダメなのに。
もうすぐ彼女が来ちゃうのに、、。



溢れてくる涙は一向に止まりそうになかった。









続く。