岡山城本段御殿 御殿の屋根の形の考え方 | 城郭模型製作工房

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城郭模型作家・島 充のブログです。日本の城郭および古建築の模型やジオラマの製作過程を公開しています。

岡山城全景模型、現在本段御殿の製作中です。
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資料にした図面はこちら。
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本段御殿の図面はざっとみて3系統あります。
一番古いのが「御城内御絵図」で元禄年間。一番新しいのが「御本段惣絵図」で1860年、安政〜万延という幕末のものです。
その中間に当たるのが上記の「御本段絵図」です。

古い「御城内御絵図」を元にしたのが、岡山シティミュージアムの復元模型です。
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逆に幕末の新しい絵図を元にしたものが、『歴史群像 岡山城』などでおなじみの復元図になります。
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今回は先程掲載した、その中間にあたる図面を立体化します。この図面は、ほぼ同じ間取りのものが他に2枚ありますので、そちらも参照しながらつくっています。

細かく見ていくと部屋割りが微妙に変わっていて、頻繁に手が入れられていたことが伺えます。

さて、このような大規模な御殿ですが、この平面図にどう屋根をかけていくかが腕の見せ所です。難しくもあり、謎解きのようで楽しくもあり、この建物はこういう用途だからこういう形の屋根かな、本来はこうだろうけどあえてこうしようか、など考えていくのが醍醐味でもあります。
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一見難しそうな屋根の掛け方ですが、私はいくつかの法則に従って屋根の形を推測しています。

その法則をいくつかご紹介します。

①身舎と庇を分ける。
日本の建物の基本は身舎・庇構造です。
メインの身舎の周囲に縁側などの庇がついています。
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わかりやすい例でいうと、こちらの長屋はメインの建物(部屋部分が並ぶ)に縁側が庇として取り付いています。
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書院などでは庇部分は外側に建具を立て、屋根も一体化して屋内化されることもしばしばです。
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つまり、一見複雑に見えても、身舎の部分はきれいな長方形だったり整形である場合が多く、周囲のごちゃごちゃした張り出しは庇として取り付けていくこともできます。
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②棟は垂直に交差させる(雨水の流れを考える)
屋根というのは雨をしのぐことが第一の目的です。雨水を溜めず、どんどん流さねばなりません。

ですから例えばこのように、棟が平行に並んで密着するような屋根は理想的ではありません。
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谷部分に雨水が集まり、雨漏りを起こす可能性が高くなります。

このような場合は間に直角に棟を入れ、雨水が流れていくように工夫します。(別の解決策は後述)
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御殿の屋根は基本は棟を垂直に繋げていく。
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どうしても棟が平行になる場合は、次のように解決してある場合が多く、それは平面図から読み取れます。

建物をある程度離して間に溝などの排水設備を整えてある場合。
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もっと建物が密着してしまう場合はこのようにします。
建物の高さを変えて屋根を上下に重ね、密着しないようにして雨水を逃がします。
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今回の岡山城の本段御殿ではこの部分。
棟が平行にならざるを得ない箇所で、しかも隣り合う建物との間隔は一間しかありません。軒の出を考えるとぶつかるか重なるか…
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このような場合は建物の高さを変えて、軒を上下に重ねれば解決できます。平面図では真ん中に二重線が通っており、排水のための溝かと思われます。両側の板張りはもしかすると傾斜がつけてあったかもしれません。

③格の高い建物は高く、格の低い建物は低く。
書院など、特に格上の建物は、天井も床も高く、軒の高さが高いです。逆に、厠や押入れ、廊下、縁側など格の低い部分は天井が低く軒の高さも低くて構いません。

水平方向だけでなく、垂直方向でも重ねて屋根を考えるとうまく納まっていきます。

この3つの法則に従って平面図を見ると、複雑なような建物も、いくつかの整形パーツに分かれます。あとは増改築が繰り返された名残で敢えて屋根を複雑にしてみたり、自分が棟梁になったつもりで屋根の形を推測していきます。特に今回は、平面図に直接壁面を立てていっているので、実際に建物を建てるつもりで製作を進めています。

製作例。
この「御物干」とある、ウッドデッキ状の中庭部分です。
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中庭は、建物に囲まれた空間なので、まず内側をつくります。
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屋根は低い部分から取り付けていきます。
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内側ができたら、手前の廊下をつくって閉じてしまいます。
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手前の廊下を片流れの屋根にしたのは、物干部分に入る雨水を少しでも減らすのと、この「御廊下 折廻り拾四畳余」の部分が
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右側の廊下を三角お屋根にするとつながりが複雑になりすぎるからです。


こちらは「三畳 菓子方」「炭部屋 板敷」「御納戸 小八畳」の部分。
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縁側まで作り、
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縁側の柱と壁を立てて、外から見える部分は内部もつくっています。
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