先日、「真夏のミリオン」という海軍の潜水艦の戦いのドラマを観た。

久しぶりに白に黒線の見慣れた帽子を見た。

父が戦友会に行き始めて、みんなで作ったと言って愛用していた帽子だった。

買い物へ行く時も、病院へも、旅行にもかぶって行ってた。

ある時、旅行から帰ってくると、

「列車の中でみんなが俺の方を見るけどどうしてやろか」

と言う。 「あの帽子をかぶってなかった?」と聞くと、黙っていた。

やっぱり。

晩年、死ぬ前にもう一度 岡城址に行きたいというので

桜の花の咲く頃行ったことがあった。

岡城址の桜並木の坂を降りて行ってると、向こうから外国の夫人が登ってきた。

後ろに黒い服の日本人男性が一人ついてた。

私達を見ながらその夫人がにこやかに笑っている。

すれ違うときも挨拶をしたほうがいいかな、と思うほどだった。

すれ違ってから父に言った。

「お父さん、あの外国の人、私達のほうを見て笑いかけてたよ。

どうしてだろうね。」

父は黙っていた。あとで、自分の帽子が原因だとわかっていたのだろう。

「あれはゴルバチョフの奥さん。いま、日本にゴルバチョフが来とる。」とだけ言った。

アメリカ人ではなかった。ゴルバチョフの奥さんではないと思ったが、

確かにロシア系のようだった。

父の俳句に「碧き瞳の坂登り来る花城址」 というのがある。

その句を見るたびにその時の情景を思い出す。

海軍の帽子は父と共に昇天した。 10年近く海軍で使っていたのであるから、

愛着があったのだろう。もしかしたら、この町で結構有名になっていたかもしれないと,,

今思う。