moon fly 3



   1

「このルートを選んだのは、このためだったんですね。」
「ああ、このためにリスクを冒してまで遠路遥々この地を訪ねたんだ。」
 クウとカッシュの二人は真剣な面持ちでその時を待っていた。
「さあ、準備できました」
 アリスが二人に告げる。
「おお。」×2
 小さな歓声を上げるクウとカッシュ。二人の目の前に現れたのは、シートの上に広げられた色とりどりの料理が入ったお重の数々である。夜桜の大木の下で3人はお重を囲んでの花見を楽しんでいるのだった。
「では、さっそく頂こう。」
「いただきます。」×2
「いただきます」
 クウはまずホットサンドに手を伸ばす。焼きたてを小分けにカットしたホットサンドはまだ温かく、程良くとけたチーズに適度に火の通ったトマトの甘味が加わり互いに美味しさを引き立て合っている。他の料理も前回と同様に事前に調理冷蔵していたものを温め直してあり作りたての様だ。
「この太巻は甘味と塩味のバランスが絶妙だな。ローストビーフも肉の旨味をよく引き出している。」
「春巻きは衣がサクサクで中の具も熱々で、まるで揚げたてみたいだ。」
「それは私の腕というより調理器のお蔭です」
「へえ、便利な調理器だね。家にも1台欲しいな。」
「我社の最上位機種をさらにグレードアップしたものだからね。ジアーマーの装備の中でもかなりこだわった自慢の逸品さ。」
 胸を張って説明するカッシュ。
「ははは・・。それにしても今回の料理はまるでプロが作ったみたいに本格的なものばかりだね。すごい。」
「はい、今回は有名シェフの方々が公開されているレシピを参考に、独自のアレンジを加え見た目にもこだわってみました。」
 嬉しそうに答えるアリスを見て、きっと彼女はこの料理を作るのに様々な工夫を凝らしたのだろうとクウは思った。


   2

 食事が終わり夜桜を眺めているうちにクウはいつの間にか眠ってしまう。夢の中でクウは大きく枝葉を広げた大樹とその傍らに佇む少女に出会う。少女は愁いを帯びた瞳でクウを見つめる。少女は告げる。
「私たちはキミを待っています。」
 クウが彼女に近づこうとした時、どこからともなく歌が聞こえ目が覚める。気づけばクウはアリスに膝枕をしてもらっていた。歌は彼女が小さな声で口ずさんでいるものだった。クウは幼い頃、母にあやされて眠っていた時のような感覚に触れながら再び眠りに就く。


   3

 数時間後、深夜の高速路を快調に飛ばすジアーマー。山間には海が見え始める。途中送電施設で援助者との接触を図る一行。そこへ、敵MSDO09の精密長距離砲撃が加えられる。敵は3機の無人偵察機DO09Rを使いこちらの位置を正確に捕捉し、沿岸の島から砲撃を行っていた。RXはその3機を次々に踏み台にして高空へ上り、左右の腕による超高速回転加速器投法で遠く離れた狙撃手を逆狙撃し撃破する。


   4

 うち捨てられた崖の上の灯台から夜明けの朝日を望むクウとアリス、眩しく光る日の出の光に目を細めるクウ、そこへ突如突風が巻き起こり崖下から急上昇してきたMSのGE14Sが目の前に現れる。急ぎRXに乗り込むクウ、敵とつかみ合いになるRX、飛行ユニットEL08とドッキングしたGE14Sの飛行能力は凄まじく、RXはそのまま海上へ拉致されてしまう。
 アリスはジアーマーから分離した飛翔ユニット「イージースカイ」に乗り込んで、急ぎRXの救援に向かう。
「行ってきます。父さま」
 広い大海原の高空から振り落とされ、海面に激突する寸前でRXはイージースカイとのドッキングに成功し窮地に一生を得る。海面すれすれの低空飛行から急上昇するRX、アリスは再びRXと融合しSモードを起動する。イージースカイとドッキングしたRXはEXsモードとなり、単機で飛行可能になったことでGE14Sを圧倒し始める。アリスもまたさらに成長し、リンクしたクウのイメージに現れたアリスの姿はクウより少し大人びていた。
「背、追い抜いちゃいましたね」
 GE14Sもまたレッド搭載機であった。そのレッドは苦境を乗り切るため、遠隔攻撃端末を展開し総攻撃を仕掛ける。周囲に展開された攻撃端末による包囲攻撃を、新装備の「ラケット」で正確に反射し端末を次々に撃破していくRX。追い詰められたレッドは攻撃端末によるハッキング操作で、防空警戒に駆け付けた有人戦闘機隊を自らの盾とする。
「上位種・・キサマが・・ニンゲンの・・イノチ・・こだわルこと・・愚か」
 RXはシステムゼロを起動し、驚異的な思考解析と未来予測で先の先をとりレッドをさらに追い込んでいく。勝敗が決しかけた時、レッドは最後の悪足掻きに高高度旅客機に向け高出力ビーム砲のリミッターを解除して発射する。
「こうすれば・・必ズ・・アタル・・」
 レッドの予測通りRXは旅客機を守ろうと自ら射線に飛び込むが、ビームを完全に無効化することは出来ず旅客機はエンジンに被弾し、RXもまた飛翔ユニットを損傷してしまう。
 限界を超えた出力でビームを発射した反動で自壊しGE14Sは海中に没する。RXは海面に漂うEL08を取り込んで飛行能力を回復させると、大きな水しぶきを上げ離床し高度が下がりつつある旅客機の救援に向かう。旅客機を下から押し上げようと試みるRXであったが、旅客機を安定軌道に復帰させるには推力が足りない。そこでRXは月光蝶システムを使って機体背面に虹色に輝く光の翼を形成、ミサイル衛星のミサイルを有線インコムで引き寄せ起爆させ、爆圧を光の翼で受け止めて推進力の不足分を補おうとする。
「ヒトがつくったものならヒトの役に立って!」
 ミサイル爆発の寸前、RXのコックピットである自立飛行機能が備わったコアユニットが強制分離され、クウのみが旅客機の上に運ばれる。自動操縦のコアユニットが安全圏に入った直後、旅客機下面で大きな爆発が起こる。爆発のエネルギーを光の翼が受け止めることで、強力な上昇力を得た旅客機は安定軌道に復帰することに成功する。旅客機上面に取り付いていたコアユニットも無事であった。爆発の光が収まると共に光の翼も崩壊し始め、やがて消滅してしまった。
 数時間後、応急処置を済ませた旅客機は地球への降下を開始する。コアユニットは空港へ向かう旅客機と途中で別れ、しばらく自動操縦による飛行を続け崖の上の灯台傍の平原に着陸した。コアユニットから降りたクウはアリスを失った悲しみで泣き崩れる。そこへ、背後から虹色の光と共に優しい声が掛けられる。クウが振り返ると最初に会った時の小さな女の子の姿のアリスがそこに立っていた。


   5

 アリスが説明するには、コアユニットを分離する際にRXに残った自分はEXsモードを維持する最低限の力を持たせた分身で、分身を形成するためにDGセルが減少したアリスは今の姿に戻ってしまったという。
 迎えにきたジアーマーと合流しクウたちは出発する。