Moon fly



   1

 四角く切り取られた闇に美しい青色の球体が浮かぶ。静寂の中、一人の少女がその青色に魅入られたように佇む。
「行こう、アルティメット。地球が待ってる。」
 少女は傍らの相棒に小さく呼びかけた。それに応えるかのように相棒の大きな瞳がうっすらと明滅した。


「緊急事態発生。本機の主推進器は深刻な損傷を受けました。また、被弾時の衝撃のため本機は予定進路から大きく逸れています。進路を修正してください。」
 警告音が鳴り響くコックピットで少女は懸命に事態打開を模索している。そこへ次なる危機の知らせが届く。
「本機に向け高エネルギー体が放射され・・」
 通達の途中で激しい衝撃が起こる。それが絶望的なものであることを少女は瞬時に悟った。
「本機は高度を維持できなくなりました。修正不能。修正不能。」
 眩い光に包まれて少女とその相棒は、眼下に広がる青い光の中に堕ちていった。

「どうして?・・・」


   2

「ちょうちょ」
「え?」
 母親は幼いわが子が手を伸ばした方へ視線を向ける。すると星の光に紛れて強い光を発する光体が夜空を進んでいるのが見えた。
「何かしら?飛行機じゃないみたい。流星?」
 光体は虹色に輝き、その光のシルエットはどことなく蝶を連想させた。
「りゅうせい」
「そう、流星。流れ星のことよ。」
 わが子に説明しつつも、光体の正体をつかみかねている母親であったが、その美しい輝きに見入ってしまう。ふと気づくと周囲の夜空に星とは異なる無数の光の粒が瞬き始めた。普段見慣れたオーロラとは異なる光。それはまるで雪が降るように空から舞い降りてくる。その光の粒からは不思議と安心感のようなものが感じられる。幻想的な光の饗宴はしばらく続き、いつの間にか消えてしまった。あの光体も姿を消していた。まるで本物の流星が流れすぎたかのように。


   3

「何とか間に合いそうだ・・」
 視界の片隅に表示される時計を確認しながらクウは歩みを速める。友人と駅前での待ち合わせに間に合うよう公園広場をショートカットする。人口天井からのものとはいえ、木々の枝の間から降りそそぐ木洩れ日の光が心地よい。
「・・・さんの自らの絵にこめた思いを語っていただきました。それではスタジオの専門家の意見を伺いましょう。・・・」
 時間を確認するために立ち上げたニュース番組では若い芸術家の話題が放送されている。クウもこの芸術家の作品はいくつか見たことがある。先鋭的で印象深い作品はとても同世代の若者が描いたものとは思えない心に響くものに感じられた。
「・・・さんもあの月光蝶の影響者であると噂されていますよね。・・・」
 クウの耳に気になる単語が入ってきた。
「月光蝶」
 十数年前ある特定の地域で観測された不可思議な現象。その日夜空に現れた大きな流星のような光体のことを指す言葉だ。その光体がまるで巨大な光る蝶のように見えたことからいつしかそう呼ばれるようになった。
 当時の映像記録も不鮮明なものが多いがいくつか残っていて、確かに光り輝く蝶のように見えた。だが「月光蝶」の話題で注目されるのは月光蝶そのものもさることながら、それを目にした人たちの中にその後、特異な才能を発揮する人の割合が多いことだ。番組でもその話題が話されている。才能を発揮する人は芸術、科学、スポーツ分野と多岐にわたり偶然ではないかとの見方もあるが、人々は彼らの中になんらかの共通性があるように感じるものがあり、いつしか月光蝶の噂は定着していた。
 月光蝶の話題に引かれたのは、実はクウも幼い頃に母親とともに月光蝶に遭遇しているらしいのだ。らしいというのは当時のクウ自身があまりにも幼かったのと、その時現場にいたのが母親とクウの二人だけであったため、他に証人がいないためだ。当の母親もおっとりとした人で「月光蝶だったかも」程度にしか捉えておらず、確証もないようだ。なにより母子そろってごく平凡な人間で特異な才能など持ち合わせていなかった。
 気がつくと番組も次のトピックの新型音速旅客機の話題に移っている。クウは受信を終え目的地へと足を速める。目的地への最短コースをとるために広場の緑地帯に足を踏み入れる。緑地帯は人が歩けるよう整備されているのだが、自然が感じられるようあえて舗装処理は行われず土の地面である。自然環境から隔離された空間での生活を強いられるようになった人々は、少しでも自然にふれる機会を増やそうと以前にも増して緑化活動に熱心になっていた。クウにしてみればもの心ついた頃からこういった環境が当たり前の世界で暮らしているので違和感は感じない。むしろコロニーで暮らさざるおえなくなった今の人々のほうが人工的とはいえ自然に接する機会は格段に増えていた。
 凹凸のある土の道を歩いているため、クウの視線は通常より注意深くなっている。ふと気づくと、その視界にいつのまにか見慣れぬものが入ってきている。ちらちらと視界に漂うそれは、最初、木漏れ日の中で草木に反射した光のいたずらかと思われたのだが、意識を傾けるとそれは何かの生き物のように振舞っている。さらに注意深く観察すると、それはごく小さな光る球のようなもので、頭頂部の左右にさらに小さな光る球が羽のように生えている。その羽を羽ばたかせながら光る小玉がクウの前をぴょこぴょこと先行している。まるでクウを誘っているかのようだ。
 最初は何かの錯覚かと思っていたクウもその不思議な光る小玉に興味が湧いてきた。待ち合わせにはぎりぎりなのだが、ちょっとだけのつもりでそれを追い始める。小玉は相変わらず、ぴょこぴょこと弾むように先を進んで行く。クウはさらに歩を速めるのだが、小玉との間隔は縮まらなかった。夢中になって追いかけているうちに、クウは何か見知らぬ薄暗い林道に迷い込んだような錯覚に囚われる。そもそもこの公園の緑地帯にこんな道があっただろうか。ぼんやりと浮かぶ疑問を頭の片隅に、クウは小玉を追いかけさらに奥へと進んでいく。すると突然目の前が明るくなった。
 急な光にクウは少し目を細める。見るといつの間にかひらけた空間に出ている。そこは周囲を木々に囲まれ、草が絨毯のように生い茂る円形広間のような空間で、周囲の木の枝に円形に縁取られた空がのぞく。広間の中央には大きな樹が一つ存在していて、樹は陽光に照らされ、まるで樹自体がうっすらと光っているように見える。その明るい光が降りそそぐ空もいつもの人口的な空とは違う気がする。
 クウが空間の不思議さに気をとられている間に、光る小玉はすでに大きな樹のそばへ跳ね進んでいる。ここまで来て見失うわけにはいかないのでクウは慌ててそれを追う。すると光る小玉がひときわ大きく跳ねた。その軌道を目で追っていくと光る小玉は空中に着地するかのように動きが止まった。光る小玉が着地したのは小さな手のひらの上だった。いつのまに現れたのだろう、大きな樹の前に一人の女の子が立っている。女の子はふんわりとしたスカートの白いワンピース姿で、青い大きなリボンがついた縁の広い白い帽子をかぶっている。光る小玉はその子の手の上で、まるで小鳥が小枝の上にとまるようにとまっている。
「キミ、こレがミえていまスね」
 女の子の不思議なイントネーションの声が響いた。クウは質問の意味が呑み込めず、きょとんとした顔で女の子を見る。女の子はそんなクウに対してやさしい笑顔を向けている。その表情にクウは以前この子に会ったことがあるように感じた。
「きみは・・」
「ワタシはアリス」
 アリス。童話に出てくるような名前だ。クウにはこの名前の知り合いはいない。やはり初対面だろうか。
「アナタはものがたりにエラバレました」
「選ばれた?僕が?」
 クウには女の子が言っている意味が分からない。
「ソウです アナタはものがたりノしゅえんノひとりにエラバレました」
「主演?それって・・」
 クウが疑問を口にしかけた時、女の子が両手で光る小玉をやさしく包み、そのまま頭上に放り上げた。クウも空に舞い上がった光る小玉を見上げる。小玉は自ら勢いよく上昇し、円形に縁取られた空の中心にたどりつく。すると一瞬、小玉が強く光り、そして小玉を中心に虹色の光る帯のようなものが突如流れ出し、空を覆った。その流れとともに小玉もはじけ様々な色に輝く無数の小玉が周囲に拡散した。
「こっチです」
 突然起きた光の協演に釘付けになっていたクウの手を女の子がつかんでクウに一緒に来るよう促す。クウは女の子に促されるままに一緒に駆け出した。二人はクウが入ってきた広間の入り口に向かい、虹色の光で満たされた広間を抜け出す。そのまま狭い林道を駆け抜ける。薄暗かった林道は周囲の草木が虹色の光で照らされ、ついさっき通ってきた同じ道とは思えない。それに周りの草木が過ぎ行く速度が速すぎる気がする。クウは自分が現実とは違う世界に迷い込んでしまったような感覚に捕らわれていた。
 どこまで駆けてきたのだろう。ずいぶん長い道を進んでいるように感じた時、明るい林道の先が暗い洞窟の入り口のようになっているのが見えた。そして二人は吸い込まれるようにその中に入っていった。


   4

「反応が現れました。今、詳細を送ります。」
 どことなく大型旅客機の操縦室を思わせる密閉空間に、スーツ姿の3名がそれぞれに与えられた特殊シートの席に座り画面越しに情報を精査している。
「やはりここか・・。」
「事前の予測通りでした。これなら先行部隊が間に合いそうです。」
「馬車のほうは?」
「そちらはまだ捕捉できていません。」
「見つけ出せ。すでに動いているはずだ。」

 暗闇の中をクウはアリスに手を引かれて歩いていた。この洞窟のような空間には今入ってきたばかりだというのに、振り向けば入り口は見えず周囲は闇に包まれている。クウは自分が何処へ向かって歩いているのかさえ分からなくなっている。けれどアリスには自分が向かうべき方向がはっきり分かっている様子で、迷いなくぐんぐん先を歩いていく。
 不安の募るクウがアリスに話かけようと思った時。足元を何か光るものが通り抜けた。少し驚いたクウを余所に、光る物体はクウの目の前で大きく跳ね、アリスの肩に静かに着地した。見覚えのあるそれはさっきの光り球であった。
 アリスの肩に乗ったペットボトルのキャップくらいの大きさの光り球は、クウの方へ振り返って頭にはえた丸い形の羽のようなものをひょこひょこ動かしている。
「コンニチワですって」
 アリスが少し振り向いて小さく微笑む。
「君はこれの言うことが分かるの?」
「ハイ だいたいワカリます」
 アリスの肩の上にとまっていた光り球はぽんっと跳ねて、今度はアリスの白い帽子の土星の輪のように広がる縁の上に載り、その上をまるで帽子の衛星になったようにくるくると回り始めた。光り球は明らかに自らの意思を持って振舞っている。ホログラフにも見えるが、既存のものとは違うように感じる。
「これって何なの?」
「このコは「はろ」です」
「ハロ?」
「そウ あなたたちのコトバではハロ ハロはわたしのカゾクです」
「家族・・。」
「ハロはワタシタチのツナガリをサポートしてくれます」
 クウにはアリスの言うことがいまいちのみ込めない。アリスはそんなクウの表情を見て取って、ハロに呼びかける。
「ハロ おねがい」
 すると帽子の上にいたハロが再び跳ね、クウの頭の上に着地、と同時にぽんっと光りの粒子になって消えた。少し面食らったクウ、その脳裏に突然イメージが湧き起こる。
「え?」
 イメージは波が押し寄せるように広がり、クウの頭の中を駆け巡る。それは水の流れのようなイメージから始まって、見たこともない風景や生物であったり、遺跡や古い町並み、祭や儀式といった様々な文化、科学や芸術それら人類が生み出したもの。それらのイメージは深い水底に届く光のように輪郭ははっきりしないのだが、まるで地球の歴史を原初の時代から追体験するような感覚を覚えるイメージの奔流であった。
 イメージの奔流は一瞬で過ぎ去り、最後に虹色の光が視界に拡がりクウは我に帰った。気づくと、辺りは暗闇ではなくさっきまで歩いていた公園の緑地帯に戻ってきている。そして、目の前では七色の光の粒子がアリスの頭の上で集束し、ハロが形を再形成してアリスの帽子にふわりと着地するところだった。
「今のは・・?きみたちは一体?」
 混乱気味のクウ。そこへ突如突風が巻き起こり、周囲の草木が大きく揺れた。それと同時に大きな影が現れ、陽光を遮る。クウが頭上を仰ぎ見ると、どこから現れたのだろう、空中輸送機が滞空している。低いローター音を響かせて、ゆっくりこちらに降下してくる空中輸送機。その後部ハッチが開き、内部から複数の影が降りてくる。
 牽引ワイヤーを使って順繰りに降りてきたのは3機のMSだった。
「MS」それはコロニー開発が始まる少し前から普及し始め、各地での本格的なコロニー開発ラッシュとともに爆発的に普及した人型作業機械の総称である。サイズ等の規格は用途やメーカーによって異なるが、国際的な統一規格がかなり早い段階で設けられたため、装備品等の共有化が図られている。
 大きさは人間サイズから大型重機サイズが一般的だが、中には手のひらに乗るサイズや大型旅客樹サイズのものもある。用途も近年では幅広く使用されるようになり、建設分野から工作、医療、エンターテインメント、軍事と広がりを見せている。
 クウたちの目の前にいる3機は3メートルほどの大きさで、低い色調に抑えたグリーンの本体色、左肩には大きな盾のような装甲が装着されていて、右肩にはスパイクのようなものが埋め込まれた丸みを帯びた装甲が装着されたどこか西洋甲冑を想わせるシルエットのMSだ。その頭部を横に輪切りにするように刻まれた細い一本のスリットの上を長方形の光点が、まるで周囲を警戒する目のように忙しなくスライド移動している。右アームにはいかにも物騒な長物が装備されている。
 その3機の目が一斉に正面のクウを見据え、長物の先端がクウに向けられる。
「君、それが見えているな?」
 中央の一機が合成音声を投げかけてきた。
「?」
 突然の問いにクウは戸惑う。
「答えなさい。君はそれが見えているな?」
「??」
 状況が呑み込めず答えられないクウ。
「答えなさい。君はそれが見えているな?」
 同じ言葉を繰返し、緑のMSは一歩前進する。その威圧感に気圧されてクウは思わず後ずさる。
「怯えることはない。君はただこちらの質問に素直に答えればいいんだ。」
 MSはクウの警戒心を和らげるために言葉を投げかけるが、無機質な金属の頭部から発せられる音声とこちらに向けられたままの銃口からは変わらぬ威圧しか感じない。構えた姿勢のままMSはさらに歩を進め間合いを詰めてくる。混乱しているクウは緊張で体を強張らせながら後ずさるばかりだ。
「埒が明きません。こちらも時間が限られている。仕方がないので強硬手段をとらせてもらう。」
 そう言うやいなや3機のMSは包囲を狭めてきた。そして先頭の一機がクウを捕らえようと腕を振り上げた。
「させない!」
 突然アリスがMSに立ちはだかるようにクウとMSの間に割って入った。右手をMSにかざすアリス。すると、突然先頭のMSの動きが止まった。よく見るとMSの体の関節が異常をきたしたように細かく震えているようだ。スリットセンサー上の光点も左右に不規則に揺れ動いている。
「・・何が・・起きて・・いる・システム・・エラー・・」
 MSは全身を震えさせながら片言に音声を発している。そこへもう一機がフォローしようと近づいてきた。それを見て取ったアリスは、かざした右手を何かを引っぱるように自身の体に大きく引きつけた。すると動きが止まっていたMSの体が前方につんのめるように傾いた。触れてもいないのにまるでアリスに引っぱられているかのように見える。
「エイ!」
 かけ声とともにアリスが右手を勢いよく押し出した。その瞬間MSはのけ反りながら後方に投げ飛ばされ、フォローに入っていたMSにぶつかり、2機はもつれて倒れてしまった。
「イマのうちです」
 振り返ったアリスはクウの手を取り二人は駈け足でその場を離れるのだった。


   5

「くっ・・、どうなっている?何が起きた?」
 モニタールームでMSの行動に指示を与えていた男は画面を見ながら声をもらした。
「ビンゴ、と言ったところか・・。」
 もう一人がやや落ち着いた感じで応じる。
「どういうことだ?」
 男は顔を上げ疑問を投げかける。
「見てみろ。ZA06がひっくり返る直前の少年の反応と逃げていく姿勢。何か不自然だ。まるで何者かに手を引かれているように見える。恐らく「いた」のだろう。」
「いた?」
「そうだ。報告通りだ。ZA06のセンサーでは捉えることができない何者か、つまり目標だ。やはりあの少年は目標と接触していたんだ。直ぐにZA06を立て直し、あの少年を確保するんだ。こちらは増援を要請する。」
「ああ、わかった。」

 クウたちは森林区域を走り抜け駅前に続く大通りに出た。
「今のMSは一体・・、何が起きてるんだ・・?」
 息を切らしながら疑問を口にするクウ。見ればアリスは息も切らさずに落ち着いた様子で、何か思案しているような様子だ。
「いまレンラクしました、すぐにキてくれるはずです」
「来てくれるって?誰が?」
 MSが追ってくるのを警戒して後を見ていたクウは振り向いて尋ねる。
「トーサマです」
「父さま?お父さんのこと?」
 その時クウたちが逃げてきた森林区域の方からMSと思われる駆動音が聞こえてきた。
「来た。あのMSが追ってきたよ!」
「こっちもキました」
 あせるクウを尻目にアリスが冷静に答えた。
「え?」
 ズザーーー!
「うわ!?」
 突然の大きな擦過音。驚いて見れば大型トレーラーがタイヤをややスリップさせながらこちらに迫ってくる。クウはとっさにアリスをかばうように車道から離れようとする。
「ダイジョウブですよ」
 アリスは落ち着いた様子で応対する。
 キキーー
 ブレーキを響かせて大型トレラーはクウたちの目の前で停車した。トレーラーはかなり大型のもので形も一般的なものとは異質な印象を受ける。特に運転席後部にそびえる2対のクレーンと思しき物体と、側面にパン屋の大きなロゴが描かれたパネルが貼られた、巨大なコンテナ部分が特徴的だ。
「さあ、乗りたまえ!」
 スピーカーからの音声とともにトレーラーの運転席後部のドアが開いた。
「ハイ」
 返答とともにアリスはジャンプし、迷いなくドアの中へ跳び入った。それを見たクウは我が目を疑った。ドアは地面から3m以上の高さにあったのだが、アリスはそれを一跳びでドアの中は入ってしまったのだ。
「さあ、どうぞ」
 ドアの中から顔を出したアリスがさも当然のようにクウを手招きする。
「どうぞと言われても・・。」
 クウはドアの周りを見回したが足場になるようなところはない。クウがためらっていると、後ろから突風が起こり、葉を撒き散らしながら先程の追手のMS3機が現れた。3機はトレーラーを包囲しようと展開する。
「仕方ない。君は直接乗りたまえ。」
 パシューー
 スピーカーからの音声と同時にコンテナからガスの噴出するような音が聞こえ、コンテナ側面が開いた。直後、その中から何か大きな物体がクウに向かって伸びてきた。そしてそれは瞬く間にクウを摘み上げた。と同時にトレーラーは急発進。虚を突かれたMSを置いて一目散に走り去った。
「うわ!?ちょっ、と待って・・!下ろして・・!」
 突然走り出したトレーラー。クウはそのコンテナの上の中空でトレーラーが加速する様を、直に感じる空気の流れや加速Gによる臨場感を伴って体感するはめになっている。高さと速度からくる恐怖心で軽いパニックに陥りながらもクウは現状把握に努める。見れば自分を中空に引っぱり上げたのは大きなロボットアームのようだ。その大きな手に捕まれたまま身動きがとれずにいる。しかし強引に摘み上げられた割に、体には痛みや苦しさがない。そのことから、これはかなり高度で繊細な力の制御が可能なロボットアームであることが判ぜられた。よく見るとトレーラー自体も速度の割に安定して走行しているように感じる。どうやらこの状態のままでも余程の事故を起こさない限り、安全にドライブを続けられるのかもしれない。けれどいくら安全でもリアル絶叫アトラクションなどいつまでも続けていられない。すでに追手からも大分距離を空けている。早急に現状を改善しなくてはならない。
「あのー、いい加減降ろしてください。聞こえてますか?降ろしてください。」
 アームを叩きながら大声でトレーラーに呼びかけるが返事はない。これだけ大きなトレーラーでは外から呼びかけても中の人間には聞こえないのだろう。
「どうしよう・・。まさか忘れられてるわけじゃないだろうけど、このままじゃ、こっちの身がもたない。」
 途方に暮れるクウ、一方のトレーラーはそんなクウをほったらかしでぐいぐい進んでいく。
「あれ?」
 若干落ち着きを取り戻したクウは周りの小さな異変に気がついた。この時間帯交通量は少ないが一般車が普通に通行している。だが、トレーラーが近づくとそれらの一般車両は路肩に寄ってトレーラーに道を空けてくれるのだ。中にはトレーラーが近づく前に道を曲がったり、パーキングエリアに入ったりしているものもある。まるで緊急車両扱いである。
 法定速度そっちのけで快調にとばすトレーラー。駅からもどんどん離れていく。クウは先程から友人や警察に連絡しようとネットへのアクセスを試みているのだが、なぜかアクセスすることができない。
「まいったな・・、もしかしてとんでもないことに巻き込まれてるのか・・?」
 八方ふさがりの状況に嘆息するクウ。そこへ前方視界にまたしても危機感を伴う物体が出現する。
「ん・・、あれってもしかして・・。」
 前方上空に現れたのはさっきの輸送機と同じものだ。それが2機まっすぐこちらへ飛んでくる。
「警告します。ナンバーR7802のトレーラー。ただちに停車しなさい。」
 輸送機から警告が発せられる。しかし、トレーラーが速度を落とす気配はない。
「警告します。R7802のトレーラー。停車しなさい。従わなければ実力行使に移行します。」
 警告を繰り返す輸送機、その機体側面の小型ハッチが開き、中からいかにも物騒なものが顔を出す。それはこちらを照準し、鋭い光を発した。直後、トレーラー前方の路面から2,3mの噴煙が連続して噴き上がった。
「止まりなさい。次は命中させます。」
 そこで変化が起きた。トレーラーは速度を落とし始めた。そのまま停車するのかと思われたが、急左折、車体をやや横滑りさせながら大型店舗の駐車場へと雪崩れ込んだ。そして、駐車場の中央で緊急停車する。目まぐるしく変化する状況に文字通り振り回されるクウ。
「うぅ・・、いい加減降ろしてくれ・・。」
 ややぐったりしたクウが呻く。
 ガコッ
 突然コンテナ天面が開き、暗い内部で二つの目のような光が灯る。その目に魅入られたような錯覚を覚えるクウ。
 クワッ
 その時、闇の中で大きな口らしきものが開き、彼をつかんでいたアームが動いてクウは闇の中の何者かにのみ込まれた。


    6

「くっ・・」
 いきなり放り込まれた闇の中でクウはゆっくり体を起こし、周囲を注意深く観察する。開いていた入口は即座に閉じられ、さっきまでの喧騒が嘘のように静寂があたりを包んでいる。恐る恐る手を伸ばしてみると、すぐに障害物に手が触れた。どうやらかなり狭い空間に閉じ込められてしまったようだ。手の感触を頼りにさらに観察を進めると、足元はクッションのような感触で座席になっているらしい。その左右には把手のようなものが添え付けられていて、座席の足先にはペダルのらしきものがある。更に手を伸ばすと、周りの壁は表面がかなり滑らかで凹凸がほとんど無かった。恐らく球に近い密閉空間であると推察された。
「ダメだ。開きそうにない。」
 試しに閉まったばかりの入口を押してみたがびくともしない。外からの音も入ってこず、いくら耳を澄ませても自身がたてる物音以外何も聞こえない。振動も伝わってこない隔絶された状態である。それに空気の流れも感じられない。酸素がいつまでもつかという不安が浮かんだとき、頭上から微かな光が差した。見上げると座席の正面にあたる、先程閉じられた壁面部分がうっすらと光を放っている。その光に追従ように座席の周りにもいくつかの小さな光点が灯り始めた。
「ゴキゲンヨウです」
 聞き覚えのある声が耳に入ってくる。アリスの声だ。
「アリスなのか?」
「ハイ こちらはアリスです」
 クウの問いかけに無邪気に答えるアリス。
「閉じ込められたみたいなんだ。どうなってるか分かるなら教えてくれ。」
 クウにはこの状況を作り出した原因がどうやらアリスに関係しているらしいように察せられ、彼女なら事態の説明ができるのではと期待した。
「ゲンジョウのセツメイですね イマわたしたちがのるトレーラーはテキさんにとりかこまれてます」
 敵とはさっきの輸送機やMSのことだろうか。
「それでゲンジョウをダハするためにクウさんにおねがいがあります」
「お願い?」

「動きがないな。さすがに観念したか。」
 移動指令所で追跡目標の動きをモニターしていた男が呟く。
「そうだな。7機のZA06に2機のZA06Jに取り囲まれては逃げようがない。これで目標を確保できる。」
 もう一人も安堵した様子でディスプレイを見ている。映されている現場ではZA06とその派生型である大型機のZA06Jが、トレーラーを取り囲んでその乗員に投降を促している。
「目標を押さえた後、あのトレーラーはどうする?ずいぶんでかいコンテナだが中身は何だ?」
「3日前に大型重機運搬目的で運び込まれた車体を偽装したものらしい。偽装前に行われた検問では違法性は認められなかったそうだ。かなりのサイズだからな。レッドに処理させるらしい。今、出撃させたそうだ。」
「レッド?あんな物騒なものを市街地で使うのか?」
 男が意外そうな表情で顔を上げる。
「事故に見せかけて処分するのだろう。」
「やれやれ。ずいぶん大雑把な対応だな。」
 男はあきれた様子で再び画面に目を戻した。現場ではZA06が最終勧告を行っている。
「出てこないな。数発威嚇させるか?」
「そうだな。タイヤの一つも壊せばあきらめて出てくるだろう。」
 指示を受けてZA06が射撃体勢に入った時、トレーラーに動きが見られた。コンテナ部分の上面がゆっくり開き始めた。



   7

「操縦方法は大体分かったけど、上手くやる自信はないよ・・。」
「ダイジョウブです いつものようにやればカナラズうまくいきます」
 不安の色を隠せないクウに対して、アリスが自信たっぷりに応じる。
「それではハッチをあけます ちゃちゃっとテキさんをやっつけてください」
 ガコッ・・ゥイーー
 アリスが言い終わると同時に天井が開き始め、明るい光が降り注いできた。
「やるしかないのか?・・」
 モニター越しの外光に照らされ、目を細めながらクウは機体を起き上がらせようと操縦を始める。ゆっくり開いていく上面ハッチと共に機体の上半身もゆっくりと起き上がっていく。それにともないモニターに映る視界も高度を増していく。そして、いよいよ機体の頭部が外へ出る寸前に目の前に見覚えのあるシルエットが影を差した。


「なんだ?」
 突然開き始めたコンテナを訝しむ男B。
「ちょうどいい。2番機コンテナに上って中を調べろ。」
 男Aの指示でZA06の2番機がコンテナ上部に飛び乗り中を覗き込んだ。2番機からコンテナの薄暗い内部の映像が送られてくる。映像が暗視モードに切り替わる直前、コンテナ内部で何か目のようなものが輝いた。そこで、
 ガッ!!
 スピーカーからの鋭い衝撃音が指揮所内に鳴り響いた。それと同時に画面に激しくノイズが走り、映像が目まぐるしく変転する。一瞬の出来事に理解が追いつかない男A。別視点から現場を観察していた男Bの目には、破片を撒き散らして空中に吹き飛ばされたZA06の姿が映る。ZA06はそのまま地面に落下、火花を散らして数m転がった後、機能を停止した。
 異様な事態に部隊は暫し沈黙するも、直ぐに我に返り包囲を固める。トレーラーのほうはと言えば、コンテナハッチが何事もなかったかのように開ききったところであった。その開いたコンテナから巨体が姿を現した。
「なんだあれは?」
 現れたのは大型のMSと思われる白い人型である。
「報告にあった重機か?MSだったとは。大きい、全高は7mほど、ZA06の倍はあるな。」



   8

「やってしまった・・。」
 モニターに映る破壊され動かなくなったZA06の残骸を見ながら呟くクウ。無我夢中で行なった自らの行為に戦慄のようなものを覚えていた。無人機とはいえ相手を殴り飛ばし破壊してしまった。実際に殴ったのは今クウが乗り込んで操縦している大型MSだが、まるで自身の手で殴ったような感覚が残っている。
 ブンッ、ブブンッ・・
 急な電子音とともに複数のマーカーがオレンジ色に点灯した。クウは我に返りそれらのマーカーを注視する。どうやら複数の敵MSがこちらを照準しているようだ。
「ウってきますよ ヨけてください」
「よけろと言ったって・・」
 アリスの警告に慌てるクウ。直後、敵の一機が発砲した。
「うわ!?」
 敵の発砲に反応してクウは反射的に機体をジャンプさせた。


「飛んだ?」
 発砲と同時に30mの高さに舞い上がった白い巨体を見て男Aは思わず口走った。ZA06が放った弾丸は標的を見失い空しくトレーラーの上を通り過ぎる。白いMSは空中でややぎこちなく手足を動かしながら自由落下しトレーラーの目の前に着地する。着地の反動で若干よろめいて膝を落としかけた後、大地をしっかりと踏みしめゆっくりと体を起こし立ち上がった。
 白い巨体の存在感に畏縮したかのような反応を見せる周囲のZA06たち。その眼前で白いMSは悠然と足を振り上げ第一歩を踏み出した。
 ガシュ、ガシュ
 巨体に見合わない軽い音を響かせて歩き始める白いMS。だが最初に見せた悠然さは消え、その歩く姿は頼りなくおぼつかない感じた。
「なんだ?あの歩き方は。まるで歩き始めたばかりの子供のようじゃないか。話にならん。2号機、3号機さっさとそいつを拘束しろ。」
 命令に従い2機のZA06が左右からワイヤーアンカーを発射する。放たれた鋼糸ワイヤーが白いMSの左右の腕に巻きつき、両側から強い力で引かれ一瞬動きが止まる。が、直ぐに動き始め、逆に左右のZA06の方がワイヤーで引きずられ始めた。腕に巻きついたワイヤーも気にせず2体のZA06を引きずりながら歩き続ける白いMS。その歩行姿勢は一歩毎に安定的なものになっていく。その動きを見て男Bが呟く。
「動きがスムーズになっていく、動作学習が急速に進んでいるのか?それに細身の割にかなりのパワーがあるようだ。」
「何をやってる。残りのZA06は奴に攻撃を加えろ。今ならかわせないはずだ。」
 男Aがややイラついた様子で部隊に指示する。指示を受け5号機と6号機が手にした大型マシンガンを構える。マシンガンの銃口が白いMSに向けられた瞬間、白いMSの両腕が素早く振られた。風を切って高速に降られる腕に、巻きついていたワイヤーが急速に引かれ、それを引いていた2号機と3号機の体が糸で引かれたけん玉の球のように宙を飛んだ。
 ガギッ!!×2
 飛ばされた2機はマシンガンを構えていた2機にそれぞれがほぼ同時に激突し、4機のZA06は火花と破片を撒き散らして吹き飛び1号機と同じ末路をたどることになった。白いMSといえば右腕に巻きついていたワイヤーを器用に解き、左腕のワイヤーも解いて右手で掴みなおした。
「何をする気だ?」
 白いMSの次の行動に男Aは思わず身構える。そこで相手は意外な行動をとった。掴んだワイヤーをまるで新体操のリボンのようにクルクルと頭上で回し始め、その回転速度が徐々に上がっていく。
「何のつもりだ?」
 男Aは奇妙な行動にあっけにとられたが、すぐにその意図に気づいてしまった。白いMSが頭上で回すワイヤーの先端にはZA06から外れた腕が残っていて、その先端にあたる肩はスパイクが付いた球状装甲になっている。
「まさか・・」
 そのまさかである。短時間でヘリのローターのような回転を始めたスパイク装甲付きワイヤー、その回転速度が十分に達したと判断した白いMSは右腕を勢いよく振り下ろした。振り下ろされた手に捕まれたワイヤーは鞭のようにうねりその先端のスパイク装甲が4号機の頭部に直撃し、4号機の頭部はビリヤードの球のように弾け体を残してあらぬ方向へ飛んでいった。白いMSは弾けた勢いがまだ残っているスパイク装甲のワイヤーを素早く引き回す。それにともない白いMSを中心に大きく円軌道を描いたスパイク装甲が次の標的に即座にヒット、今度は9号機の頭が弾け飛んだ。
「野蛮人め!」
 原始的とも言える攻撃で2機のMSを瞬時に破壊され、毒づく男A。画面では白いMSが再び頭上でワイヤーを回転させている。こちらのZA06は残り2機になってしまった。
「仕方ない。J型も参戦させるぞ。」
「いいのか。こんな街中でJ型に戦闘をさせても。」
 J型はZA06シリーズの一つで全高10mほどの大型機だ。使用できる武装も強力で本格的な戦闘に特化している。今回の作戦では車両捕獲に使用するため2機のJ型が後方に控える形で参加していた。
「他に方法がない。レッドもこちらに向かっている。どちらにしろ穏便に事態を収集することは不可能だ。」

「すごい・・。」
 クウは自分が操縦し動かしたMSの性能に素直に感心していた。簡単なレクチャーを受けただけの自分がまるで自身の手足のように自在に動かすことができる。それにコンピューターが的確にこちらの意図を汲んでくれるためイメージした通りの行動を苦も無く行えた。
「どうですか このコつよいでしょう」
「うん、ホントにすごい。強いしスイスイ動かせるよ。」
 アリスの呼びかけに素直に答えるクウ。
「そうでしょう さあこのチョウシでのこりもやっつけてください」
「ああ。でも、ここまでやってしまっていいのかな・・。」
「いいんです アイテはヒゴウホウなシュダンでこちらをねらうワルイひとたちです セイトウボウエイです」
 不安気なクウにはっきり答えるアリス。
「残りはMS1機と輸送機3機、それに大型車両が2台か。このまま倒すことはできそうだけど少し気が引けるな・・。もう勝負はついたし降参してくれないかな・・。」
 無人機でも一方的に破壊するのは気が咎める。
「そうでもないです いまキドウしている2キのMSはいままでのものとはチガイマス」
 新たな警告マーカーが後方に待機している大型車両に表示されている。見ればカバーがかけられた車両荷台部分がせり上がっていく。荷台は8mほどの高さまで上がると停止、カバーが外れ中から現れたのは2機の大型MSだった。
 ほぼ同時に2機の大型MSの目に光が灯り、足を踏み出して荷台から降りてくる。背丈は10mはあり、その一挙手一投足にはいままでのMSにはない重量感がある。携帯する武器も大型で破壊力がありそうだ。これも西洋甲冑を想わせるシルエットであったが、見覚えのある姿形をしている。
「あの2機、見覚えがあるんだけど、あれって・・」
「あれはZA06J シュリョクセントウMSとしてセカイジュウのグンでシヨウされているキタイです ホウドウばんぐみでもよくでてきますね」
「やっぱり・・、どうしよう、さすがにあれは無理だ。逃げないと。」
「ダイジョウブ ZA06Jはつよいですがセイノウはこちらがはるかにうえです かてます」
「ホントに?でも、あれの攻撃を受けたら危険なんじゃ・・」
「そうですね こちらもソウビをととのえましょう いますぐトレーラーからセンヨウソウビをうけとってください」
 そこで画面に専用装備の位置が示された。
「これって・・」
 示されたのはトレーラーの左右両側に取り付けられているパン屋のロゴが描かれたパネルであった。
「装備ってこのパネルのこと?」
「そうです このパネルはそのコのセンヨウシールド タテとしてシヨウできます」
「これが盾?これで攻撃が防げるの?」
「はい バッチリふせげます」


「「キースブレッド」?ふざけてるのか?あれが盾のつもりか?どう見てもただのパン屋の看板じゃないか。」
 白いMSがトレーラー左側面のパン屋の屋号が大きく描かれた大型パネルを取り外し、左腕で盾を手にしたように構えたのを見て男Aが思わずもらす。
「構わん。MS06Jは直ちに攻撃を開始、あの看板ごと目標を粉砕しろ。」
 命令に従い大型ライフルを構える2機のMS06J。そのライフルスコープが目標をとらえると同時に銃口から閃光が起こり、砲弾とも言えるサイズの弾丸が連続発射され目標に打ち込まれていく。射撃は短時間ではあるが集中的行われ、ほぼ全弾が命中し目標は硝煙と着弾で巻き起こった砂煙に包まれてしまう。
「終わったな。」
 主力戦車をスクラップに変えてしまうだけの弾丸を打ち込んだ時点で射撃は終了し、2機のMSは銃口を上げた。
「目標は沈黙。MS06Jは引き続きトレーラーの捕獲作業に入れ・・ん?」
 言いかけて男Aは目を疑う。煙が薄れ穴だらけのスクラップが現れるはずであった場所に立っているのは看板盾を構えた無傷の白いMSである。看板盾は被弾の形跡はあるものの「キースブレッド」の表記は鮮やかに映っている。
「どうなっている?全弾命中のはずだ。」


「すごい。あれだけ攻撃されて何ともないなんて・・。」
「とうぜんのケッカです あのていどのカリョクではこちらにダメージをあたえることはできません あんしんしましたか?」
「うん・・、これなら何とかなるかもしれない。でも、今の攻撃は避けることもできたんじゃないかな?」
「ええ もちろんヨけられました でもあのクラスのカキのながれダマによるシュウヘンへのヒガイはシンコクなものになりますから できるだけタテでうけとめてください」
「そうか。そこまで考えてなかった。じゃあ上手く受け止めないといけないな。」
 さっきまで怯えていたクウの表情に真剣さが増す。それを見てアリスは微笑んだ。
「ん?何?」
「いえ なんでもないです」
「そう、それじゃ防御に集中するよ。」
「まってください うけにまわってばかりではラチがあきません さっさとやっつけてしまいましょう こうげきはサイダイのぼうぎょです」
「やっつけるにしても、どう攻撃しよう、何か武器はないの?」
「ないです」
 即答するアリス。
「ない・・ナイフの一本も?」
「はい そもそもこのコはセントウヘイキではないですからブキはいっさいソウビされていません」
「そんな・・じゃあどうすれば・・」
「ブキはありませんがこんなものがあります」


   9

「Sモード解除。」
 アリスの声と共に機体形状が元に戻る。レッドを撃退し、ひとまず目前の脅威は去った。
「ふう。何とか上手くできたみたいだ。」
 操縦席で緊張の糸が解れ脱力するクウ。
「ご苦労さま。だがひと息つくにはまだ早いぞ。直ぐに次の追手が来る。機体をトレーラーに収容して出発するから機体をコンテナに近づけてくれ。」
 後部コンテナにRXを収容し出発するトレーラー。クウはコックピットから出て暗いコンテナの出入り口へ向かう。その後ろで眩い光が発生した。
「おいて行かないで下さい。」
 眩い光に思わず振り返ったクウにアリスが声をかけた。
「ああ、そうだね。一緒に行こう。アリス。って、あれ!?君は?」
 クウは目の前のアリスの姿を見て一瞬自分の目を疑った。目の前に現れたのは小さな女の子ではなく、自分と同世代の少女であったからだ。
「君、ホントにアリスかい?」
「何を言っているのですか?私は私です。」
 あっけにとられるクウの顔を不思議そうに見つめて少女は答える。
「でも、さっきまで小さかったのに・・。」
「ああ、そういえばクウさんが少し小さく見えます。ワタシの背が伸びたからですね。」
「背が伸びた?この短期間で?」
 混乱で状況がのみ込めないクウ。
「ええ。先の戦闘でRXと融合した際にDGセルを追加補充しましたから。」
「それに話し方もなんだか滑らかになってない?」
「それは今までの行動で経験値が上がって私自身が成長したからでしょう。」
 クウは狐につままれたような表情でアリスを見つめる。
「何ですか?あまりジロジロ見ないでください。」
「ああ、ごめん。」
「さあ、行きましょう。」
 アリスはややそっけない態度でクウの横をすり抜けコンテナ出入り口のドアスイッチに手を触れた。