利子の矛盾

 銀行家となった金庫番は、人々に利子つきでの返済を条件に貸し出しを増やしていきました。利子は貸し出すお金の量や時間が増えるほど増えていきます。

 

 借りる方は多く長く借りるほど、返済額は大きくなります。一方、貸す方からすれば貸せば貸すだけ儲かります。

 

 これによって銀行は雪だるま式に財産を増やしていきます。しかも元手は他人の財産。金庫番はとんでもなくおいしい商売を発明しました。

 

 現代の私たちは、お金を借りたら利子をつけて返すことは自然なことだと思っていますが、実はこの利子には根本的な欠陥、矛盾があるのです。

 

 利子という概念は、かつて穀物を使用していた経済にならって銀行家が生み出したものです。

 

 穀物の場合は、種を植えて収穫すれば元の種の何十倍、何百倍の穀物を収穫することが可能ですが、紙幣の場合はそうはいきません。紙幣は新たに発行しなければ総量が増えることはないのです。

 

 

 この意味について例えのモデルで説明します。

  

 村に銀行がやってきた

 ある小さな村に銀行がやってきました。その村にはまだ銀行券(紙幣)はありません。そこで銀行が村人10人に100万円を年利10%(一年後に元本100万円プラス10万円で返す)で銀行券を発行しました。

 

 

 100万円×10人で合計1,000万円の銀行券が村に存在することになります。村人は発行してもらった100万円を元手に商売や生産を始め、村の経済は回っていきました。村人たちは商売を一生懸命がんばりました。なぜなら、借りた100万円は1年後には110万円にして返さなければならないからです。

 

 

 そして1年後、銀行家は村人たちに返済を要求しました。年利10%なので110万円×10人、合計で1,100万円を返済しなければなりません。

 

 

 しかし、ここで気づきます。村には元々1,000万円しかないのです。1,000万円しかないものを1,100万円にして返すことはできません。試しに1人110万円ずつ返済できた場合を見てみると、最後の人(イラストでは下の鍛冶屋)は10万円しか手元に残りません。これが利子という概念の正体なのです。

 

 もし、村人たちが借りたものが穀物の種であれば借りた人全員が総量を増やして返済することができます。一方、銀行券は銀行しか発行することができないので、村人自身が増やすことはできません。

 

 村人が借りた銀行券以上の銀行券を返すためには、別の村人と競争して多くの銀行券を手に入れるしかありません。

 

 自分が110万円返せるということは、誰かが10万円返せないことになります。誰かが110万円以上手に入れれば入れるほど、返済できない人が増え、返済できない額も増えていくのです。

 

 ところで、この話には続きがあります。

 

 村の人たちは鍛冶屋さんを除く9人が銀行に返済できましたが、手元にはお金が一切ありません。次の年も同様の経済規模で商売をするためにはまた銀行から100万円借りなければなりません。 

 

 加えて鍛冶屋さんも借金100万円を返済するため、今年こそはと再度100万円を借りて、昨年の負債100万円プラス今年の負債110万円の計210万円を返済しようと頑張りました。村全体には再度1,000万円のお金が供給されました。

 

 

 

 

 さてさて、年末の結果はというと、見事は鍛冶屋さんは昨年分も含めて210万円返済することができました。

 

 

 他の人も110万円返済しましたが、靴屋さんは20万円しか手元に残りませんでした。八百屋さんにいたっては全く0です。

 

 それもそのはず、村には1,000万円しかないのですから、1人が昨年の借金も返済したら、他の人はその分返済できなくなります。

 

 靴屋さんの借金は110ー20=90万円、八百屋さんは110万円で、合計200万円です。なんと初年より倍になりました。なぜならこのパターンでは毎年100万円ずつ借金が増えていくことが決まっているからです。

 

 どんなに個人個人が商売を頑張っても村全体の借金は減らないどころか増える一方なのです。返済できなかった人が廃業して、代わりとして財産を没収されれば、村全体の負債は減りますが、その分経済規模は縮小します。

 

 そして、これは村人全員が廃業して村の財産全てが銀行家に没収されるまで続くのです。銀行が発行する利子付きのお金を使う限りこの村に明るい未来は存在しないのです。

 

 

 

 現代社会は複雑で規模が大きいため、この利子の矛盾に気づきにくいですが、どれだけ規模が大きくなっても基本となる原理は例に出した村と変わりません。

 

 利子というのは経済を動かす原動力にもなりますが、一方で個人や企業、国家を破産へと追い込む一面も持ち合わせています。

 

参考文献:THINKER署「マスコミとお金は人の幸せをこうして食べている」徳間書店(2011)