・土筆早や陣を取りゐる土塁跡
俳句には、発音の便宜上、語中や語末の音に変化が生じる音便
というものが。
周知の通り、「イ音」に転じたイ音便、「ウ音」に転じたウ音便、「ン
音」に転じた撥音便、「ツ音」に転じた促音便の4通りがあります。
動詞に助詞の「て」や助動詞の「たり」などが付くときに現れるもの
で、たとえば、次のようなもの。
イ音便:書きて→書いて
ウ音便:思ひて→思うて
撥音便:飛びて→飛んで
促音便:立ちて→立つて
など。
現代仮名遣いでは、小さく書かれる促音の「っ」は、歴史的仮名遣
いでは「つ」と大きく書かれます。
形容詞では、
イ音便:白き花→白い花
ウ音便:赤く咲く→赤う咲く
撥音便:多かるなり→多かんなり
時折、誤りが見られるのが、動詞のウ音便。
ハ行四段動詞の連用形の語尾が「ひ」+「て」の場合で、たとえば
「思ひて」を「思ふて」にしてしまう誤りです。
這ひて→這うて (誤)這ふて
揃ひて→揃うて (誤)揃ふて
会ひて→会うて (誤)会ふて
など。
ウ音便の句には、次のようなものが。
・不機嫌な児の奴凧地を這うて
・いつせいに籠を背負うて鹿尾菜刈
この音便を使うかどうかは、作者の自由で、元の音でそのまま表
現することもできます。
覚えておいて、作品の内容や韻律によって使用すると、また一味
違ったものとなるようです。
掲載句は、小さな砦の跡に、一斉に立ち上がった土筆の様子が、
軍勢を配し、陣を構えているかのように見えたもので、擬人法を
使って叙しています。