それは、現実の中の幻想 幻想の中の現実
幻想と現実が交差する時・・・生死を賭けた一夜限りの悪夢が始まった。

大樹は、がむしゃらに走っていた。
後ろからは何かが追ってくる。
真っ黒な何かが走ってくる。
大樹は何か知っていた。

黒い何か、それは・・・・・・・・『自分』だった。

何処にでもいる普通の少年:岡崎 大樹(おかざき だいき)
謎の少女:メア
二人が出会った時に、普通の夜は・・・悪夢に変わった。

「ふぅ 今日も疲れたな・・・」
大樹は夜の街を歩いていた。
「明日、塾休みだし遊びに行く?」
小太りの友人が遊びに誘ってくる。
「おぉ、いいな。大樹はどうする?」
背の高い友人はぼーっと歩いている大樹に問いかけてくる。
大樹は「行けたらな」と答えた。、
駅まで一緒にいつもの塾のメンバーで普通に他愛もない会話をしながら歩いていた。
月はもう天上に輝いていたが、街はまだ人で賑わっていた。
「てか、女気が無いよな俺らの周りってさ」
友人の一人がぼやく様に言った。
「それを言うな」
「そうだな・・・」
何にも変わらない日常
ワイワイと話をしながら、3人で夜の街を帰宅の為に駅まで来ていた。
その時、軽快な足音と共に少女が走ってきて、躓いて大樹にぶつかった。
ドン、という音と共に衝撃が大樹の胸の辺りに走った。
「痛てて」
「・・・・・・」
少女と大樹がぶつかって倒れ、1冊の本が傍らに落ちた。
周りを歩いていた人々も驚いて見ていた。
倒れた大樹の胸に覆いかぶさる様に、少女は倒れていた。
少女は白磁の様な肌に、長い黒い髪、それに真っ黒なツーピースを着ていた。
「大丈夫か?」
「・・・ダイジョウブ・・・」
鈴の鳴るような綺麗な声で少し英語訛りの日本語の答えが返ってきた。
「なら、どいてくれないか? 立ち上がれないんだ。」
少女はそう言われて、やっとどういう状況か理解したらしかった。
「・・・ゴメンナサイ・・・」
ぱっと立ち上がると、初めて少女の顔が見えた。
金色の瞳をした幼い顔立ちの少女が頬を紅くしていた。
「ホントに・・・ゴメンナサイ・・・」
少女は頭を下げると、落とした本を拾い走っていった。
拾いあげた本から、少女が走っていった時に1枚の紙がひらりと滑り落ちたが、
少女は気づかずに走っていった。
「災難だったな、大樹」
背の高い友人は起き上がるのに手を貸してくれた。
「いやいや、ある意味幸運だって。あんな可愛い娘に抱きつかれたんだから」
それに対して小太りの友人は、何か羨ましそうな目で見ていた。
「はぁ・・・抱きつかれたんじゃなくて、ぶつかられてクッションにされただけだ」
なんだよーと言う小太りの友人を無視して、背の高い友人の手を借りて大樹は立ち上がると、
少女の落とした紙が目に入った。
コンクリートの床に落ちた紙を拾い上げると、其処には魔法陣らしき図と読めない文字が書き込まれていた。
「何だそれ?」
「さぁな 判んないけど、さっきの娘の本から落ちたものだ」
大樹は裏表を見ながら、何気なく答える。
「もしかしたら、魔導書の一部だったりして」
冗談で友人はそんな事を言ったのだろう・・・だが、家に帰ってからもっとヤバイ物だと思い知らされるとは、
大樹はこの時思っても見なかった。
「どうすんだよ、それ」
小太りの友人が大樹の鞄を渡してきた。
「とりあえず持って帰るよ。こんな物、何処かに預けても棄てられるかもしれないしな」
「まぁ 明日も来るんだしその時に会えば返したらいいだろう」
背の高い友人が欠伸をしながら言った。
その後、2人とは改札をくぐってから明日の約束をして別れると、大樹は自宅に帰宅した。
自宅に帰った時、時計は11時30分を刻んでいた。
カチカチと時を刻む音だけが家に響いていた。
大樹の両親は仕事で海外に居るし為、家には誰もいないはずだった。
「・・・マッテタ・・・」
闇に満たされたリビングに、白磁の様な肌に真っ黒のツーピースを着た少女が立っていた。
「何でいるんだ?」
部屋の電気を付けながら大樹は、そんな事を聞いていた。
「・・・ページ・・・取りにキタの・・・」
「あぁ、コレの事か・・・って違う、何で家にいるんだよ」
ツッコミを入れながらも、大樹は少女の落とした紙を鞄から取り出した。
「・・・だから・・・ページ・・・取りにキタ・・・」
「いや・・・そういう事じゃ無くて・・・」
少女は手をポンと叩く。
現実離れして少女が可愛いからか、仕草の1つにしても目を引いた。
「・・・ワタシ・・・アクマ・・・」
「えーっと・・・アクマってあの悪魔・・・」
メアはコクンと頷く。
大樹は立ちっぱなしでは悪いと思い椅子を勧める。
メアはストンと勧められた椅子に座った。
もはや、名画から抜け出してきたようだった。
「・・・ワタシは・・・メア・・・悪魔の書・・・管理者・・・」
「いや、自己紹介じゃなくて・・・・て、悪魔の書?」
またコクンと頷くと、どこからか本を取り出してテーブルの上に置いた。
金色に縁どられた大字林ほどもあるゴツイ黒い本・・・
それはぶつかった時にメアと名乗る少女が落とした本だった。
「・・・コレのコト・・・」
「どこに持ってたんだ・・それ?」
大樹は普通に疑問をぶつけるが、メアは無視して話を続けていく。
「・・・この本の1ページに1体・・・アクマが封印されてる・・・」
「へぇ~・・・・・って、コレ危なくないか・・・」
メアはコクンと頷く
「・・・だから、回収しに来た・・・」
「解ったよ。とりあえずコレがヤバイ事だけは解った。」
メアは小さい手を出してきた。渡せという事らしい
大樹は手に持っていたページをメアに渡そうとすると、パチッと静電気がはしった。
「・・・!・・・」
「痛っ」
2人が手を引いた為、紙がひらひらとテーブルの上に落ちた。
そしてページが黒い靄に包まれた。
時計は夜中の12時を刻む直前だった。
「・・・あっ・・・」
黒い靄はだんだん輪郭をはっきりさせていく。
「・・・ドッペルゲンガーのページが・・・」
そういうと同時に時計は12時を刻んだ。
黒い靄は、黒い大樹になっていた。
「ふぅ・・・やっと出れたぜ」
黒い大樹は手を握ったり放したりすると、大樹に向き合った。
「自己紹介が遅れたな。俺はドッペルゲンガー・・・もうすぐお前になるけどな。」
大樹の長い夜が始まった。

「・・・ページに戻りなさい・・・」
椅子から立ってメアが静かならがもしっかりとした声で言う。
「やだね・・・俺はやっと自由だ」
ドッペルゲンガーは大樹と同じ顔で舌を出してからかう。
「・・・じゃあ、消えなさい・・・」
「おっと、悪いがそれもお断りだ。」
メアの手に光が集まると光球となってドッペルゲンガーに飛んでいった。
一方、ドッペルゲンガーは床を一蹴りすると、窓を割って外に出て行ってしまった。
「ちっ、あんたが相手じゃ分が悪い・・・堕天使メアには」
「・・・逃げてもいいけど身体が持たない・・・」
「あぁ、そうだな・・・属性を考えると夜明けまでが限界だな。今のままならな」
窓の外の闇で準備運動しているドッペルゲンガーが気楽そうに言う。
メアは人差し指をドッペルゲンガーに向け光を収束させ、飛ばした。
「・・・鏡像が鏡から出てくるな・・・」
機関銃の如く光球を飛ばすが、うまく少し身体を動かす事でひょいひょいと、かわしていく。
「っ・・・凄いなコイツ・・・こりゃ良い人間を模倣できた」
光球をかわしながら、ドッペルゲンガーは笑った。
笑って、かわすのを止めた。
ガガガガガッと光球はドッペルゲンガーに当たり周囲に砂埃が舞った。
「・・・倒した・・・」
小さくガッツポーズをとると呟いた。
大樹は、状況の変化についていけなかった。
「何だったんだ?」
大樹は一言で聞く
「・・・ダイジョウブ、アイツは倒した・・・」
「いやいや、そうじゃ無くて・・・」
「メア、そうじゃ無くて、大樹は何があったか聞いてるんだよ」
メアはポンと手を叩いた後、大樹に説明しようとした。
その時、メアの紅い血と共に、腹部に孔が開き床に倒れた。
メアの立っていた所にはドッペルゲンガーが立っていた。
「・・・倒した・・ハズ・・・」
「残念でした。コイツの属性が『造』じゃ無かったら終わってた」
メアは驚愕の表情をしながら、自らの血の海に伏していた。
一方、大樹は何を言っているのか解らなかったが、自分の中の何かがざわめく感じがしていた。
「・・・大樹の属性が『造』・・・」
「そうだ、メア。」
ニヤニヤとドッペルゲンガーは笑った。
「まぁ、何故か属性が反転してしまったから、俺の属性は『滅』」
ドッペルゲンガーはメアの右腕にゆっくりふれた。
壊れやすい物を触るように優しくふれた。
その時、メアの右腕は紅い血を撒き散らして爆ぜた。
「・・・・・・ッ」
声にならない悲鳴を聞きドッペルゲンガーは嬉しそうに笑う。
「いける・・・この力なら魔神にさえなれる。」
動かなくなったメアから視線をそらすと、大樹と向き合った。
「さて、肉体を貰おうか・・・大樹」
金縛りにあった様に動けなくなった大樹にゆっくりと近づき、
大樹の胸元に手を当てた。
「あばよ 俺はお前になる」
黒い何かが大樹を包もうとした時、ドッペルゲンガーの背中に光球が当たった。
「・・・逃げて・・・」
「無理する必要も無いのにな」
「・・・私が・・・まき込んだ・・・カラ・・・」
メアが腹部と右肩から血を流しながら立っていた。
纏っていたツーピースは穴が開き、右袖はボロボロになっり、そして彼女の血で濡れていた。
メアは、はぁはぁと荒く息をしながら、必死に声をあげた。。
「・・・逃げて!!・・・」
その声に後押しされて、大樹は意識とは別に足が動き、ドッペルゲンガーが割った窓から外に出て走った。

大樹は暗くなった街を走っていた。
何故か誰も居ない街で、ただひたすら足っていた。
「鬼ごっこか・・・いいぜ、朝日があがるまで逃げ切るか、俺を倒せばお前の勝ち」
ドッペルゲンガーはゆっくりと、楽しむ様に大樹を追いかけていく。
「くそっ、・・・はぁ・・・はぁ・・・何なんだよ」
大樹は足がもつれそうになりながらも必死で走った。
「おいおい、追いついちゃうぜ」
何回も角を曲がり直線を疾走し、公園まで来たとき異変に気づいた。
「・・・・誰も居ない?」
「そりゃ居ないさ、街ごと因果隔離されているからな」
立ち止まった大樹に対して、後ろからゆっくりと闇から湧き上がる様にドッペルゲンガーが現れた。
後ろへ後ずさると何かに躓いて尻餅をついた。
「さぁて、お前はもう終わりだ・・・身体は俺が使ってやる」
ドッペルゲンガーの魔手が迫った時、大樹の視界は真っ白になった。

ソコは真っ白だった。
ソコは形が無かった。
ソコは音が無かった。
ソコは自分すら認識できなかった。

まるで世界と一体になった様な感覚と共にソコに色がついた。

ソコは色がつき絵となった。

ソコは絵が出来た後、形が出来た。

ソコは形が出来た後、音が生まれた。

まるで世界を造っている様だったが、まだ認識できない物があった。
だが、認識できない物が何か解らなかった。
ソコに少女の声が聞こえた。

「・・・アナタはまだ法則を知らない・・・」

ソコは声と共に、法則が出来て世界となった。

「・・・ソコはアナタの中・・・アナタの魂の中の力の覚醒・・・」
【俺の?】
声を出すことが出来なかった。
「・・・私が巻き込んで・・・アナタの力が覚醒し始めた・・・」
声の主の少女は悲しそうな声だった。
本当に後悔しているような声だった。
「・・・アナタは・・・世界を書き換える・・・自分の想像で・・・」
【世界を書き換える?】
「・・・そう、世界を書き換えられる・・・アナタの・・・チ・・カ・・ラ・・・で・・・」
そして、少女の声は聞こえなくなった。
ただ、消える直前に光が湧き上がり形となった。
黒いツーピースを着た少女の姿に・・・・・・

「メア・・・」

自分で声を出した時、ついに力は覚醒した。
そして、大樹の視界は元に戻った。

視界が戻った時そこは公園だった。
違いがあるとすれば、自分が立っていてドッペルゲンガーが消えていた事だった。
「夢か・・・?」
その呟きは、即座に否定された。
「違うよ・・・チッ・・メアめ余計な事をしてくれたな」
闇から這い出すようにドッペルゲンガーが現れた。
だが、さっきまでとは違い笑ってはいなかった。
「お前の属性から能力を発現させたか・・・本当によけいな事してくれたよ」
真面目な表情で近づいてきた。
「力・・・?」
「ほぉ、まだ完全に思い出していないようだな。」
黒い手が、大樹の胸にあてられる。
「次こそ、その身体貰うぞ」
次こそ終わりだと思ったとき、こいつに身体を渡したくないという思いが、力を発動させた。

「油断した・・・『想造』の発動による拒絶防壁か・・・」
ドッペルゲンガーは声をあげる
だが、その身体は右半身が無くなっていた。
「これは・・・」

そう、力が発動した時ドッペルゲンガーに対して防壁が張られ、その内側にあった右半身が消し飛んだのだ。
無我夢中で発動した為に、まだ何が起こったのかハッキリとしていない大樹
「これが・・・力・・・」
「そうだ・・・それがお前の力・・・『想造』」
「『想造』?」
「そう、『想造』・・・神の力の一端・・・世界を書き換える能力だ」
一歩さがり右半身を再生させたドッペルゲンガーは何かを見極める様に近づくと、
今だ残る防壁に触れ・・・消し飛ばした。
「そして、俺の力・・・『滅』・・・全てを滅ぼす力だ」
ドッペルゲンガーはそう言うと近くの樹に触れた。
触れられた樹は何も音を立てずに穴を開けた。
「今のは、メアの腹に風穴開けた時と同じ要領で力を使った」
「・・・要領か・・・」
手を開き、昔本で読んだ神の持つ槍を想い浮かべた。
「グングニル」
その声と共に大樹の手には、見事な投げ槍が出来ていた。
「ほぉ、面白いな・・・俺とやり合うつもりか」
ドッペルゲンガーが構える。
大樹はただ、狙いも定めずに全力でグングニルを投げた。
大樹の投げたグングニルは変な所に飛びそうだったが、突如方向を変えてドッペルゲンガーに向っていった。
「うぉっ」
ドッペルゲンガーは身を屈めてかわしたが、槍は通り過ぎるとまた方向を変えドッペルゲンガーに
向っていった。
「チッ」
ドッペルゲンガーは手をグングニルの軌道に持ってきてガードをした。
グングニルはガードを貫こうとしたが、手に触れた瞬間グングニルは消えてしまった。
「あぶねぇ お前・・・神具を作れるのか」
かなり消耗した様子でドッペルゲンガーが言う。
「神具?」
「ホントに何も知らないんだな」
「あぁ 俺は普通の人間だからな」
あきれた顔のドッペルゲンガーと、まだ何が何だか解っていない大樹は話しながらも構えをとる。
「あんまり、長々やるのも嫌だし・・・何よりもうすぐ朝日が昇る」
「うーん、まだ解らないけど・・・俺も終わりにしたいから、わかった」
そして、2人はぶつかった。
「お前の魂を消し去り俺は・・・魔神になる」
「アイギス」
ドッペルゲンガーは大樹の魂を消そうと力を発動させる。
大樹は女神が英雄に授けたありとあらゆる邪悪・災厄を払う魔除けの盾を想い浮かべた。
大樹の手に作られたアイギスはドッペルゲンガーを弾き飛ばしたが、ドッペルゲンガーの力によって消えた。
ドッペルゲンガーは体勢を立て直して、もう1度大樹に向おうとしたが・・・
「グングニル」
大樹は再び投げ槍を想い浮かべ、全力で投擲した。
グングニルは、ガードが間に合わなかったドッペルゲンガーに貫いた。
「必中の槍か・・・負けだ大樹」
苦笑を浮かべるドッペルゲンガーの心臓に当たる部分をグングニルは貫いていた。
「さすがに人間を模している以上・・・心臓を貫かれたら・・・死ぬわ」
「治せないのか」
「ははははは・・・・甘い奴だ」
倒れたドッペルゲンガーの身体はだんだん薄くなっていく
大樹はドッペルゲンガーの傷口を見る。
血は出ていないが槍が貫いた後があった。
「本当に治せないのか!?」
「・・・甘い・・奴だ・・・お前の身体を・・・奪おうとした敵を・・・助けるのか?」
「そんなのじゃない。自分と同じ姿の奴が消えるのが嫌なだけだ。」
「ふん・・・本当に甘い奴だ」
ドッペルゲンガーの身体はさらに薄くなっていく。
「・・・・お前の力は・・・自分の想像を・・・世界に反映させる能力だ・・・だったら・・・お前の想像で
 ・・・俺の核を作ればいい・・・」
ドッペルゲンガーは薄くなっていく手を大樹の頭にあてる。
大樹の頭に何か言葉で表せないイメージが浮かぶ。
「俺を治すかは・・・お前にまかせるが・・・治せばまた、お前の身体を奪うかもしれないぞ」
ドッペルゲンガーは一度だけ笑うとゆっくりと目を閉じた。
大樹はすぐにドッペルゲンガーの身体に手をあててイメージする。
ドッペルゲンガーの核を・・・・・
そして光と共にドッペルゲンガーは黒い大樹の姿で立っていた。
「本当に治したのかよ・・・せっかくあんだけ脅しといたのにな」
「どうする、まだやるのか?」
「いや、やめておく・・・今のお前に手を出したら次こそ消されそうだしな」
「じゃあ、どうするんだ。」
ぐっと伸びをしながら問いかける。
「とりあえず、悪魔の書に戻らせてもらう」
「そうか・・・なら俺の家に戻るか」
「あぁ そうだな・・・それに、早くしないと堕天使メアももたないしな」
ドッペルゲンガーと大樹は、大樹の家に走った。

メアは家の床に伏していた
時間が経っていたのに血は紅いままだった。
「メア」
大樹はメアをおこした。
「・・・ダイキ・・・」
「もう、もたないな」
ドッペルゲンガーは真面目な表情で言う
「・・・オマエのせい・・・」
「そりゃ、間違いない」
クククと笑うと、ドッペルゲンガーは椅子に座った。
「ドッペルゲンガー、お前の時と同じようには出来ないのか?」
「出来ると思うが、欠損したものが違う」
メアを仰向けにして血で汚れていない床にねかせた。
「イイか・・・コイツを治すにはお前のイメージで身体の一部を再構築する必要がある」
大樹は右肩のあたりに手をあてると目を閉じた。
ドッペルゲンガーは大樹の頭に手をあてるとメアの右腕のイメージを流し込んだ。
光と共にメアの右腕が再構築され、傷を残さずに修復された。
「・・・ワタシの右腕が・・・」
目を1度開けうまく出来ているのを確認すると、次は腹部の孔のあたりに手を持っていった。
そしてもう1度目を閉じるとドッペルゲンガーは腹部の複雑なイメージを流し込んだ。
光と共に腹部の孔は無くなったが、服は孔が開いたままで白い肌が見えていた。
「うまく言ったようだな、大樹」
「あぁ、サンキューなドッペルゲンガー」
お互いに手を叩く
「・・・アリガトウ、ダイキ・・ドッペルゲンガー」
「良かったよメア」
「元を正せば俺のせいだし、気にするな」
ハハハとドッペルゲンガーと大樹は笑い、メアは小さく微笑んだ。
「それはそうと、どうやってページに戻るんだ?」
「・・・へぇ、戻るの・・・」
「悪いかよ」
「・・・いいや、出たときは抵抗したノニどういう風の吹き回し?・・・」
「気分だ、気分」
「・・・そう、まぁいいけど・・・」
メアは床から起き上がると床から真っ白になったページを渡す。
「・・・これに核を移せばいい・・・」
「そうか」
ドッペルゲンガーは一言言うとページを受け取り、額に押し当てた。
「じゃあな、大樹」
「もう、2度と出てくるな」
「・・・出てくるな・・・」
「うわっ、ひでぇな・・・あばよ」
ページが光るとドッペルゲンガーの姿は薄れていき、ページには魔法陣らしきものと謎の文字が浮かびあがる。
そして、ページはヒラヒラと落ちていった。
メアはページを拾い上げると、大事に悪魔の書に挟んだ。
書をテーブルに置くと突然大樹の唇に自分の唇を重ねた。
唇を離すとメアは言った。
「・・・ワタシ・・・アナタが気に入った・・・だから少しの間・・・アナタの近くに居る・・・」
「それって、どういう事?」
「・・・1つは監視・・・私がアナタの力を目覚めさせてしまったから・・・」
「『想造』か」
「・・・そしてもう1つは最初に言った・・・」
「本気か?」
「・・・モチロン・・・」
メアはコクンと頷く。
大樹は断れなかった。
メアはついに大樹の家に住むことになった。
「そうだ・・・俺の力が目覚めようとした時、最後に後ろを押してくれたのはメアだろ?」
「・・・ウン・・・」
「その・・・なんていうか・・・ありがとうな」
「・・・元々、巻き込んだのはワタシだから・・・」
大樹の日常は少し変化した。変な方向に・・・・
それが、また大きな問題を起こすのは別の話である。

終わり