その夜、旅館の一室に、黒い影が忍び込んだ。
―――しめしめ。アレは、『どうぞ盗ってください』と言わんばかりに、でんと置いてある。アレに絶対、あのことが書いてあるはずなんだ。アレを手に入れれば、神を手に入れたのも同然。さっさと、もらっていこう
影の手が、文書に伸びる。と―――
「残念じゃったな」
ボスの声。なぜか、そこだけ明かりがともった。
「ワシは、あるお方に命じられて、その文書を、本物と摩り替えておいたのじゃよ。本物はどこかにあるが、詳しい場所は、言えない」
「じゃあ・・・この文書の内容は・・・」
「あのお方の名前が、書いてある。あのお方は、自分をもっと利用して欲しいと、おっしゃっていた。風の噂じゃが、あのお方の部下は、あのお方に背いて切り捨てられたそうじゃ。生死は、不明との事。なんでも、その部下は、『善は善、悪は悪』というお考えをお持ちになったそうであのお方のお怒りに触れたということじゃ。ちなみに、その部下のたった1匹の友人は、あのお方の側近にたぶらかされて悪の道に入ったということじゃ。あのお方の持論は、『善は悪、悪は善』じゃからのぅ。難しい話じゃ」
「本物は、どこにある?」
「さぁて?ワシ、年じゃから、忘れてしもうたわい」