「全然、客、来ないな」
あの事件があって以来、客足が、ぱったり途絶えている。やはり、風評も、あるのだろうか?
「まあ、そう、落ち込まないでくださいよ」
メルが、慰めてくれる。
「でもねぇ、お客さん。あの事件があっても通ってくれるのは、お客さん達だけなんですよ。私、こんないいお客さんに出会えて、嬉しいですよ。嬉しすぎて、涙、ちょちょ切れちゃう」
「オーバーですねぇ。僕はただ、避難所として使ってるだけで―――」
なぜか、涙が出てきた。
「あ、僕、何か悪いこと言いました?」
あふれ出る涙をこらえながら、
「いえいえ。何も、悪いことは、おっしゃっておりませんよ」と、強がってみる。しかし、メルの顔色は、変わっていく。次第に、パニックになっていく。
「What shall we do?The landlady seems to cry because of me. How should I do at such time?Be so, and, first, the telephone ・・・ to 'Child telephone clinic'」
「気にしなくていいんですよ、メル」
「No, anxiously! Because it is I that made the landlady cry!」
「メル・・・」
「The child telephone clinic ・・・ child telephone clinic ・・・ Why does man cry?」
「お客さん、何を相談しようとしていらっしゃるんです?」
「What?The landlady is whether it finishes crying when doing very. Why does man
cry?」
「・・・・・」
返答に、困ってしまった。
「Is the child telephone clinic '110' and?」
「お馬鹿・・・」
「What is?」
「い、いいえ!『177』じゃ、なかったかしら?」
「Tomorrow's weather seems to be clear weather」
「既に、かけたんかい!」
「Here : by the one!」
「下品です」
「And how many is it?」
「番号案内にでも、問い合わせてみたら?」
「Do you ..another charge.. bear responsibility?」
「誰が?」
「The landlady」
「はいはい。私が、払えば、ようござんしょ」
「If it doesn't come so」
―――ボケるのだけは、いっちょまえなんだから!

「ねぇ、ラキ」
「なんだ?」
「ボーリング、行こうよ」
「いいねぇ、行こう」
2人は、ボーリング場へと向かった。

いつも、ガターばかり出している男がいた。仲間に笑われ、自己嫌悪に陥っていた。今日は、待ちに待っていない、自治会のボーリング大会。いよいよ、男の番だ。
「今度、ガター出したら、ジュースおごれよ」
「俺は、ビフテキ」
「どうせなら、ハンドバッグ、買ってよぉ」
仲間は、口々に、勝手なことを言う。
―――そこの女は、コンビニの口紅で、充分さ!
「ああ。今度こそ、ガター出してやるよ」
「嬉しい!ビトンのバッグ、買ってもらえるのね!」
「君には、セムンで売ってる口紅を、買ってあげるよ」
「やっだ~、買うなら、しふれにしてよぉ~!」
「うっさい。俺は、金が無いの」
「36回払いのローンで、買ってよ」
「3年間、ローンに追われるのかい!やだね、そんな生活!」
「じゃ、ストライク、出してよ」
「は?無理!」
「じゃ、3年間、ローンに終われる生活」
「それも、やだ」
「ワガママね。そんなんじゃ、アタシにも、見放されるわよ」
「見放したいんだろ、え?」
「やぁね、冗談よ」
「お前の冗談は、当てにならない―――あーあ。ストライクの神様が、舞い降りてこないかなぁ?」
「カワイ子ちゃん限定で?」
「そうそう。水着ギャルとか、メイドとか―――って、おわー!」
いつの間にか、成績表を表示する機械の上に、猿が座っていた。
「おい、猿!そこに、座るなよ!機械が、壊れちゃうじゃないか!」
「あらら、ゴメンよ」
猿は、ヒョイと降りた。そして、
「猿、猿、言わんでばい。俺は、猿じゃなか、幸運ばもたらす猿たい。オッサン、覚えておけよ」
「オッサンじゃなくて、お兄さんだぞ―――どう見ても、猿なんだけど」
「俺だって、お前ばどう見ても、オッサンにしか見えんよ」
「オッサンで、悪かったな。35が、オッサンか?」
「オッサンたい!立派な、オッサンたい!」
「ああ、俺も、中年か」
「中年よ、大志ば抱け」
「抱くも何も、3年間ローンに追われる俺が、どうやって大志を抱けばいいんだよ?」
「ストライクば、出せばよかとだよ」
「は?無理」
「無理じゃなかばい。オジサン、やる前から、無理って言うとだもん。だけん、チャンスば逃すとだぜ。恋も仕事も、ボーリングも」
「そうよ。だから、私に、振られるのよ」
女が、口を挟む。
「おい、猿!誘導するのは、やめろよ!恥ずかしいじゃないか!」
「オッサン、顔、赤いよ」
「うっせぇ!てめぇのせいだからな!」
「はりかかん、はりかかん」
「別に、怒ってないよ!」
どっ、と笑い声が起こる。男の顔は、ますます、赤くなった。やけくそになった男は、思い切り、ボールを投げた。と―――
「ストラーイクゥゥゥ!」
仲間が、わっ、と歓声を上げた。男は、ポカンとした。
「当たっちゃった・・・」
「オッサン、やるじゃん」
「うっさい。こんなの、まぐれだよ」
「アナタ!ビトンのバッグ!」
「ジュース!」
「ビフテキ!」
「おごれー!」
仲間が、口々に叫ぶ。
「今、入ったの、見ただろ?なぁ、なぁ、なぁ?」
男は、説得するが―――
「絶対、インチキしただろ!」
「罰として、バッグ3年ローンで買ってよ!」
「ジュース!」
「ビフテキ、レアで!」
男の顔が、青ざめる。
「フェアで、入ったんだってば!信じてよ!」
「そぎゃんたい。オジサンは、自分の力で入れたとだ(と、いうことにしておこう)」
猿が、涙目で訴える。
「そうだったんだ・・・」
「ゴメンよ・・・ジュースは・・・無かったことにしてくれ・・・」
「バッグは・・・自分で買うわ・・・」
「ビフテキ・・・給料日に食うよ・・・」
男の顔色が、いつもの色に戻った。
「よかってことよ、ハハハハ(しまった、移った!)」
「オジサン、熊本弁、喋れるとや?」
「まぐれだよ、まぐれ(コイツが、いるせいか?)」
なんだか、男は、すがすがしい気持ちになった。
「オジサン、もう1回ストライク出したら、俺にバナナ買ってよ」
「よし。オジサン、頑張っちゃう!」
「頑張ってー!」
女が、応援を始める。その頃、カウンターでは、ハピが―――
「ラキ・・・いつになったら・・・おいとやるの・・・?」