5月頃に入院して6月に退院した入居者さんがいた

いつものように車椅子に座っていて
「お帰りなさい」
って声をかけたら
私の名前は覚えてないけれど、私の声と手の温度と仕草で思い出したらしい

辛かったよ、ただいま
待っててくれたの
ありがとう

そういって私の手を握ってくれた

名前は分かんないの
ごめんね
でもいつも部屋に来て顔を見に来てくれていたでしょ

そうやってくしゃくしゃの笑顔で笑う彼女の状態がまた少しずつ悪くなっていった。

私のiPhoneを見ながら
ここは宇宙みたいねぇ

写真も動画も電話もメールも本を読むこともできるその小さいな小さな機械をそんな風に言った

私が写った写真を見て、ここでもいつもこんな顔して働いてるわよねとニコニコ話してくれた彼女とは

もう話せなくなった

私の世界一大好きな歌を、宇宙と名付けられた機械から流した時は一緒に歌った

新しいアルバムが出たんですよと言った時は
もう一緒に歌うことはできなくなった

目が見えなくなり
声が聞こえなくなり
話せなくなり
自らの意思では動けなくなった彼女の部屋にいくたびに

私はその日の話をした

返事は返ってこないけれど

嬉しい時に左手の人差し指を動かす仕草は変わらなかった


ミユキちゃんの歌を口ずさむ時も
ハロウィンや私が撮った写真を見せた時も

その人差し指は嬉しそうに踊る

少し前

私は彼女と永遠に会えなくなった

ご家族は泣きながら私に
「最後の最期までたくさんの優しさをありがとうございました」
そうやって言ってくれた

他の人と話す時も
友達と会う時も

私は普段通りの私で笑っている

悲しい気持ちを抱きしめて
あのくしゃくしゃに笑って
いつも私の顔を両手で撫でてくれたあたたかさを思い出して

私は今日も看護師として働く

周りに沢山の人がいてくれるから
応援してくれるから

私は看護師の仕事が大好きなんだとも思う

皆に
沢山の感謝を込めて
いつもありがとう

写真江藤智徳さん




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