「なるほど、ネット恋愛ね。彼氏から突然別れを告げられ、メールも一切無視、と。しかし、ここは探偵事務所であって、恋愛相談事務所ではないんです」 

 

 

 私立探偵ジェームズは、淡々と言った。依頼人の女性は、涙をこぼすまいと必死だ。付き添いの兄と父親は険しい顔でジェームズを見つめている。ジェームズと同じく、人間性に乏しい俺には、彼女をどうなぐさめればいいか分からなかった。それからしばらく沈黙が続いた。

 

 ジェームズは依頼人たちの感情には目も向けず、一人ひとりの容姿をじろじろ観察している。やがて父親が口を開いた。

 

 

「もういい。時間の無駄だ。諦めてうちに帰ろう。」

 

 

 そう言って、父親は娘の手を引き、オフィスから急いで出ようとした。が、それを兄が止める。

 

 

「父さん、まだなにも解決してもらっていないじゃないか! 30ドルも払ったんだぞ!」

 

 

 ジェームズはハッとして椅子から飛び上がり、父親を指さし、凝視して言った。

 

 

「服装からして、あなたは現在、お金に困っていることが分かる。それなのに30ドルも無駄にするとはね。たぶん、30ドルを無駄にしてでも僕から離れたい理由があるんじゃないですか?」

 

 

 一瞬、父親が動揺したように見えた。が、すぐにその感情は消え去ったようだ。そして、みるみるうちにその表情が変わった。彼は火山のように真っ赤になり、歯をむき出して、ジェームズを睨んだ。が、ジェームズは全く怯まない。

 

「娘さんがネットで知り合った男の正体は、あなたなんでしょう! 娘さんが、振られたショックで、一生独身になることを望んでいたから! 娘さんが実家でずっと暮らせば、彼女の給料であなたは楽に暮らせるから!」

 

 娘はバカな、という顔でジェームズを見つめていたが、父親のあからさまな態度を見て、ジェームズが正しい、と信じたようだった。

 

 

「父さん! 本当なの?」

 

 

 娘が真剣な顔で聞いた。父親は黙ってうなずいた。兄の方は、先ほどまでの父親よりもずっと真っ赤な顔になっている。父親を怒鳴りつけたい衝動を必死に抑えているようだった。

 

 俺は、後から思えば最悪のタイミングで、こう言った。

 

 

「これでひとまず、依頼は解決、ってことでいいですよね?」

 

 

 

 

 

 

 初めての投稿。緊張します。ずいぶんと短い文章ですが、一応シリーズものです。全体の文字数の最終目標は……十万くらいかな。