蒼の倉庫 -2ページ目

蒼の倉庫

百の記録たち ただ置いてあります 散らばった古いものなど集めてきたりもしましたので日時は変かもしれません


おぼえているだろうか


海沿いを行く線路

ゆっくり ゆっくり

港町ごとに停まる


檸檬の島

海賊の海峡


瀬戸の島々は神の居場所のように輝き

海はさざめく波の内に数多の生命を育む


海街の風情をたたえて列車は走る


帰省するぼくを駅で迎えて

そこから私の家まですぐに着いてしまう

とつまらなそうなキミ


それならここまで来ればいい

と半分冗談で返す


翌朝 キミは ぼくの街に来て

午後には 二人列車に乗った


新幹線で戻る予定だったね


思いつきで予定外の切符を買い

キミの手をとって在来線のホームへ


怪訝な顔の耳元に

こっちに乗ればもっと長く一緒

だと囁く


なにげなく乗りこんだはいいが

思った以上に時間がかかる


新幹線なら1時間

海辺をめぐる鈍行は5時間


長旅も キミは本当に幸せそう

ああ またその笑顔だ


ぼくらはバカみたいに

腕を組んで脇腹をつついたり

肩をぶつけあったり


周囲を気づかい声を立てずに笑う
いつのまに窓外は茜色に染まる


はしゃぎ疲れ 目を閉じる

肩に もたれていいよ


笑顔のキミをデイパックに隠して

どこまでも連れて行きたかった

あり得ない

お伽話の世界にぼくは浸り耽る


あの暑い夏

客室の天井から注がれる風

チョコレート色の古びた扇風機


あれは ぼくにとって

夏休み なんて言葉が似合う

最後の年だったかもしれない














どうしたら会える
どうしたら笑う
どうしたら幸せになる

喜ばせたいと
願うほど離れていきそう

ひとの幸せなど
周りの思惑など
もう考えないで
置いといて

そういうのに阻まれ
大事なもの失うのは一度きりにしたい

周囲との調和を優先してた
人生を無難にやり過ごそうとした
つねに後悔とともにあり
ふとした瞬間キミ思う日々

キミならなんと言う
キミならどうする
キミなら笑ってくれる

幸せにしたい
笑顔でいてほしい

ひとの心配ばかりする癖は仕舞って
たまには欲を露わにして

誰かのための考えじゃなく
キミ自身の言葉を聞きたい

ぼくの傍で
何にも怯えず
安心しきって
笑ってほしい







あいしてる
と言ってみたい
本当のところを伝えたい

ここまできて
彼女との別離は
考えるだけで不義理だと
いまにも駆け出しそうなぼくを
詰る誰彼我

何もいらないとキミがいう
会えるのが夢みたいなものだから
ここにぼくが生きているだけで
幸せという

あいしてると
言葉にすれば
キミの倹しい幸せが
ふわりと膨らむかな

寂しげな横顔を
笑顔に変えてみたい

辛くあたってそのまま
延々と悲しい思いをさせたキミと
同じ時間ぼくの傍ですごしてきた彼女

もうキミを
幸せにしてもいい頃合いじゃないか
なんて
虫のいい了見です

この身勝手さは到底
世の中に許されないね

責められ
石を投げられて
味方をすべて無くしても
キミヒトリいれば

キミヒトリ笑顔にできれば
千人味方につけたぐらい
ぼくには
心強いことだろう








偽りの行き先告げて部屋を出る
ここんとこ口を開けば嘘ばかりだ

ならばいっそ黙していたいけど
尋ねられるから仕方ない

溢れる思いはたまりに溜まって澱み
たまりかねて溢れる気持ちが
車を走らせる

海の上を行く
島ふたつ見送れば
たどり着くキミの街

カーテン揺らす風
ぼくを包む潮の香り
(なんて言い訳すれば?)

いいよ考えない
キミと居ればすべて飛ぶ

心配も後悔も呵責も罪悪感も
なにもなかったように
こころは弾む

キミに会えたら報われる

偽りだとしても(どちらが偽り?)
許されなくても

窓風に潮の香り
ザザ…と寄せる波音
キミが笑ってくれるなら構わない







どことなく
居心地が悪くて
隣を見れば
そこは
空席ってわけじゃない

誰かが
ぼくの左腕に
細い右腕を回し
寄り添うように
座ってる

だけど
これはキミじゃない

スクリーンは夜の海
ひと気のないビーチ
主人公は彷徨う

例えようのない
違和感おぼえて
不器用に腕を解き
立ちあがる

暗がりを抜けて
重たい扉を開ければ
不思議なほど
ホッとする

百人試しても
解決しない

キミがいない
キミの
代わりもいない




キミノヘヤのソファは
相当すごい


心地良すぎて
つい居座っちゃう


アイボリー色のレザーに
包まれると
たちまち
うとうと


ああ
これは
ここに長居したくて
言ってる訳じゃないよ


嘘じゃない






キミノイエにあった
かぎりなく黒に近い
ダークブラウンのソファも
かなり良かった


何度も座って
ときに
酔って
寝てしまい


最後の日も
あのソファに座った


ぼくは
ふたまわり年嵩の
大人に囲まれて
キミに会わないと
誓わされた


訳が分からず
泣くキミの
肩に手を置く


こんなのは
破ればいいんだと
軽く否したつもりだったが


言葉は不思議だ
発してしまうと
力を持つ
妙に


上っ面だけの誓いに
縛られるように
呪われたように
キミは徐々に遠くなり


ぼくは
手近で楽なほうへ
流れた





いま
キミノヘヤのソファで
微睡みながら


そんなことを
思い出していた


暑くも寒くもなく
時折
ちょうどいい感じの
窓風が吹く


相当すごい
ハイバックの座り心地にやられて
また
眠ってしまいそう


大丈夫


程よいタイミングで
キミが
自慢のコーヒー淹れて


そっと
起こしてくれるはず






窓下に街あかりを眺める

とても普通の
小さな地方都市の夜

街灯や
建造物の照明が
まばらに灯り

流れ行く車のライトが
朧げに揺れる

侘しい街の
ささやかな息づかいが
愛しく思えるのは

キミの住む場所だからだろう

この風景のどこかで
キミの日常が
一日
また一日


不器用で
真面目すぎるからね
懸命に
泣いて笑って

幾つも重ねて
日々を紡ぐ

今夜ぼくは
キミにメッセージを送り

会えれば幸運だと
とり澄まして待っているが

本当は
キミがなんとか
連絡をくれると
確信している

窓下に広がる
街あかりのとある一点に
やわらかな兆し

フワリとした光のなか
ぽつんと生まれる
小さな影

それは
しだいに輪郭を現し
此方へ

キミが辿り着く前に
部屋を出て
光射すほうへ
迎えにいく

かならず会える

まるでそれは
決まりごとのように

ぼくらは
何度も出会う

今度こそ切れたと
あきらめても
また繋がってる

いったい
どこへいくのだろう

用意されているのは
どんな結末だろう

わからないまま
ぼくらはまた出会う

光射すほうへ

幾度もくりかえして
今日まで

なにもうまず
なにもつくりださず
生きて
朽ちるだけのこと

二人は出会うようになっている

それだけだ










キミからの電話に出る

部屋をとる

港に迎えに行く

キミは用を済ませて
ホテルに帰る

ぼくは部屋を訪ねる

キミが迎えてくれる

来てくれるなんて
と、
極上の笑顔見せて

迎えてくれる

聞けば
何も食べてないと
キミは言う

一生懸命になると
食べたり寝たりを
忘れてしまう
ひとだから

ぼくは自慢げに
持参した
オードブルを取りだす

ワインにチーズ
サラダ
スモークサーモン

シャワー浴びて
浴衣を着たキミは
ベッドのふちに腰掛けて
また、その笑顔だ

ぼくはつい
可愛い
なんて口走り
軽はずみな口を
恨めしく思う

あいしてる
あいしてる

愛してるというのは
こんな気持ちとは
少し違うのかな

いつ
どんな事情で会っても
いつも
可愛くて
愛しいひとだと
思ってしまう

もう誰かのものなのに

余計なこと
言い出しそうな
口を戒めながら

ぼくはキミを
ただ
ひたすら見つめるだけで
こんなにも
幸せだ

いつもは
会えないけど

なかなか
会えないけど

いつか二人に
そのときが来る

そんな
気がするから

いまはキミの
幸せを
祈ろう

その日まで幸いで居てと
祈り続けよう