おぼえているだろうか
海沿いを行く線路
ゆっくり ゆっくり
港町ごとに停まる
檸檬の島
海賊の海峡
瀬戸の島々は神の居場所のように輝き
海はさざめく波の内に数多の生命を育む
海街の風情をたたえて列車は走る
帰省するぼくを駅で迎えて
そこから私の家まですぐに着いてしまう
とつまらなそうなキミ
それならここまで来ればいい
と半分冗談で返す
翌朝 キミは ぼくの街に来て
午後には 二人列車に乗った
新幹線で戻る予定だったね
思いつきで予定外の切符を買い
キミの手をとって在来線のホームへ
怪訝な顔の耳元に
こっちに乗ればもっと長く一緒
だと囁く
なにげなく乗りこんだはいいが
思った以上に時間がかかる
新幹線なら1時間
海辺をめぐる鈍行は5時間
長旅も キミは本当に幸せそう
ああ またその笑顔だ
ぼくらはバカみたいに
腕を組んで脇腹をつついたり
肩をぶつけあったり
周囲を気づかい声を立てずに笑う
いつのまに窓外は茜色に染まる
はしゃぎ疲れ 目を閉じる
肩に もたれていいよ
笑顔のキミをデイパックに隠して
どこまでも連れて行きたかった
あり得ない
お伽話の世界にぼくは浸り耽る
あの暑い夏
客室の天井から注がれる風
チョコレート色の古びた扇風機
あれは ぼくにとって
夏休み なんて言葉が似合う
最後の年だったかもしれない