曲がった矢印をどっちに曲げる? | 有機化学勉強会

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上の反応式に、電子の流れを表す曲がった矢印(巻矢印)を書き入れるとすると、どのようになるだろうか。多くの人は(ほぼ無意識のうちに)下図の上段のように書くだろう。これは当然正しい。下図の下段のように書いてはいけない。

上段と下段で何が違うかと言えば、曲がった矢印の「曲がる向き(カーブが膨らむ向き)」が違っている。つまり正しい上段の方は「右に凸」となっているが、誤った下段の方は「左に凸」になっている。この違いは重要である。

この反応では、二重結合のπ(パイ)結合を形成している2つの電子が、新しくできるC-H単結合に使われる。この電子の動きを視覚的にイメージしたものが、曲がった矢印である。そしてその動きは、下に示したイメージ図(電子を赤丸で表している)のように、二重結合を形成している左側の炭素を円の中心とした(あるいは扇の要とした)円弧を描くような動きである(あくまでイメージとしての電子の動きであるが)。その動きの曲がる向きが、そのまま曲がった矢印の曲がる向きとなるのである。

このような「曲がった矢印の円弧の向き」にまで気をつかって矢印を書いている教科書は、実はそれほど多くない。そのため、曲がる向きなんて気にしなくてもいいんじゃないか、という気さえ起きてくる。しかしやはり気にしよう。より正しく化学を理解するためだ。

 

以下には、間違いやすい例を(正誤ともに)示した。

(1)ブロモニウムイオンの生成

 

(2)転位・・・1番目の書き方が窮屈で書きにくかったら、2番目のような書き方も可能(矢印の出だしの膨らむ方向に注目)

 

参考文献

大学院講義有機化学 I (第2版)野依良治(編集代表)、東京化学同人、2019、p.216.

ジョーンズ有機化学(上)奈良坂紘一、山本学、中村栄一(監訳)、東京化学同人、2000、p.680.