セミナー講師という仕事について
――相模の本音とこれまでの道のり――
私がはじめて正式に「セミナー講師」を頼まれたのは、会社を立ち上げたばかりの頃でした。
声をかけてくださったのは、新潟建具連合会さんです。
当時、うちの建具を担当してくれていた山添建具店さんの社長が、連合会のトップをされていて、
「少人数で頑張っている建具屋にとってもヒントになるように、
インターネットを活用した集客の話をしてほしい」
という内容でご依頼をいただきました。
営業マンもいない、小さな工務店が、ブログを武器に受注している。
そんな、いわば「変な会社」を面白がってくださったのだと思います。
今振り返ると、とてもありがたいスタートでした。
県のセミナーに呼ばれるようになった頃
その次のご依頼は、新潟県からでした。
「新潟県産木材の活用」をテーマに、糸魚川市でマーケティングセミナーをやってほしい、と。
創業2年目には、すでに会社はプチブレイク状態で、
現場も社内もバタバタと忙しくなっていましたが、
それでも「地域の木をちゃんと使って家を建てる」というテーマには強い共感があり、
二つ返事でお引き受けしたのを覚えています。
東日本大震災が与えてくれた「覚悟」のようなもの
大きな転機になったのは、2011年の東日本大震災です。
とくに福島第一原発の事故は、私にとっても相当な衝撃でした。
エネルギーのほとんどを輸入に頼る日本という国で、
「これから先、本気で省エネに取り組まないとまずい」と、
腹の底から感じた瞬間でもありました。
住宅について言えば、
「今までよりワンランク上のエコハウス」が当たり前に求められる時代になる。
そう読んだ私は、勝手に自社の断熱グレードを引き上げていきました。
エネルギー計算ソフト「Q-PEX」を使って、
冷暖房エネルギーをどこまで落とせるか、外皮性能とパッシブ設計を徹底的にいじり倒す。
そうやって、設計の精度を上げていく時期でもありました。
松尾さんからの紹介でYKK AP→新建ハウジングのご縁
ちょうどその頃、兵庫の松尾和也さんとは、
お互いのブログを通じてやりとりをするようになり、
少しずつ交流が深まっていきました。
YKK APがAPWシリーズを発売し、
樹脂サッシ普及のために全国セミナーツアーを組み始めたとき、
メイン講師として呼ばれていたのが松尾さん。
ところが、全国を回るには講師が足りないということで、
「そういえば相模さんもしゃべれるじゃん」と(笑)
松尾さんがYKK APに私を紹介してくれました。
そこから2013年頃でしょうか。
私も全国各地を回って、エコハウスの話をするようになります。
その様子を見ていたのが、新建ハウジングの三浦社長。
「これはスター誕生だな」と思ってくださったのかどうかは分かりませんが(笑)、
雑誌での連載をご依頼いただきました。
YKK APのセミナーと、新建での連載。
この二つのおかげで、業界内での知名度は一気に上がり、
東北電力さんや北海道石油連盟さんなど、
大きな組織からもエコハウスの講演依頼をいただくようになりました。
当時は、工務店の社長で、全国区でセミナーができる人材は本当に少なかったんです。
だからこそ、余計に重宝されたのだと思います。
ピーク時には年間20件は引き受けていたと思います。
テーマはエコハウスから「工務店経営」へ
しばらくの間、セミナーのお題は
「エコハウス」「省エネ住宅の設計手法」が中心でした。
2015年には、日本エコハウス大賞で準グランプリを受賞し、
視察や講演の依頼もピークに達します。
一方で、エコハウス界隈には「話せる人」がどんどん増えてきました。
前先生や松尾さんをはじめ、実務と理論の両方を語れる方が何人も出てきた。
そこで私は、あえて少し違うポジションを取ろうと考えました。
もともと私はフランチャイズ本部のマーケティング部にいた経歴もあり、
マーケティング戦略や集客の設計には人一倍興味があります。
「工務店がどうやって生き残るか」
「地域工務店の経営戦略」
そういったテーマで呼ばれることが増えていき、
今ではこちらがセミナーの主力テーマになっています。
セミナー講師は「割に合わない仕事」なのか?
正直なことをいうと、2020年ごろから心境の変化がありました。
もともと私のスタンスは、
「地域の工務店が元気になってくれればそれでいい」というものです。
だからセミナーも、応援のつもりで引き受けてきました。
もちろん講演料はいただきますが、
私は毎回、その主催者や対象に合わせて、PowerPointを一から作り直します。
準備時間と当日の拘束時間を合わせて考えると、
自分の“日当”換算では、正直かなり安くなってしまう。
商売として見ると、決して「おいしい仕事」ではありません(笑)。
それに、工務店というのはピンからキリまであります。
ちょっと辛口になりますが、
「むしろもう、世の中からフェードアウトしてくれた方がいいのでは…」と思うような会社も、
全体の4分の1くらいはあるのが現実です。
医者に例えると処方箋が書けない状況であったり、改善に取り組む気がない会社です。
どんな工務店が聴きに来るか分からない場で、
自分のノウハウを全部さらけ出すことに、
だんだん抵抗感も出てきました。
その結果、今では
「お断りできないご縁の主催者」
「理念がしっかりしている団体」
に限って、お引き受けするようにしています。
それでも続けている理由 ― 人との出会い
それでも、10年以上セミナー講師を続けてきて、
本当に良かったと思うことが一つあります。
それは「人との出会い」です。
YKK APさんは途中から、講師を2名体制にしてくれました。
もうひとりの講師と一緒に登壇し、懇親会でじっくり話をする。
そうして、地方の小さな工務店にいたらまず繋がれないような人たちと、
友人のようなお付き合いが生まれていきました。
東北住建さんのセミナーでは、
松村秀一先生やBlue Studioの大島さんとご一緒させていただき、
一緒にキャスティングされたおかげで交流が生まれました。
「お金をいただきながら、人脈を作らせてもらっている」
こう言うと少しいやらしく聞こえるかもしれませんが(笑)、
でもこれは紛れもない事実です。
その結果、地方都市・新潟の小さな工務店の社長なのに、
業界内ではちょっと不思議がられるくらいの人脈を持つことになりました。
これもひとえに、セミナー講師という役割のおかげです。
最近の事例:埼玉木の家ネットワークでの講演
最近では、「さいたま家づくりネットワーク」さんからご依頼をいただきました。
もし私が埼玉で工務店をやっていたら、
どんなテーマに注目して経営しているだろうか?
そんな仮想設定のもとで、完全書き下ろしで資料を作りました。
これから(2025年以降)、特に重要になると考えているのは、次の3つです。
-
夏の猛暑対策としての設計手法
└ もっと踏み込んだパッシブデザインと「全館冷房システム」の現実的な運用。 -
埼玉という地域の「移住者」ニーズへの対応
└ 実は埼玉には移住者が多く、その受け皿としての工務店の役割。
└ その手段としてのリノベの可能性あれこれ -
ITとマーケティング戦略
└ みんながスキルアップしたいと思っている部分を、工務店経営にどう落とし込むか。
11/28に開催しましたが、50人程度集まってくれましたが、皆さん真剣に聞いてくれたので、こっちもヒート・アップして達成感を感じました。 それとやはりユーチューブは業界人はガッツリ見てますね。
お客さんへの説明の参考になるから見ているそうです。
工務店よろず弁士
エコハウスだけでなく、マーケティングや経営財務など、
いろいろなテーマに取り組んできた結果、
「なんでも一通り話せる人」にはなりました。
その反面、各分野の“権威”というわけではありません。
それでもなお依頼していただけるのは、
「現場で実際にやってきた話」を、
自分の言葉でお伝えしているからかな、と勝手に解釈しています。
これからのこと
これからの引き受ける件数は、年間でいうと3〜4件ほど。
セミナー講師としては、かなり“細々と”。
主催者の顔が見えて、参加する工務店さんの顔が浮かぶような場であれば、
これからも喜んでお引き受けするつもりです。
「地域工務店が元気になること」 に貢献できるのであれば、
相模はこれからも、マイクを握ってお話をし続けます。







