エロ本をオカズとして用いたとき、そのページに直接射精することがあるだろう。
聡明な読者諸氏ならば、もう立派に体験済みのここと察する。
射精を果たしたら、暫しの感慨や自己嫌悪を潜り抜けた後、飛散させた精液を丹念に拭き取る。
その際わずかながら、精液がエロ本に残ってしまうケースもある。
そうなると、待ち受けているのは揺るぎないデッドエンドだ。
世にいうこの《うっかりザーメン》が想わぬ悲劇を招来するのだ。
付着した精液が糊の役割を果たしてしまい、両のページが無情にも接合してしまう。
即ちもう二度と、それはオカズとして活用できなくなるのだ。
もはや原型を一切留めていない、無残に剥がれてしまった女性の肢体。
不注意によって到来する、予期せぬ永訣。
胸中に去来するかなしみたちは、留まるところを知らない。
射精によって勝ち得た圧倒的な喜悦の渦も、瞬時に雲散霧消してしまう。
私は卒業アルバムをオカズにしたとき、その惨劇に見舞われた。
あの日あの時あの場所で射精しなければ、身悶えするような悔恨に苛まれることもなかった。
陰鬱なラブストーリーは突然に、終焉の鐘を轟かせたのだ。
小田和正の澄んだ声と栄養不足なヘチマ然とした顔が、私の荒んだ胸奥を掻き毟る。
然し、オカズにした女子生徒たち(即ち全員)は、記憶の中で燦然と、それぞれの痴態を晒し続けてくれる。
青春の後ろ姿を、人は皆、忘れてしまう━私が尊敬してやまない《シンガーソングメスゴリラ》こと松任谷由実女史も、そう唄っていた。
♪恋人がサンタクロース 背の高いサンタクロース♪ というのは、ゴリラの痴れ言としては白眉である。
私はSMAP在籍時、「ミュージックステーション」で彼女と共演したことがある。
挨拶回りでユーミン女史にバナナを8ダースお渡ししたのだが、怒髪天を衝く勢いで怒鳴られた。
然しゴリラ界では、それこそが最大の愛情表現なのだという。
しかも、あろうことか日本語で難なくコミュニケーションを交わせたことは、慄然とするほど予想外だったので嬉しかった。
興奮のあまり、尿道が中央フリーウェイになりそうな勢いだった。
それ以来、私はずっと彼女のファンというわけでもない。
真夏の夜の夢にも似た翳りゆく部屋で、あの日に帰りたいと願いながらそんなことを想うのだった。
おれのちんこは、遅咲きのタンポポのようである。春よ、来い。
ありがとう、ユーミン。