
乗り物は好きなので
出張はきらいじゃない

仕事の合間に彼女に
したら体調はいいみたいだけどなんか元気なかったなぁ
寂しいって
早く帰ってきてって
あんまりそういうこと言う人じゃないのに
体調が悪いときも
帰りが遅いときも
大丈夫って笑う人だ
たまに強がってるけど
早く帰って
話よりまず抱き締めたい
それで少しでも彼女が安心して
くれたらなぁ~


したらこういうときに限ってトラブル発生![]()
うちのミスじゃないけど一人残ってといわれ…
当然、俺だわな![]()
仕方ないさ一番したっぱだしー
そして夜間作業なので昼間は待機
することないっつーの![]()
今朝方、帰れないって連絡したら
あからさまに声に元気がなくて
寂しいのかなって思ってみたり
けんかした事もあるし
薬を変えたもんで、そっちでもナーバスになってるみたいだ
ネオーラルは手の震えがひどく、医者に止められた
新しい薬は紫外線に過敏になりやすい副作用があるみたいで
もともと紫外線アレルギーの彼女だもんで心配だし
早く帰りたいのはやまやまだけど
「会いたいよ」と電話越しに彼女が言った
たぶん彼女がそう言ったのは初めてかもしれない
いつも、これから一生一緒なんだからって
なだめるのはいつも彼女だったのに
どうしたのかなー
何を考えているのかなー
「帰ってくるよね」とも
そんなの当たり前なのに
他に帰るところなんてないのに
何を心配してる
何がそんなに不安にさせる?
俺の経験不足なのか鈍感だからなのか
どうしてやっていいかわからんがや
正直、帰りたいけど
すこしほっとした部分もある
会いたいけど、どうしたらいいか、わかんなくて
考える時間が少しできたから
俺のこういう気持ちが伝わって
彼女を不安にさせてるんだろうかなぁ・・・?
出掛けに彼女と喧嘩した
喧嘩とも言えないかな、一方的にがーって、言ってしまった
彼女は昔、婚約していたことがあるという
高校3年の12月に入籍して卒業したら海外留学する予定だったんだって
でもそのカレシは事故で亡くなってしまったんだって
話を聞くと事故というより事件だがあえて事故と言いたいんだろうな
義理のイトコで許婚だったんだって
大好きだったと、彼女は言った
元々の明るさを取り戻すために、時間がかかったと言っていた
それはそうだろうと思う
お墓参りにも一緒に言った
俺が一緒にいきたいって頼んだ
手を合わせながら彼女は涙を流していた
ごめんね、ここにくると思い出しちゃってだめなんだ、と赤い目で笑っていた
申し訳ないような、胸苦しい気持ちになった
彼女はまだ、この人のことを好きなんじゃないだろうか
俺はその代わりにすらなれないんじゃないだろうか
彼女はその人をかつて愛したように俺を愛しているんだろうか
もしくは、それ以上に?
もしその人が生き返って目の前に現れたら彼女は俺と結婚するだろうか?
考えても仕方のない事がつぎつぎと浮かんだ
乗り越えるのに時間がかかったけど、今はもう、ちゃんと消化できているから
今は俺のことが大好きだし、出会えてよかったって思ってるって
そう言ってくれた
だから俺も考えないようにしようと思った
いま、彼女のカレシは俺なんだからって
昨日の朝、例によって出張で何日か家を空けるので
いってくるねとキスをした
玄関先でもう1度して欲しくなって彼女を呼んだ
これからずっと一緒にいるんだから、帰ってからまたいっぱいすればいいと、彼女は言った
なんだかオモシロくなくて
わかんないよ、と何も考えずに口に出していた
出先に事故に巻き込まれて死んじゃうかもよ
そう、言ったのだ
彼女は洗濯物を干す手を止めて、玄関先に早足で歩いてきた
キスしてくれるのかと思ったら、震える手で俺の腕をつかんだ
何てことを言うのかと、二度とそんなこと言わないでと
手が、唇が震えていた
泣き出していた
俺はわけがわからなかった
ただの冗談ですらない、軽口を叩いただけだ
ただ出かける前にもう1回キスしたかっただけだ
ただの冗談だと、言った
よくそんな冗談が言えるよね、と彼女は荒っぽい口調になっていた
わたしによくそんな無神経な酷いことが言えるよね、信じられない、と
声をあげて泣き出した
やっと気づいた
事故で死んだというカレシを思い出しているのだと
もしかしたらカレシを外国に一足先に送り出すとき同じような会話をしたのかもしれないなんて、思った
なんだかイライラしてきた
もう昔の事だって言ったのに、もう消化したって、今は俺のことが好きだって言ったのに、
こんな些細なことで彼女は、声をあげて、手を震わせて、泣くのだ
まだ好きなんじゃないか
俺は一生、彼女の中のカレシに勝てないんじゃないか
忘れさせるなんてできないんじゃないか
色んな考えが一気にあふれて来て
もうどうすることもできなかった
10年も昔のことを思い出して泣くなんて、こんな事くらいでこんなに泣くなんて
まだ引きずっているんだろう
まだその人を好きなのだろう
そう言ってしまった
いつの間にか腕を掴んでいた彼女の手が離れていた
俺とその人、どっちが好き?いま!
少し声が大きくなってしまった
彼女は泣きながらうつむいて涙をぬぐう左手の指輪が目に付いた
そのカレシともペアリングとか買ったのかな、なんて
答えたくない
と彼女は呟いた
そうじゃない、答えられないんだろと、怒鳴りつけてしまっていた
そうじゃない、何を言っているのか意味が分からない
怒らないでと、彼女は震える声で言った
かーっとなっていたが、少し冷静になった
でも、ずっと気になっていたことだ
病気のことより彼女の出生のことより、訊いてみたいけどできなかったことだ
今しか訊けないと、思った
今、俺とその人がいたら、どっちを選ぶ?
もう二度と訊かないから、一回だけ答えてと、言った
そんな質問はナンセンスだと彼女は言った
いまわたしの目の前には俺しかいないのに、と
もしもの話、ともう一度言った
もしもの話なんてしたくないと、また泣き出した
ナンセンスな質問だってわかってる
それでも聞きたいから、答えて。帰ってきたら絶対に聞くからね
どっちって答えてもいいよ
ただ聞きたいだけだから。
どっちを答えても、今更、俺は変わらないから、と
彼女は何も言わなかった
何て酷い質問なんだろうと思った
守りたいと思っていたのに、泣かせるなんて最悪だ!
でもどうすることもできなかった
少し冷静になって考えをまとめてみてわかる
俺はたぶん、そのカレシに嫉妬していたのだ
もしカレシが事故になどあっていなかったら、彼女はその人の奥さんになっていたのだから
その人は10年経った今も、こうも容易く彼女を悲しい気持ちにさせるのだから
彼女がその人のことをまだ好きで、俺は2番目でもいいけど
そうであることを知っておきたいと、思った
帰るまで連絡しないから一人でゆっくり考えてね
絶対に聞くから
どんな答えでも変わらず愛しているからね
駅に向かうまで、泣きたい気持ちになった
そんなことが言いたいんじゃないのに
でも、そんなことを言わずに我慢してきたことを言ってしまって、すっきりしたような
仕事中も震えて泣いていた彼女の様子が頭から離れない
冷静になって思い出すほど、ひどいことをしたと思った
いてもたってもいられなかった
ひどいことを言ってごめんと、メールした
返事は早かった
謝らなければいけないのは私だと。悩んでくれていたんだね、と。
考えてるからって
もういいよと返した
もういいから、忘れてくれと
ちゃんと話そう、聞いて欲しいと彼女は書いていた
ちゃんと聞いて欲しいから
今の気持ち、帰ったら聞いてね、と
どうすればわかってもらえるか、この気持ちに嘘はないってわかってもらえるか、よく考えるからって
会いたくてたまらなくなった
俺はなんて下らない男なんだろう
つまらないやきもちと、なんだろう、ものすごくマイナスな考えと
彼女はこんなにも俺の近くにいるのに!
いま、すごく会いたい
時間もなかったし、それだけ返した
いまだけじゃない
私はずっと会いたいよ
小さな笑顔の絵文字と一緒にそんな返事
あした帰ったらすぐに抱きしめたい
謝ってから、彼女の話をちゃんと聞こう
これは病気のことなんかより難しい
でも、ちゃんと聞いてあげなきゃ
待っててね!
俺はちゃんと、帰るから








