私は今、目の前の光景が信じられないでいる。
視線の先にには血まみれになって倒れている兄貴。
私とあやせは何が起きたか理解できずに呆然としていた。
ガチャ、いつものように兄貴の部屋の扉を開ける。今日は買い物の手伝いをさせるためにきたのだ。
「兄貴~服買いに行くから早く着替えて」
「は?こっちは受験生なんだぞ・・・なんで買い物に付き合わなきゃならねーんだよ」
「チッ・・・今度あたしらの雑誌で男性受けするファッションの特集するんだけど、その参考を聞きたいの。それに夏用の服も買いたいし荷物が多くなるわけ」
「それならそうと早く言えよな、てか俺にファッションセンスなんざないけどいいのか?」
「別に・・・あんま仲の良い男子の同級生も知り合いもいないから『仕方なく』あんたに頼んでんの」
兄貴にみて欲しいなんて素直に言えるわけないので『仕方なく』を強調して言った。兄貴は渋々って感じだが行く気になってくれたようだ。シスコンならもっと嬉しそうにしなさいよね。
渋谷ではいつものように清楚な服を着たあやせが待っていた。うん、いつもどおり可愛い。流石は私の親友だ・・・兄貴に釘刺すの忘れてた。
「あやせに色目使ったらぶっ殺すから」
「分かってる、てかんなことしねーよ」
ぶっきらぼうに言ってはいるが嬉しそうなのは顔にでている。あたしの頼みにはそんな素振り一切ださなかったのが腹立たしい。
「おはよう桐乃、あとお兄さん今日はよろしくお願いします」
「おはよ~あやせ」
「おう、こっちこそよろしくな」
それからあたしら3人は色んな店を回った。兄貴もなんだかんだ結構楽しんでる様子だった。
今日は3人で夕飯を食べることにしていたのでちょっと遅くなるとお母さんには言ってある。もちろん兄貴にはついさっき言った。
そして帰りに事故は起きた。
「今日は楽しかったぜ。誘ってくれてありがとな」
「あたりまえじゃん。こ~んな可愛い美少女2人と買い物できたんだから」
「うふふ・・・そうだね桐乃」
あたしとあやせは話しに夢中になって気づかなかった。1台の車が近づいて来てることに
グイッ・・・ドンッ!!
「何すんのよ!?」
「キャ・・・」
あやせとあたしは急に後ろ向きに倒された、倒したであろう人物に文句を言おうと前をみたらそこには車に撥ねられた兄貴の姿。周りからは叫び声がきこえる。
そんな中、あやせとあたしは呆然としていた。
「い・・・」
目の前の現実を認めたくなかった。
「いや・・・」
あの普段頼りないけどどこまでも優しくて、何度もあたしを助けてくれたあの兄貴が・・・
「いやーーーーーーーー!!」
血まみれで倒れているこの・・・現実を・・・
あの事故の後はほとんど覚えていない。うっすらと覚えているのは救急車の音とあやせの泣いている声だ。
気づいたらあたしは自分のベッドの上にいた。
「昨日のはきっと夢だったんだ・・・」
そう呟きリビングに降りていくとリビングには暗い顔をしたお母さんとお父さんがいて・・・兄貴はいなかった。
だけど昨日のは夢だったのを信じたくてお母さんに聞いてしまった。
「ねえ、兄貴は?」
聞いた瞬間にお母さんは準備してた手が止まり泣き出してしまった。そしてお父さんが近づいてきてあたしに教えてくれた。
昨日の出来事を。
兄貴は救急車で最寄の病院に緊急搬送されてすぐさま手術に入ったこと、あやせは泣きじゃくりあたしはあやせを慰めていたらしい。
手術は時間がかかったが無事に成功して一命は取り留めたらしいが重傷らしい。じつはついさっき入院の準備のため帰ってきたらしい。
「兄貴のお見舞いいくんでしょ!!あたしもつれていって」
「駄目だ。おまえは学校があるだろ。それをおろそかにすることは許さん!!」
「そうよ桐乃。学校が終わったらすぐに連れて行ってあげるから」
それでもなお食い下がろうとするとお父さんににらまれた。しかたなく学校に行くしかないらしい。・・・・・・兄貴
学校につくとあやせが暗い顔で近づいてきた。
「ねえ桐乃・・・お兄さんは大丈夫?」
「・・・・・・うん、手術は成功したって」
「よかった・・・本当によかった」
成功したのを教えるとあやせは泣き出して崩れ落ちてしまった。ほんとに兄貴の心配をしてくれていたのだろう。
あとは兄貴の回復を待つだけだ・・・あの兄貴のことだ。すぐにきっとピンピンして帰ってきてくれる。あたしもあやせもそう信じてた。
放課後になるとあたしとあやせはすぐに病院にむかった。
病院に着くとお父さんが出迎えてくれた。兄貴の病室に案内するために待っていてくれたのだろう。無機質な病院の中を歩いていくなか
わたしはどうしようもない不安に襲われていた。それはあやせも同じなのだろう。分かりにくいが体が震えていた。
「ここだ」
お父さんがぶっきらぼうに言うと中にいれてくれた。そしてあやせとあたしはほぼ同時に泣き出してしまった。詳しくは分からないけど医療器具に兄貴がつなげられていた。この酷い現実をみたあたしはもう我慢ができなかった。あやせとあたしは兄貴にすがるように泣いた。
何度も何度も謝りながら泣いた。
数分たったころあたし達はお医者さんに呼ばれた。検査などの結果がでたらしい。
「外傷は見た目ほどに酷くはありません。数ヶ月もしないで日常の生活には戻れるでしょう。しかし脳へのダメージが大きいです。なんらかの記憶障害が起こるかもしれません」
お医者さんはこんなことを大体言っていた。
あやせを家に送り届けてあたしたち家族は家に戻ってきた。ご飯は帰りにコンビニのお弁当を買ってきていたが食べる気にならずそのまま2階にあがると当たり前だが兄貴の部屋が見えたので思わず入ってしまった。いつものように無遠慮に
しかしそこにはいつもあの優しい兄の姿はなく暗いままガランとしていた。
あれだけ病院でも泣いたのにまた涙があふれてきた。あたしは兄貴を求めるようにベッドに倒れこんだ。
ベッドからは兄貴の匂いがした。あの普段頼りなくて、でも優しくて何度も助けてくれた兄貴の温もりを感じた気がした。
そして事故から1週間がたった。
目を開くと見慣れない真っ白な天井が見え周りをみると自分はなにやらゴタゴタした機械に繋がれた状態のようだ。ちかくには1人の女性が眠たげに首をコクッコクッと揺らしながら座っている。思うように声がでないがらも話しかけようとすると女性は気づいてくれたのか目に涙を浮かべながら何かのボタンを押していた。
それからいろんなとこに連れて行かれた。検査らしかったがそれも最後のになったようだ。
「今からいくつか質問をするので答えてください」
何を聞かれるのか身構えていると
「あなたのおなまえは?」
そんなの・・・あれ?・・・俺の名前は、どうしてだ?分からない自分の名前がどうしても思い出せない。
いや、名前だけじゃない意識していなかったが俺は目覚める前のことが何一つ思い出せない。
「俺は・・・俺は誰なんですか?」
学校に連絡がきた。あの馬鹿兄貴が目をさましたらしい。これだけあたしを心配させたんだ。懺悔させて、さんざんこき使ってやる。
「あやせ!兄貴が目をさましたって!!」
「ほんとに!?・・・よかった」
そしてあたしは黒猫や沙織・・・あと地味子にも一応連絡しといた。
そして病院に集合という形になった。沙織も遠いとこから来てくれるらしい。
あたしは放課後が楽しみになった・・・兄貴と話せる、それだけで心が軽くなったようだ
そして病院についたら、そこには黒猫や沙織、地味子。兄貴の親友らしいせなちーのお兄さんに、せなちー・・・。
みんなでぞろぞろと兄貴の部屋の前に行くとお父さんとお母さんが暗い顔で・・・ううんお母さんはたったいま泣き止んだといった顔だ。
まさか兄貴になにかが?
「桐乃・・・それと京介の友人の皆さん・・・京介は」
京介と兄貴の名前を口にしたとたんにあの頑固で強面のお父さんが涙を流した。どんなことにもじっと耐えるようなあのお父さんがだ。
最悪の事態が浮かんだあたしは反射的に病室に駆け込んだ。
そこにはまだ医療器具は完全に外されていないがしっかりと起きている兄貴がいた。
「えっと?どなたですか?」
だけど口を開いた兄貴から聞かされた言葉にあたしは足元の感覚がなくなったようなものを感じた。
「は?何言ってんの?、このあたしを忘れたわけ?」
「えっと・・・すいません」
それを聞くとあたしは崩れおちた。
そのあとみんなが自分のことを兄貴に聞いていたが兄貴は誰1人分からないらしい。目覚める前の記憶が一切思い出せないという。
記憶喪失なんて漫画やアニメの世界だと思ってたのに目のまえにこうして突きつけられると・・・思ってた以上に苦しくて何よりとても・・・とても寂しかった。
今日きた人たち・・・特に最初部屋に飛び込んできたあの女の子。あの子を見たとき頭がずきりと痛んだ。
きっとあの子が俺の記憶の鍵になってると思う。
あの子は俺にとってかけがえのない存在なのだろう。1目みた瞬間に心がじわっと温かくなるような感覚がしたのだから・・・記憶を早く取り戻さないとな
そして兄貴が退院する日がきた。
兄貴はあれから病室で地味子やせなちーのお兄さんが色々話してくれたみたいだが何も思い出さなかったらしい
幼馴染みの地味子でも記憶を取り戻せない・・・あたしで戻せるとはとても思えなかった。
それに兄貴にまた他人のように言われるのがこわくて病院に行けなかった。
いま家には黒猫、沙織、あやせが来てくれている。
「あのね桐乃・・・話があるの」
「うん?なに?」
黒猫とあやせがなにやら言いたそうにしている。
「先輩の記憶を取り戻せるのはあなたしかいないと私は、私たちは思ってるの」
「桐乃は気づいてないかもしれないけど・・・お兄さんにとって桐乃はきっと、ううん絶対にかけがえのない人だから」
「そうでござるよきりりん氏、我々も協力しまするゆえ」
「みんな・・・」
「それじゃまずはあの人を笑顔で迎え入れましょう」
黒猫がいうとタイミングよく車の音がした。兄貴が帰ってきたのだろう。
「今もどった・・・」
「ただいま」
「・・・・・・ただいま」
「「「「おかえり!!」」」」
あたしの頭の中には1つの方法が浮かんでいた。
その日の夜あたしは兄貴の部屋に行った。まだ病みあがりだしもっと体が回復してからでもいいのかもしれない。
けど・・・先延ばしにしたらまたあたしは震えて動けなくなるに違いない。
こんどは兄貴はいないのだ。
いつもいつでも、どんな時もどんな人が相手でも味方でいてくれた兄貴はいまはいない。
その人をいまから取り戻すのだ。ぜったいに取り戻してみせる。
バチン
「ん・・・なんだ?ってお前」
顔に痛みが走り目をあけるとそこにはあの女の子がいた。馬乗りになって・・・。
とんでもなくふざけた状態・・・だけど俺はこれに、こんな状況になにかを感じていた。
「あのさ・・・人生相談」
人生相談・・・その言葉を聞いたとたん一瞬なにかの映像が頭を駆け巡った。
「あたしのさ・・・かっこよくて大好きな兄貴を取り戻すにはどうしたらいい?」
兄貴・・・馬乗り・・・人生相談・・・
「あたしさ、前にも言ったけどあんたにほんとに感謝してる。あたしの趣味を始めて理解してくれたのが兄貴。黒猫や沙織に出会わせてくれたのが兄貴。お父さんから趣味を守ってくれたのが兄貴。あやせと今でも親友でいられるのも兄貴のおかげ」
この子、桐乃が思い出を語るたびにだんだんと鮮明に映像が浮かんでくる。
「そんな兄貴との思い出がなくなるなんて嫌だ。それに兄貴前にいったよね。あたしがいないと寂しいって、寂しくてシんじまいそうだって。あたしも同じ兄貴がいないと寂しくてシぬかもしんない」
そういう桐乃の顔には涙が流れていた。その涙を見た瞬間あたまのなかに鮮明に桐乃との騒がしい思い出が浮かんできた。
俺は思わず桐乃を抱きしめた。
「ごめんな、俺は兄貴失格だ・・・妹をこんなに泣かせちまったんだから」
「え?・・・もしかして」
「ああ・・・思い出した俺の大切な母親を父親を、幼馴染みを、友達をなにより」
一息ついていう
「俺の大事な、かけがえのない大切な妹をな」
「兄貴ーーーーー!!」
桐乃は堰を切ったように泣き出した。
そして思った・・・もう2度と桐乃を泣かせたりはしないと・・・絶対に守ってみせると 。