字描きさんというよりは絵描きさんだった。
今はほとんど見られないが映画館の看板のリアルな似顔絵なんかを描いていたという
経歴の持ち主で、本当は画家になるのが夢だった言っていた。

リアルな絵、たとえば、鮮魚市場の看板に、ピチピチした今にも飛び出しそうな
鯛の絵を描いたり、美容室のシャッターに、美しい女性の横顔を描いたり。

芸術的なものばかりではなく、学生食堂のカレーや、キツネうどんの絵を
すこし、デフォルメチックに描いたり。

求められれば、どんなものでも描いていた。そしてすごいのは、どんなタッチでも
描いていた。

もちろん文字も描く。。特に、楷書はうまかった。とてもまねできなかった。

でも、気分が乗らなかったら、よく遊んでたよな…
ニコニコ笑いながら、あたしの横に来て、職場の誰かさんの似顔絵をちょっと
ひねくって描いては、笑わせてくれた。

気分のいい時は、鼻歌を歌いながらハイカラー(ペンキ)を油絵の具のように
扱って、素晴らしい絵を、スピーディに描いていた。

自分自身の作風はもちろん持っていた。
でも、仕事に合わせて、求められるものに合わせて描く。

まさに!商業絵描き!

4~5年前に亡くなった事を知った時は、悲しかったな…
独立して、頑張っている、今のあたしを見て欲しかった。

昔みたいに、あたしの描いた看板にリアルな絵を添えて欲しい。

そして、写真のデータをインクジェットで出して、貼るだけの、味気のない
今の看板を、どう思うか聞きたいよ…。