麻疹 | オレサマのブログ
麻疹(ましん、英: measles, rubeola、痲疹とも)とは、ウイルス感染症の一種で、麻疹ウイルスによる急性熱性発疹性疾患[1]。日本では「麻しん」として感染症法に基づく五類感染症に指定して届出の対象としている[1](「疹」の字が常用漢字でないため「麻しん」として定められている)。和語でははしか(漢字表記は同じく「麻疹」の字を当てる)と呼び、一般にはこちらの方が知られている。
伝染力が非常に強く、世界保健機関WHOの推計によれば、2004年の全世界の患者数は約50万人で、東南アジア、中近東、アフリカで多く発生している。
流行株の変異によって、ワクチンで獲得した抗体での抑制効果が低くなることが懸念されている。また、ワクチンによる獲得免疫の有効期間は約10年とされるが、ブースター効果による追加免疫が得られず、抗体価の低下(減衰)により再感染することもある。
原因 編集 麻疹ウイルスによる。感染経路は空気感染・飛沫感染・接触感染と多彩。ウイルスは世界保健機関 (WHO) の分類により現在AからHの8群、22遺伝子型に分類されている。
臨床像 編集 麻疹患者の発疹
流行には季節性があり、初春から初夏にかけて患者発生が多い。日本での患者数は推計で年間20万人程度とされ、患者報告数を年齢別に比較すると、2歳以下が約半数を占め1歳代が最も多い。次に6~11か月、2歳の順となる。小児以外の患者数は地域によるバラツキがあり、ワクチンによる抗体価[2]の低下した10歳代から20歳代前半が最も多く、次いで、20歳代後半の順である[3]。
麻疹には、症状の出現する順序や症状の続く期間に個人差が少ないという特徴がある。ただし、免疫のある患者では、非典型的で軽症な経過をとることがある(修飾麻疹)。ワクチン接種歴により軽く済むといわれる。
母体からの免疫移行があり、生後9カ月頃までは移行免疫により発症が抑えられる。なお、抗体価が低下している女性が妊娠し、胎児が十分な抗体を持たず生まれ、生後5カ月以内で免疫が切れてしまうケースが報告されている。
診断 編集 かつての日本ではカタル期や発疹期に現れる特有の臨床症状のみで診断することが多く行われていたが、後述の「2012年の麻疹排除計画」開始以降は、実験室内診断を重要視し「IgM抗体検査」或いは「遺伝子検査」が推奨されている。しかし、IgM抗体検査では伝染性紅斑の罹患に伴う血清中の麻疹ウイルスIgM抗体の陽転化が報告されている[4]ことから、可能な限り遺伝子検査を行うよう厚生労働省は通知を行った[5]。
潜伏期間 編集 麻疹ウイルスへの曝露から、発症まで7 - 14日間程度かかる。
カタル期 編集 カタル期は3 - 4日間続き、他者への感染力はカタル期に最も強い。38℃前後の風邪症候群様(発熱、倦怠感、上気道炎症状)の症状や結膜炎症状が2~4日続き、いったん下熱する。カタル期の後半、発疹出現の1~2日前に、口腔粘膜の奥歯付近に、直径1mm程度の少し膨らんだ白色小斑点(コプリック斑)を生じる。眼症状として、多量の眼脂、流涙、眼痛が現れる。麻疹では角膜潰瘍(角膜が白濁する)や、角膜穿孔が起こり、失明することもある[6]。
発疹期 編集 カタル期の後にいったん下熱するが、半日ほどで再び39~40℃の高熱が出現し(二峰性発熱)、発疹が出現する。発疹は体幹や顔面から目立ち始め、後に四肢の末梢にまで及ぶ。
発疹は鮮紅色で、やや隆起している。特に体幹では癒合して体全体を覆うようになるが、一部には健常皮膚を残す。
発熱・発疹のほか、咳・鼻汁もいっそう強くなり、下痢を伴うことも多い。口腔粘膜が荒れて痛みを伴う。これらの症状と高熱に伴う全身倦怠感のため、経口摂取は不良となり、特に乳幼児では脱水になりやすい。
発疹期は発疹出現後72時間程度持続する。これ以上長い発熱が続く場合には、細菌による二次感染の疑いがある。
回復期 編集 下熱後も咳は強く残るが徐々に改善してくる。発疹は退色後、色素沈着を残すものの、5 - 6日程で皮がむけるように取れるとも報告されている。回復期2日目ごろまでは感染力が残っているため、学校保健安全法施行規則により下熱後3日を経過するまでを出席停止の基準としている(学校保健安全法施行規則19条2号)。
合併症 編集 麻疹にかかったナイジェリアの児童。現在、麻疹の流行はアフリカ大陸で多く発生している。
発症者の約30%が合併症を併発し[7]、約40%が入院を必要としている[8]。発熱時に不適切に解熱剤などを投与した場合、細菌による二次感染の危険性が高まる。また、合併症は以下のように区分される。
脳・神経系の合併症 編集 亜急性硬化性全脳炎(subacute sclerosing panencephalitis、略称:SSPE)
この病気は麻疹に感染後7~10年してから知能障害や運動障害が発症し、ゆっくりと進行する予後不良の脳炎である。麻疹に罹患した人の数万人に一人が発症するといわれている。まれに予防接種でも発症することがある。
ウイルス性脳炎
1000人に1人くらいの割合で発症。熱発の程度と脳炎の発症率に相関はない。発症すると1/6が死亡、1/3に神経系の障害が残るとされる。
咽頭~気道系の合併症 編集 麻疹ウイルスによるもの(中耳炎、ウイルス性肺炎(間質性肺炎)、細気管支炎、仮性クループ)
細菌の二次感染によるもの(中耳炎、細菌性肺炎、気管支炎、結核の悪化)
その他 編集 ワクチン未接種の女性が妊娠中に麻疹にかかると子宮収縮による流産を起こすことがある。妊娠初期での感染では31%が流産し、妊娠中期以降でも9%が流産または死産、24%は早産との報告がある。
細菌性腸炎 - 赤痢菌やサルモネラ菌などの細菌の二次感染によって発症する腸炎。主な症状は激しい下痢と腹痛で、下痢は粘血便となることもある。
口内炎
カンジダ症
播種性血管内凝固症候群 (DIC) - 非常にまれだが重篤な疾患。本来出血箇所のみで生じるべき血液凝固反応が、全身の血管内で無秩序に起こる。出血傾向(紫斑、止血不良など)と臓器虚血が主症状。脳内出血・消化管出血・多臓器不全がみられると非常に危険である。
治療 編集 特異的治療法はなく、アセトアミノフェンやイブプロフェンなどの解熱剤、鎮咳去痰薬、輸液や酸素投与などの支持療法を行う。細菌性の二次感染は少なからず見られ、中耳炎、肺炎など細菌性感染症を併発した場合には抗菌薬の投与が行われる。
免疫賦活薬イノシンプラノベクスは抗ウイルス作用を示す。麻疹患者に接触後72時間以内の免疫グロブリン製剤の投与が、麻疹発症を予防するか、あるいは症状を軽減させることが認められている。しかしながら血液製剤であるため、適応は原則として、ワクチン未接種の乳幼児や免疫不全患者など、ハイリスク患者に限られる。
ビタミンAの投与が症状の悪化を防ぎうるとの報告があったが、発展途上国のような低栄養(ビタミンA欠乏)状態の患児のみに有効であるとの指摘もある[9]。
民間信仰 編集 富山県高岡市では、「はしか」が流行すると、九紋龍の手形の紙をもらい「九紋龍宅」と書いて門口に貼って病除けにした、と言い伝えられている。
神奈川県横浜市や大和市、藤沢市に点在する鯖神社(左馬神社、佐婆神社とも言う)を一日で巡る「七さば巡り」をおこなうと、はしかや百日咳の病除けになるという。
愛知県や三重県では、アワビの貝殻を入口などにつるして、はしか除けをしたという。
長野県開田地方では、はしかになると、患者の枕のそばにはしか棚という神の棚を作り、供物を捧げる。12日経過したら、御神酒を下げ、湯と混ぜ体にふりかける。またワラで輪を作って、吊るすと「はしかの神」が通り抜けて出て行くと言う民間信仰もある[10]。
長野県佐久地方では、はしかになると岩村田の子育地蔵を参詣する。この地蔵は江戸時代の飢饉で幼児40人を間引きし、それを供養したもので、地蔵や亡き子供達の霊が助けてくれると言う[11]。
予防 編集 麻疹のワクチンの摂取状況(2010年)
麻疹の障害調整生命年(2002年、人口10万人当たり)
・・no data
・・≦ 10
・・10 ~ 25
・・25 ~ 50
・・50 ~ 75
・・75 ~ 100
・・100 ~ 250
・・250 ~ 500
・・500 ~ 750
・・750 ~ 1000
・・1000 ~ 1500
・・1500 ~ 2000
・・≧ 2000
予防策として唯一の方法は、幼児期のワクチン予防接種である。罹患したことのある人、ワクチン接種を行った人は終生免疫を獲得する