酒くさい、自分の息で眼が覚めた。
・・・ダメだ。アタマ・ぐらぐら・・・・
ぼんやり見ると、床には100円ショップで買った、お気に入りのでっかい青いグラス、横倒し。
空になった、クスリのプラスティック・シート、2枚。
そして、床一面の血だまり。その中心で倒れてるワタシ。
「・・・・あーあ・・・また、ヤっちゃったかぁ・・・・・」
ちょっと、自己反省的につぶやいて、寝ぼけ眼でアタマを掻く。
「コレ、どうみても、殺人現場にしか見えないよなあ・・・・」
血まみれのパジャマ。これ普通に洗濯しても落ちないんだよね。毎回、服は汚さないように気をつかってるつもりなんだけどな。
焼酎の、確か昨日買ってきたばかりの、「下町の味・ナポレオン」なんてものを横目で見て。
残量ライン、半分大きくオーバー。昨日買ってきたばかりだったのに。あーあ。
「・・・・ま、これだけ飲んで、赤玉2シートとくれば、当然といえば当然か・・・・」
パジャマ脱いで、下着一枚でベランダ出て、洗濯機にパジャマ放り込んで。
・・・・・・やだ、もう。めんどくさい。
振り向いた瞬間に左腕が、ひきつれたような痛みを感じる。
ちょうど、注射されるとこ、肘の内側。大きくパックリと開いてる傷口。
血は固まっているけど、やだ、ニクの中身、見えてるジャン。
これで、あの血だまりのイミはわかった。
「手首なんて切っても、スジばっかで血なんてあんまり出ないもんね。そんで、そこに眼をつけたか、なるほど」
他人ごとのように、一人しゃべってみる。
もっとも、聞くヒトなんて誰もいないんだけど。
無数の傷が残る、左腕。
ワタシの悲しみの、記録。
・・・・へっへっへ。なーんてネ。
実際のところ、あんまり感傷ってないのよね。こういっちゃナンだけど。
「ティーッシュ!ティーッシュ!」
ワタシは歌うように、わめきながら、ベッドの脇にあるクリネックスの箱目がけてジャンプした。
ワタシ、紺野稜子という。私学四年大学をでて、平凡なOL。彼氏いない暦・・・・半年。
ウツ病になって、もうかれこれ半年になるのかな?
なんでこんなあいまいな言い方になるのかっていうと、早い話、ウツ病っていつなってるのかわからないのよね。
例えば、「ああ、熱っぽいな、風邪かな?」と思うじゃない。
内科にいくと、「フムフム、風邪ですなあ。ま、無理せんで大人しく寝てなさい」っていわれて、葛根湯とか飲んで寝てれば治るワケよ。
ところが、ウツ病ってば、まるっきり違うワケ。
半年前、実家の両親が浮気騒動で、もめていた。
半年前、お互い、両親からの相談の電話がひっきりなしにかかってきた。
半年前、仕事で大きな人事異動があった。
半年前、個人的な理由で引越しした。
半年前、彼氏と別れた。
半年前、彼氏と別れた・・・・っていうより、一方的にキラわれた。
半年前、沖縄旅行にいった。
半年前、大好きだったジイちゃんが他界した。
半年前・・・・・・・って、全部、そのころに関わってくるんだよね。
症状は、だるい・ヤル気がない・眠れない・・・・っていうモノで「ああ、ワタシってば、もうダメ人間になっちゃったのね」くらいにしか、思ってなかったのよ。時期が時期だったし。
仕事は、ある程度こなさなきゃならなかったから、イヤイヤ行ってたけど。
だから、わかんなかったのよ。
「そんな病気」があるってことが。
と、目覚ましが鳴った。
今日もお日様キラキラの快晴。お部屋は殺人現場。
「こんなにギャップのある日常ってのも、珍しいとおもうケド・・・・」
そう一人ゴチて、ワタシは出勤の支度を始めた。
左腕はバンドエイドで止めて、化粧して、長袖着て。
定期と財布と腕時計とキーケースと。
玄関で黒いヒール。
鏡に映ったワタシは、まるっきり普通のOLだった。
床に落ちていたカミソリを見つけたので、ヒールで軽く蹴ってやった。
カミソリは狭い1ルームのキッチンの床を滑って、冷蔵庫に当たってあっけなく止まった。
「こんなモンよね、結局。・・・さー、仕事すっか!」
ワタシは、玄関の扉を開けた。
この時は、全く予感してなかったのよ。
これから起こる、全てのアリエナイ事、について、ね。
《Scene,2に続く》
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