モルグは自室に座っていた。
焦燥と疲労が顔の皺に刻まれたかのような、
そんな様相を、
隠そうともしていなかった。

そんな時に、ジェイがノック音に続き、
その部屋に入室した。
モルグは座りながらジェイを軽く見つめ、
その次の瞬間、睨むように凝視した。

貴様、ジェイではないな...
誰だ?...

ジェイは答えなかった。
仮面を被ったようにただ立位を保持している。
しばらく静寂がモルグの豪勢な部屋を支配した。
モルグは再び開口。顔の皺は一層深く。

誰かがジェイの肉体の中にいる...
分かった、絵上、貴様だ...
よくここに来たな...
何も起こらなかったのか?...
妙だな、無事に辿り着けたなどと...

ジェイはまだ何も返答せずに、
モルグに相対を続けた。

一度、二人で話してみたかった...
お前はどうだ?...
何かいいたいこともあるんじゃないのか?...
私にはあるぞ...
お前に聞きたいこともあるし、いいたいこともある...
わかるだろう?...

何故だ!...
貴様!なぜ裏切った!...
ふざけるな!...

辺境で燻っていたお前を見出だして抜擢したのは誰だ!...
貴様、何をするべきか忘れたのか!...
お前は私に何を求められて潜入したと思ってる!...
もう一度いう、ふざけるな!...

あちらで軍属として成り上がって...
山ほどの功績を上げ...
多くの競合者たちを退け...
最後にはトップにまで上り詰め、そして簒奪する...

そこまでだ!お前の役割は!...
あとは丸々この私に全てを明け渡せばそれで良かったのだ!...
今頃は目も眩むような報酬を受け取って...
誰もが羨むような贅沢ができたというのに...
この馬鹿者が!...

それが...
この私に楯突き、逆らい、挑み...
一体、お前は何をやっているのだ!...

お前はどういうオーダーをその身に背負っていたのか...
まさか忘れた訳ではあるまい...
どうだ!釈明してみろ!...

黙秘だと?...
何もいえんのか...
何もいいたくないというのか...

いつ裏切りを決心した?...
え?...

モルグが話し疲れたかに見えた後に、
ジェイの肉体のジェイの口から言葉が漏れた。
落ち着いた口調。

驚くなよ...
思い出したのは...
なんと戦う直前のことだよ...
唐突に何となく浮かび上がった...

無理だ...
急に正反対のことなんてできない...
もっと早い時期に思い出していたら絶対に排除されてた...
成り上がった最後に思い出すようにしてたんだろうが...
誤算だったね、できるはずがない...
周囲から信頼もされてる、愛着も強い...
もう完全に向こうの人だよ...

モルグは大きな溜め息をつき、
飽きれたような面持ちになった。
疲労がさらに増している。

ところで借金は返したか?...
お前、莫大な借金を抱えてただろう?...
過去どれだけ殺戮の限りを尽くし...
どれだけ借金を背負っていたか...

あちらでは無数の者たちの死を回避させて...
さぞかし大金を稼いだことだろう...
ひょっとしたらもう借金は返せているんじゃないのか?...
良かったじゃないか...
それでいい気になったのか?...

返した後は、次はどうする?...
殺して救って殺して救って...
そんなことの繰り返しなんだろう?...
大量殺戮、大量救命...
狂ってるとしか思えない...
矛盾の塊だ、貴様などただただ不毛な存在だ...
取るに足りん愚か者だ、いい気になるな...

ジェイの肉体を纏ったその何者かは微笑んだ。
やや無気力に。

もういいんだ、そういうのは...
これからは違うことをやりたい...
とりあえず幸せになってみたいかな?...

モルグは激しく爆笑した。
部屋の隅々はおろか万物に響くほどに笑ってみせた。
全身が爆裂するかのようだった。

絵上!ジョークが上手くなったな!...
今まで聞いてきた中で一番面白いジョークだ!...
芸人の域じゃないか!...

やがて二人とも黙ってしまった。
モルグがその沈黙を破った。

話はもういい...
貴様なんぞには負けない...
遠慮せずかかって来い...