梅崎「ゲタ~を鳴らしてぇ~ヤツがぁ~来るぅ~♪」

梅崎はママチャリに乗っていた。
鼻歌を歌いながら。

梅崎「コシに~手ぬぐぅ~いブラさぁ~げてぇ~♪」

古い歌だ。
ムッシュかまやつ、我が良き友よ。

梅崎「がくせいふぅくに~染みこぉ~んだぁ~♪」

ママチャリの動きは遅い。
ゆらゆらとふらつきながら進んでいる。

梅崎「オトコのぉ~ニオイ~がやって来るぅ~♪」

街を、道を、
梅崎はレトロな歌と空気で彩っていく。

梅崎「あぁ~ああぁ~♪ 夢よ良きと~もよぉぉぉ~♪」

梅崎は顔を上気させて、
ここぞとばかりにサビの部分で声を搾った。

と、そこで梅崎はママチャリを止めた。
目の前に人が立っている。
ゴスロリに身を纏った若い女性だ。
梅崎を凝視している。

ゴスロリ「あんた、何してんの?」
梅崎「あ? ひょっとしてお前ってお前?」
ゴスロリ「誰でもいいから答えなさいよ」
梅崎「いま仕事してんだよ、邪魔すんなよ」

ゴスロリファッションの女は、
少し怖い目になった。

ゴスロリ「尾行とはちょっと違うわね、何?」
梅崎「動かしてんだよ」
ゴスロリ「誰を? さっきの男が電話してた相手?」
梅崎「決まってんだろうが」

梅崎は面倒くさそうに答えた。

ゴスロリ「で? どこに動かすの?」
梅崎「要するに芋づる式に探っていけばいいんだよ」
ゴスロリ「敵方の仕掛け元にってこと?」
梅崎「もちろんだ」

ゴスロリは呆れ顔をした。

ゴスロリ「へぇ~、じゃあその追ってる相手をいま...」
梅崎「......」
ゴスロリ「もっと上の大物の所へ動かしてんのね?」
梅崎「まあな」

街を歩く人々は、二人を無視している。
二人はどうみても異様なカップリングに見える。

ゴスロリ「それって尾行じゃなくて傀儡術でしょ!」
梅崎「だったらどうした」
ゴスロリ「相手にバレるでしょ! バカなの?」
梅崎「うっせ~な~」

ゴスロリは梅崎に噛み付いた。
いや、実際に噛み付いたのではなく。言葉で。

ゴスロリ「相手が強かったらどうするの? 死ぬの?」
梅崎「......」

ゴスロリの問責は厳しい。

ゴスロリ「追ってる相手のプロファイルは?」
梅崎「......」
ゴスロリ「いいなさいよ!」

梅崎はしぶしぶとゴスロリに情報を伝えた。
30才代、外見は女性、ブロンドの長髪。

ゴスロリ「外見は女性?」
梅崎「......」
ゴスロリ「ニューハーフ?」
梅崎「多分」

ゴスロリ女は梅崎の前から消えた。
時刻はすでに夕方になっていた。