梅崎「トミー、聞こえるか?」

梅崎は虚空に話しかけた。
あたかもそこに猫がいるかのように。

梅崎「見つかるなよ、どうだ?」

ただの独り言だ。
しかし、梅崎にとっては違った。

梅崎「そいつはいまどこで何をしてる?」

梅崎は最も知りたいことを、
単刀直入に尋ねた。

梅崎「カラオケ屋の前? ひとりで立ってる?」

梅崎が敵対している相手は、
カラオケ店のすぐ前にいるようだった。

梅崎「なに? 目つきが変わった?」

猫のトミーから、
相手の異変が梅崎に伝わった。

梅崎「あ? オデコのあたりの空気が歪んだぁ?」

トミーの報告は、
かなり具体性に富んでいる。

梅崎「何か放つかな、標的は...俺だ!」

ほかに誰がいる?
梅崎としてはそうとしか思えない。

梅崎「探れ! わかる範囲でいい! 急げ!」

梅崎の指示がトミーに飛ぶ。
おそらく時間はほとんど、ない。

梅崎「浸透波? たぶん浸透波だと?」

トミーの報告の内容に、
梅崎はやや驚いた。

梅崎「あのな、俺の知る限り...」

梅崎は記憶を辿っていた。
もう時間がないのに。

梅崎「浸透波を浸透波と捉えてた奴は、全員負けてる」

この切迫した状況で、
梅崎はいちいちトミーにウンチクを垂れる。

梅崎「俺にいわせりゃ浸透波の正体は...」

話すヒマがあったらさっさと手を打てと、
トミーの気持ちが伝わってくるかのようだ。

梅崎「超大量の分子機械、モレキュラーマシンだ」

梅崎は話を引っ張ったあげく、
ようやく持論を口にした。

梅崎「いま放ったみたいだと?」

梅崎が空中にブツブツ話しかけている間に、
事態はさらに緊迫していた。

梅崎「そうか、もうすぐ俺の体内に侵入してくるな」

妙に呑気な様子の梅崎が、
他人事のようにつぶやいた。

梅崎「超大量の見えないモレキュラーマシンがな」

にゃにゃにゃにゃにゃにゃ~~~っ!
と、おそらくトミーは叫んでいるはずだった。

梅崎「心配するなトミー、対策はなくはない」

梅崎は、不敵にも笑っていた。
彼独特の真っ黒い顔で。

梅崎「分子機械に対する干渉通信を満たしておく」

大きく開いた口の中で、
梅崎の鮮やかな白い歯が見えた。

梅崎「俺自身の体内でな」