私の好きなもの

 

  シンと静まり返った霧の深い山路

      真っ暗な中で聞く渓谷の響き

          北風に吹かれてさざめく天の星

 風にそよぐ花、ポトリ、ポトリと落ちるどんぐりの実

 

雪原の中に忘れられたように咲く岳樺のはがれた白い皮

   薄ぐらい白ビソの原生林 、ふんわりと柔らかい緑の苔          山小屋には 囲炉裏に燃えさし

 

   きらきらとまぶしい太陽の下

朝焼けの中の峯ゝ  岩の間を流れる手を刺す冷たい水

     耳を澄ませると聞こえて来る山靴の音

池塘に浮かぶ夏の雲  夕立が地面を打つ時の水しぶき

       服に付いた水滴の輝き

 

秋の夕日に輝く苔桃の紅い実

   滝壷に膝小僧まで入った時

 紅葉した七竈の向こうに見える白い稜線


 ピッケルの鈍い光と  霧氷で字の読めない導標

   踏んだ跡のない新雪

      ざくざく靴の下で鳴る風化した花崗岩

 暖かい飲物を作るラジウスの青い炎

 

残雪を頬張って喉の渇きをいやす一時

   嵐の前の風に吹かれている這い松 

            寝袋のチャックを下げる時の感触が嬉しい

   丸い頭の茅戸の寝所

 

             そして何よりも好きなのはちんぐるま

 

1988.10.06 チョッと手入れしました。