先日、久しぶりの本屋さんで爆買いした本の一冊。養老先生の「壁」シリーズは近年もたくさん出ていますが、随分前に「バカの壁」を読んだきりです。とても頭の良い方。わかりやすい言葉で人生の大事なエッセンスを伝えてくれているように思います。

 

この一冊を読み終えて受け取ったメッセージは、人生は深刻にではなく真剣に、おおらかに、何事からもちょっと距離を置いて俯瞰して生きてみる、そうすることで肩の荷が下りるよ、みたいなことか。今の世の中はこういう良い意味でのいい加減さを許さないタイトでぎちぎちな社会だというのです。

 

土井善晴さんの著作からの引用がありました。

「暮らしにおいて大切なことは、自分自身の心の置き場、心地よい場所に帰ってくる生活のリズムを作ることだと思います。その柱となるのが食事です。」と。自分自身が幸せな状態を作ることが何より大事だと。猫のように。猫はほうっておいても自分にとっても一番気持ちのいい場所に身を置いて、ひたすら寝転んでいるから。外の世界が厳しい今の時代だからこそ、日常生活で意識的にそういう場を作っておくことは心身の健康のためにも大事ですね。

 

「人生の壁」はこの本の中の章のひとつで他には「子供の壁」、「青年の壁」、「世界の壁、日本の壁」、「政治の壁」がありました。私が一番多く付箋を付けたのは「世界の壁、日本の壁」の章でした。改めて気づかされたのは戦後、軍国主義、全体主義への反動として「個の尊重」が叫ばれるようになったことの弊害。あとGHQによる社会の大幅な変革。

 

個人主義については日本の場合はそれが西洋的価値観からくるものではなく、非常に安易な形で落ち着いてしまった。確かにこれは今の世の中を見渡すと日本の個人主義ってすごく「身勝手」なものに思えることがあるのはそれなのかと。

 

またGHQの改革で宗教と人間の間に距離ができてしまった。日本人の心の軸にあたるものが今の日本人にはない。戦前のように軍の論理に宗教が利用されるようではいけないけれど、長い長い日本の歴史の中で日本人の心の中に続いてきた宗教観が否定されたことで、往々にして人が寄りかかるもの、心の支えとするものが無くなってしまったという。心の軸がなくなってしまったからこそ安易に例えばオウムみたいな宗教まがいのものに心のよりどころを求めてしまう人が出てきたりするのではないかと思います。既に世の中にあるものは何らかの理由があって存在している、という著者。でも排除する側はそういうことは気にしない。このへんは日本人は立ち止まってゆっくり考えてみることも必要なのではと思いました。

 

生きていると幾度となくぶちあたる「壁」。視点を変えてみることで乗り越える方法が見えてくるのではないか?というアドバイスのようにも感じました。