9本目。

 

 

監督:酒井充子

 

2008年日本映画。台湾は1895年(明治28年)から1945年(昭和20年)まで51年間、日本の統治下にありました。この時代に生まれ育った人たちは日本人として教育を受け、生きてきました。日本人として太平洋戦争にも行きました。日本の敗戦により台湾は中国国民党政府によって統治されるようになります。それは決してうまくいったわけではなく、台湾人は弾圧に晒されました。そのような激動の時代を生きてきた人たちへのインタビューから成るドキュメンタリー映画です。製作は2008年。日本統治時代を知る人たちがまだ健在であった最後の時期だったのかと思います。


私自身が初めて台湾を訪れたのは1990年代のはじめでした。出会う地元の方々の中にとても流暢に日本語を話す高齢者が多くて、えっ?って驚きました。まるで日本人そのものの話し方でした。「自分たちは日本人として教育を受けてきた」というようなことも話してくれました。日本による台湾統治については知識としては知っていたけれど、その時に初めてその歴史を体感したような思いでした。戦時に日本が占領していた韓国では戦後、反日の人が多かったため、この人たちも日本人のこと嫌っているのかなと思ったのですが、あまりそんなふうでもなくて、会話の中に日本時代を懐かしむようなことを言われる方も多くて、随分違う印象を受けました。

 

このドキュメンタリーに登場するのは「かつて日本人だった人たち」。明治以降の日本は欧米への対抗意識から植民地台湾のインフラ整備や教育にも大変力を注ぎました。教育の影響とはこうしたものなのかというのがまずの印象!現代の日本人が失いつつあるような日本人としての気構えみたいなのを彼ら彼女らはしっかりと持っていて、それがとても印象深かったです。ある女性は「私がもし男性だったら自分から特攻隊にいっていた」とも言ってました。それほど日本という国を愛し、日本に忠誠を誓っていました。それなのに日本は統治時代には彼らを二級市民扱いし、その後は台湾を見捨て、戦後は見て見ぬふりをしてきたと。日本への愛着と同時に日本政府のやり方への悔しさみたいな彼らのとても複雑な思いが伝わってくるんです。天皇のために命を投げ出したのは彼らも同じ。せめてひとこと、それへのねぎらいの言葉があってもよかったのではないかと。同じ日本人として日本政府のやり方をとても恥かしいと感じました。そして戦後の台湾は中国から渡ってきた国民党政権の支配下に置かれます。日本人として生きてきた台湾の人たちにとって中国国民党はつい先ごろの戦争では敵であった人たちです。世の中の体制が変わったからといって人々の心までそう簡単に切り替わるものではありません。その心の葛藤、哀しみを思うといたたまれない気持ちになりました。しかしどの人の姿もとても逞しいものでした。派手な作品ではないですが知っておくべき歴史の一面だと感じた内容でした。