このお二人、親子だったのですね。知らなかった~。 大学生の頃、落合信彦氏の本をたくさん読みました。ケネディ暗殺の真相に迫った「2039年の真実」でアメリカの闇について知り、「軍産複合体」という言葉を初めて知ったのもこの方の著作からでした。信彦氏はとっても情熱的なジャーナリストである一方、息子の陽一氏は今の時代に生きる人らしいクールなイメージ。この本は45歳離れたお二人親子の対談本。二人が見る今の世界について、大変興味深く読みました。
現在のアメリカについて、信彦氏はオバマのような人物が大統領になったことが世界がジャングル化している原因だといいます。強いアメリカ抜きの世界はいずれ崩壊すると。オバマ、トランプと続いた大統領のおかげでプーティンや習近平に独裁権力を与えてしまった。核戦争の危機が迫る今、バイデン大統領にも器量と覚悟が感じられない。いい人だけではリーダーとは言えない、と。若き日に単独で渡米し、アメリカが最も強くて豊かだった時代を見てきた信彦氏ならではの視点なのでしょうか。信彦氏が留学されていた1960年代といえばキューバ危機で核戦争ギリギリのところでアメリカを救ったケネディが大統領だった時代でした。大局に立った視点で語れる政治家がいなくなった。それは日本も同じでポピュリズムが蔓延している。ローマ帝国の末期と同じだ、と。
陽一氏は世界の劣化はインターネットの登場の影響が大きいと指摘されています。大衆からのフィードバックがすぐ返ってくるようになって目の前の数字や人気ばかりを追うようになった。大統領選でもスキャンダルトークが幅を利かせてたりする。世界はどうなっていくのかと本気で考える報道も風潮もなくなった。でもそれは劣化ではなく人類の「適応」だと思う、と仰ってます。いまや教養を含んだ言葉は国民には届かない。ポピュリズムな生活を送る人に届くのは「愛国心」くらいだと。
これからの教育についてのくだりで、陽一氏の指摘で面白いなと思う箇所がありました。これからの試験は学生に問題を作らせればいい、と仰ってて。頭の悪い人は本当に単純な問題しか立てられないけれど分野について習熟していれば立派な問題がつくれる。クイズに答える教育スタイルを続けると問題は「誰かが作ったもの」という考え方が当たり前になり低脳化が進む、と指摘されてました。確かに私自身も社会人になってまず求められることは「課題をみつける」ということだと感じてました。それを難しいことと感じていたのも、自分自身がほぼ受け身教育だけで学校を卒業してきたからかと振り返って思いました。
また信彦氏は日本がブランドで勝てないのは倫理や哲学を軽視しているからだとも仰っていました。何か事件が起こっても原因や影響を正面から議論せずにスキャンダルとして消費して忘れ去るのが日本人の国民性。場当たり的な考え方が製品やサービスにも表れているのは倫理や哲学がないからだと思うという指摘は、意外な感じがしました。しかし、そういえば、海外の大学で理系学部にいってた人と話した時に哲学や倫理的な勉強もしたと言ってなあ、ということも思い出しました。
もっと身近に感じたのは陽一氏が「日本企業は半導体技術の変化によるライフスタイルの変化をあまり予測できなかった」と指摘されていたところ。その例にあげられていたのがカメラ。コンパクトカメラはスマホに吸収されて市場が消失してしまった。プロのカメラマンよりもブロガー、インスタグラマー、ユーチューバーの市場のほうが遥かに大きくなり、商業レベルの画質等よりも機動力が高く簡単に撮れて失敗がない商品への需要が高まった。その一方でカメラメーカーはプロ中心に話を聞いて製品を作ってきた時代が続いたという。メーカー側の失敗は市場の変化を読み取ることができてなかったからなのかと。
巻末で信彦氏が過去にインタビューした人物の中からジョン・F・ケネディ、ロバートケネディ、サッチャー、アイルトン・セナの言葉を紹介されています。至言ばかりです。
いろいろ面白くて一気に読んでしまいました。