15本目。
原題:Im Labyrinth des Schweigens/Labyrinth of Lies
監督:ジュリオ・リッチャレリ
キャスト:アレクサンダー・フェーリング、フリーデリーケ・ベヒト、アンドレ・シマンスキー
1958年の西ドイツ・フランクフルト。第2次世界大戦の終結から10年以上が経過し、復興後の西ドイツではナチスドイツの行いについての認識が薄れていた。そんな中、アウシュビッツ強制収容所にいたナチスの親衛隊員が、規約に違反して教師をしていることがわかる。検察官のヨハン(アレクサンダー・フェーリング)らは、さまざまな圧力を受けながらも、アウシュビッツで起きたことを暴いていく。
(Yahoo映画)
2014年ドイツ映画。アカデミー賞外国語映画賞作。1950年代後半のドイツが舞台です。「アウシュビッツを知っているか」の問いに当時は大半の若者が「知らない。」と答えていたのが驚きでした。敗戦国として過去のことは忘れたい、思い出したくない・・、過去の汚点を誰も語りたくないから、語り継がれない。戦争の記憶自体が人々の記憶から薄れつつあった・・という。そんな中で戦争犯罪と向き合うべきと行動を起こした若き検察官がいました。これがドイツ社会が過去と向き合うきっかけとなりました。
戦争という非常事態が引き起こした無数の悲劇について、加害者も被害者も思い出したくないし、語りたがらない。ようやく引き出した証言の数々。その内容は「人間ってここまで悪魔になれるの?」って思うくらい悲惨でした。生きた人間にウイルス感染させたり、麻酔かけずに腸を抉り出したり、殴り殺したりとか。言葉で語られる証言を聞いているだけで戦慄しました。戦争の狂気がそこまで人間の精神を変えてしまうのかと。若い世代の検察官らのすごいところはちゃんと証拠を揃えて、戦犯者を告訴し、裁判にもっていったところでした。こうした一連の動きが戦後ドイツ人の意識の変容につながっていったわけです。
この流れをみながら日本の戦後をつい思い起こしてしまいました。日本でも戦後にB級、C級戦犯も含めると5000人以上の人たちが戦争犯罪で裁かれているのだけど(「私は貝になりたい」の主人公もそのひとり。)、裁いたのはアメリカをはじめとする連合国側なんですよね。アメリカの戦後統治政策によることなのだけれど、よその国の人が日本人を裁いていて、日本人は関与していない。もっとおおざっぱに理解すると、「東条英機をはじめとするA級戦犯らが戦争を始めて、日本を破滅させた。」みたいな被害者感覚であの戦争を片付けてしまった。大半の日本人は自ら歴史に向き合うということをしてこなかったように思うんです。戦争の負の部分の処理は他人任せにして、経済復興ばかりに心血を注いでたみたいなところがある。私自身も学校で戦争のことをちゃんと学んだ記憶がありませんでした。戦後の賠償問題がいまだに蒸し返され、一向に話が進まないのも日本人の中には戦争に対する当事者意識が欠如しているからではないかと思いました。同じ敗戦国でも歴史への向き合い方がこんなに違うことを改めて考えてしまいました。
場面的には主人公ともうひとりが双子の娘が殺されたアウシュビッツに出かけ、その子らのために祈りを捧げるシーンがとても心に残りました。いい映画でした。日本人こそ見るべき作品かと思いました。