7本目。

 

原題:Merry Christmas Mr. Lawrence

監督:大島渚

キャスト:デヴィッド・ボウイ、トム・コンティ、坂本龍一、ビートたけし

 

大島渚監督が、第2次世界大戦中のジャワの日本軍捕虜収容所を舞台に、極限状況に置かれた人間たちの相克を描いた異色のヒューマンドラマ。日本軍のエリート士官ヨノイと連合軍捕虜セリアズ少佐の愛情めいた関係を中心に、日本軍人と西洋人捕虜との関係が興味深く描かれる。~映画.com~

 

1983年日本・イギリス・ニュージーランド合作。

大学生の時にビデオを借りてきて観た記憶があるのですが、話題性があった割には内容が難解すぎて、当時の自分には全く理解できなかった作品です。鮮烈に記憶に残っているのは坊主頭のたけしさんの最後のシーン、坂本龍一とデビッド・ボウイのキスシーン、美しいテーマ音楽。それくらい。しかし、これは大島渚監督の一番有名な作品、やはりちゃんと理解して観たい!と今回はネットの解説を読んで予習してから鑑賞しました。

 

クローバークローバークローバークローバー

 

いろんなテーマが散りばめられたすごい作品でした。戦闘シーンは一切出てこない戦争映画です。ジャワ島の捕虜収容所を舞台に登場人物は男性のみという設定で。最初のうち衝撃的だったのは日本軍の粗暴さでした。日本人と英国人の考え方や価値観があまりにも乖離しすぎていて、双方が全く理解しあえない状況なのも。戦後77年が経過した現代からみると、野蛮な日本人の言動が怖すぎて、「同じ日本人なのにこの感覚ありえない!」って思ってしまう。実際戦時中にもこういうことが常に起こっていたのだと思います(究極はこの「互いを理解できない」状況が戦争の原因だったのかもしれないですね。)。日本人の粗野さはイギリス人捕虜たちとの対比で余計に際立っていました。そこには日本人が白人に対して持っていたコンプレックスみたいなのもチラチラ感じられました。一方で朝鮮人軍属のカネモトに対する仕打ちがあまりにも酷い。欧米人には劣等感、朝鮮人には優位感情。日本人の醜悪な部分が容赦なく描かれている感じ。

 

双方の意思が全く通じ合えない中で、ハラ軍曹(ビートたけし)とロレンス(トム・コンティ)の間に友情みたいなのが芽生えます。ロレンスは日本に滞在歴のある通訳でした。彼は日本人の思想・文化を理解していました。だから文化の障壁の向こうにある相手の心に通じることができたのですね。ハラとロレンスの二人をみているとそれが戦時中でさえなければ、互いにお酒を飲んだり冗談を言い合ったりするような友人になれていたかもしれないなと感じました。

 

別の場面ではヨノイ大尉(坂本龍一)が裁判の席で被告人席に立たされたセリアズ少佐(デビッド・ボウイ)に心を奪われてしまうシーンがあります。当時の日本人の感覚からすれば捕虜とは軽蔑すべき対象。その捕虜に一目ぼれしてしまうんです。その後のヨノイのセリアズに対する恋焦がれの様子はまるで10代の純粋な少年のよう。自分の立場を考えて必死でそれを抑えようとする彼の心情がずきずきと観ている側に伝わってきます。デビッド・ボウイが坂本龍一にキスしてハグするシーン、とても有名ですよね。解説を読んで知ったのですが、このシーンを撮影した時、たまたま機材が不調を起こしてカメラが揺れたのだそうです。あの瞬間のスローモーションと画面の揺れは全く意図的なものではなくて、偶然の産物だったのだと。しかしそれがためにヨノイの心の動揺が鮮烈に描きだされてて、忘れられない珠玉の場面でした。

 

印象的なセリフもありました。収容所の場面から4年後、1946年の場面です。日本は戦争に負け、ヨノイ大尉は既に前年に処刑されました。ハラもB級かC級戦犯として起訴されたのでしょう、その翌日に自身の処刑が迫っていました。そこへかつての捕虜だったロレンスが訪れます。ハラはロレンスに「自分は死ぬ覚悟はできているが、腑に落ちないのは自分は他の人と同じことをしたまでなのに、なぜ自分だけが死刑になるのか。」といいます。その時にロレンスは「あなたも被害者だったのです。」と寂しげに言います。「かつてのあなたやヨノイのような自分の正義が正しいと信じる人たちの。」と。映画はハラの顔のアップとあの有名なセリフで終わります。そこに残る余韻にただただ浸るうちにクレジットが流れてくる。ストーリーの場面、場面に挿入される坂本龍一さんの美しいテーマ曲がとても抒情的で、この映画の印象を一層感動的で豊かなものにしていました。

 

こうして改めて鑑賞しなおしてみると本当に多くのテーマを包含した厚みのある映画だったんだなって思いました。たけしさん自身も「この映画を予備知識なしで一回みてわかるやつは、よほど頭がいいか、ひねくれているかどちらか。」と言ってました。わかってなかったのは私だけではなかったようです。坂本龍一さんもたけしさんも演じていてても理解できてなかった・・らしい。演じていた本人もその意味を理解していないのに、その彼らから素晴らしい魅力を引き出して作品に仕上げているのが大島監督のすごいところかと。そして考えてみたらメインのキャスト4人のうち3人はミュージシャンや芸人なんですよね。この配役を考えた監督の眼力っていうか、凄みを思わずにいられません。この作品は昨年、4K映画になってシアターで上映されていたんですよね。ああ、観に行けば良かったなあ!ってすごく後悔しました。

 

 

 

映画の舞台はジャワ島ですが、実際の撮影は南太平洋のクック諸島・ラロトンガ島で行われました。このことは私自身も公開当時から知っていて、シドニーに暮らしていた頃、「ここからならニュージーランドを経由したら行けるな!」と、一週間ほど旅行してきたことがあります。現地では映画撮影の形跡は何も見つけることができなかったのですが、サンゴ礁に囲まれた非常に美しい島でした。近くのタヒチやフィジーと違って観光客が誰もいない、まるでいまの福井県の海のようでした。そしてこの頃、坂本龍一さんのコンサートがシドニーであり、聴きにいったことも思い出です。ライブのピアノ演奏で聴いたMerry Christmas Mr. Lawrenceは最高に感動的でした。