長浜市の北、高月。この地域には観音様を祀ったお寺が多く残っていて、「観音の里」と呼ばれています。地域自体に地味な印象があって、これまではわざわざ訪れることがありませんでした。先日、白洲正子さんのエッセイを読んだことで興味を持ち、出かけてみることに。
あいにくなことに、暫く前からこの辺のお寺や仏像を保管している宝物館などコロナで拝観を停止しているところが多いのです。そろそろ再開しているかな?と思って事前に電話確認してみたけれど、今年度はずっと閉鎖するとの答えでした。その中で拝観可能なお寺があったので、そこを目指しました。全国に7体しかない国宝観音像のうち1体を祀る向源寺というお寺です。
拝観を終えての感想・・こんなお宝があったのになぜ今まで来ようとしなかったのだろう?ということ!白洲正子さんが生前、わざわざ東京から何度も何度も足を運んでおられた湖北の地。著作ではこの観音様にも触れておられました。井上靖氏も作品にこの観音様を登場させ、写真家・土門拳さんも作品を残してます。(土門さん撮影の写真も展示されていて見ることができます。)
本堂に入ってからは撮影禁止だったので、山門から入って境内までの写真を以下に。まだ紅葉には早いですが、柔らかい日差しが秋を感じさせます。
観音様は本堂から続く通路を通って別館に安置されています。写真はネットからお借りしました。
ゆるっと立つ姿がなまめかしい。平安時代の作だそうです。東大寺に描かれている絵をモデルにしたとのことですが、仏師は誰かわからないとのこと。観音様は慈母のイメージがありますが、男性なのだとか。若狭のお寺で拝観する仏像同様に保存状態が非常によく、当時の色彩が残っています。胸元の首飾りなども朽ちることなく残っていてすごいなと思います。国宝となっている他の6つの観音様の写真も見せていただき、見比べてみましたが、ここの観音様は表情がとりわけ気品があり、優しそうに見えました。
しかし、この日に私が見たかったのは観音様の頭の後ろについている大笑面。十一ある顔のひとつで、暴悪大笑面(ぼうあくだいしょうめん)といいます。この悪そうな顔が仏像のイメージを覆します。表は優しい慈愛そのものの表情なのに、その裏側がこれであるのが。
白洲さんの著書にこの大笑面に触れた箇所があります。
大笑面っていうのも世間の悪を笑うというような解釈もあるんだけれども、もっと凄いものですよね。そんなものを笑っているんじゃない。自分が悪を身にもっているっていうような感じですよね。(中略)なんだか人間そのものって感じがして怖い。
他の観音像はなかなか後ろに周って頭部を見ることができないし、たいていは光背か何かで隠してあります。なので、いままでたくさん観音様を拝してきたのに、観音様にこんなお顔があることを知りませんでした。最近、本で読んだから知ったのだけれど、実物を目にしたら、なかなか衝撃的。表の美しさと裏に隠された醜悪さ。白洲さんが仰る通り、人間の闇の部分をみているよう。自分の内面と対峙しているような気持ちになったこの日でした。
この後は隣接する資料館を見学し、周辺を散策してみました。続きます。