11本目。

 

 

監督:降旗康男

キャスト:高倉健、田中裕子、北野武、いしだあゆみ、田中邦衛、音羽信子、あき竹城、奈良岡朋子、小林稔二、大瀧秀治

 

背中一面に彫られた刺青から"夜叉"と呼ばれた大阪・ミナミの伝説の男、修治(高倉)は、女のためにヤクザから足を洗い、日本海で漁師となって妻子と暮らしていた。ある冬、ミナミから螢子(田中)という女が流れてきて小さな居酒屋を開く。その都会の刺激と香りに満ちた妖しい魅力に男の心が揺れ動く。しばらくして、螢子のヒモでシャブ中のヤクザ、矢島(たけし)が現れる。矢島が漁師仲間たちに覚醒剤を売っているのを知った時、再び修治の中の夜叉が蘇る。~ネットより~

 

1985年日本映画。お隣の町、若狭町がロケ地となった映画ということを最近知り、アマゾンプライムで鑑賞。やくざ映画はあまり好きではないですが、昭和の名優さんたちの豪華なキャスティングにも惹かれました。高倉健さんが浮気してしまう作品って初めて観たかも。それくらい田中裕子さんの魔性の女ぶりがすごい。魔性・・というより、もっとかわいらしい、小悪魔というか。覚せい剤の売人・ヒモ男役たけしさんのキレぶり強烈でした。

 

修治(高倉健)の年齢設定は40代後半くらいなのでしょうか。都会の刺激的な生活から離れ漁師として平々凡々な日常を送る日々。老いを前にして、このまま自分の人生も終わってしまうんだろうか、という焦りにも似た感覚を胸に。この年代の人なら多くの人が抱くような気がします。そんな折に都会の空気を纏う女性が目の前に現れる。そのときの心の揺れが、修治の言葉以外のものからなんとなく伝わってきました。

 

一方で私自身もいまこの隣町に住んでいるので、こうした平凡な日常を送る土地の人の感覚もわかります。全編を通して冬の日本海の様子が描かれます。鈍色の荒れ狂う海、一面の銀世界。非常に美しいと感じます。でも美しい自然のある土地ほど、そこでの生活は厳しいという現実があります。そこでは住人同士が互いに協力し合い助け合わないと生きていけないのです。そんな中に日常をかき乱す人間が入ってきたら・・。やはりこうした土地で異分子的な人間は歓迎されないということを痛感します。

 

美しくしっかりした妻がいるのに・・と思うけれど、男性にとっては妻のその完璧さがどこかで重荷になっているのではないかと感じました。また心のどこかでくすぶり続けていた都会生活への未練、押さえていた想いが蛍子の登場によって炎のように燃え上がってしまう。これはやはり修治、彼自身の物語だと思いました。最後に蛍子は大阪に戻っていきます。ということで、修治の家庭がこわれることはなく、そこに胸をなでおろしました。しかし、ラストシーン、電車の中で修治の子を身ごもったことを知る蛍子の表情に夜叉の顔を見ました。夜叉という題名はこれを意図していたのかと。