コロナ禍一年。去年の今頃、世界中でコロナが広がり始めて、日本でもマスクが店頭から姿を消した時、台湾では近くのどの店舗にマスク在庫があるかがわかるマスクマップを国民に提供し、話題になっていました。ITによる集合知を利用し、合理的に対処することで台湾ではパニックが起こらず、コロナの封じ込めに成功しました。その時の中心的な役割を果たしていた人物として、オードリー・タン氏のことを知り、興味を持ちました。

 

この本は台湾IT担当大臣オードリー・タン氏に20時間のインタビューを行い、編集された一冊。IQ180という天才的頭脳をもつ彼の目からみた今後のITの活用、それが目指す社会の在り方など、素人にもわかりやすくまとめられています。タン氏が語る社会とIT(AI)の今後について、面白いなと思ったのが両者の関係を「のび太とドラえもん」に例えているところでした(日本と台湾で同じ文化を共有していたからこそ出てくる例えですね。)。ドラえもんの存在は決してのび太をコントロールするためではなく、「のび太を成長させること」であるはず、と。AIは人間を脅かす存在ではなくて、社会をより快適で生きやすくするためのツールであるべきだと。

 

年齢、学歴、職業、居住する場所、その他の属性の壁を取り払ったところにイノベーションが生まれるという意見も印象深かったです。日本ではこういう役割をエリートと専門家だけが担っています。異なる角度からの見方を有効に活用してこそ、新たな視座が得られるということを私たちも学ぶべきかと思います。また本来の民主主義とは「少数の意見もとりこぼさないものである」という点も改めて思い出しました。

 

タン氏の視点は社会的な弱者や世の中のマイノリティに対してとても温かい、ということもこの本を読んで感じたことです。これは彼自身の視点なのか台湾社会がそうであるのか、いや、その両方なのかも。なんでも自己責任と切り捨てられる最近の冷たい日本社会と随分乖離を感じます。日本もまねしたら良いのにと思うことがいっぱいありました。「日本と台湾は似ている」と、とても親日的なことを言ってくれていますが、果たして日本の行政がタン氏のような人物を登用するだろうか?と考えてみると、なんかそこからして我が国は遅れすぎてて、やっぱりだめかもと思ってしまいました。

 

この方は世界でもトップクラスの知性をもった方だと思うし、彼の東洋的というかこれまでの西洋の知性とは異なる考え方は日本人にも理解、共感しやすいと思います。日本の隣国にこんな素晴らしい人がいることも嬉しいし、その優れた知見をちょっとでも自分自身の中にも取り入れることができたら、、と思いました。